本誌記事 座談会 デモ&コンファレンス 2025 in 東京 誌上レビュー(前編)

デモ&コンファレンス 2025 in 東京 誌上レビュー(前編)

“CSらしくないCS”成功の秘訣
データを武器に全部門の「ハブ」として機能する

SaaSと非SaaS企業など、カスタマーサクセス(CS)の定義やミッション、業務内容は、業種や組織ごとに異なる傾向が強い。そこで異なるアプローチで成果を上げているCS部門の責任者をパネリストに招き、「成功の条件」を議論。オービックビジネスコンサルタントとアンドエスティHDの“セオリー通りではない手法”に、日本カスタマーサクセス協会の山田ひさのり氏を交え、“CSらしくないCS”のポイントを検証した。

平田 智教 氏
平田 智教
オービックビジネスコンサルタント
営業本部
カスタマーサクセス推進室
室長
宇都宮 英 氏
宇都宮 英
アンドエスティHD
コーポレート本部
カスタマーサクセス部
CS統括 兼 DX推進シニアMGR
山田 ひさのり 氏
山田 ひさのり
日本カスタマーサクセス協会
代表理事

── 一般的なBtoBのSaaS企業とは異なる角度、アプローチで確かな成果を生んでいるオービックビジネスコンサルタント(OBC)の平田さん、アンドエスティHDの宇都宮さんから具体的な業務内容をお聞きし、日本カスタマーサクセス協会の山田さんに見解をいただきつつ議論を進めます。

山田 2社それぞれが、“CSのセオリーから外れた”とも表現できる取り組みを実践していると思います。OBCは、パートナーを介したビジネスを展開しており、CSがエンドユーザーと接点を持ちにくい。一方、アパレル企業のアンドエスティHDは、ステークホルダーが多種多様です。この場合、一般的に担当部署ごとに顧客接点がサイロ化されやすいですが、同社ではDXとAIを武器に全方位的なCS活動を実践しています。両社とも「型にとらわれずに成果を出す」好事例だと思います。

平田 OBCは、基幹業務システム「奉行シリーズ」を提供しています。40年以上の歴史があり、現在はサブスクリプション型のクラウドサービスへと事業を大きく転換しています。今では売り上げの約86%がサブスクリプションで、契約継続率が最重要KPIになっています。

──直販ではなく、パートナー経由での販売です。多くのスタートアップSaaS企業とは大きく異なる環境で、どのような役割と機能を保有していますか。

平田 まさにそこが挑戦でした。ユーザーと直接、コミュニケーションするのはパートナー企業様になるため、私たちCSが前に出ることはほぼありません。そこで、「裏方に徹してデータ基盤を構築する」方向に舵を切りました。ログデータをもとに、ユーザーの利用状況を可視化し、解約の兆候を検知してパートナー様と連携する方法です。

山田 非常に戦略的です。CSといえば顧客にハイタッチで寄り添うイメージが強いですが、発想と役割が根本的に異なっていますね。

平田 そもそも、「ユーザーがなぜ離脱するのか」を把握しない限り、CSは機能しないはず。まずは行動ログを定点観測し、異常値が出ればコール部隊がフォローする。さらに、ユーザー同士が学び合えるコミュニティを構築するなど、接点の幅を広げる取り組みを志向しています。こうした活動は、「顧客状況把握」「オンボーディング」「定着・活用」「自己解決支援」という4つのファンクションで構成し、CSがどのフェーズで何をすべきかを明確にしています。

宇都宮 業種も業態も異なりますが、私たちも「接点をいかに設計するか」には常に悩んでいます。当社は、アパレル業界で多様な顧客接点を持っています。顧客体験をひとつのストーリーとしてつなぎ、向上するには、顧客の声(VOC)とデータ活用がカギになります。

“CSを企業のど真ん中に”

──アンドエスティHDでは、CS部門が「CSを企業のど真ん中に」のスローガンを掲げていますね。

宇都宮 このスローガンを掲げることで、当事者意識を持つ効果を狙っています。ありがちな“後方支援”ではなく、“経営を支える中核機能”と捉えています。顧客データや接点ログを分析し、それを経営判断や商品開発に還元する──いわば、CS部門が「データの翻訳者」となって、企業全体を動かしていく立場を目指しています。

山田 従来のCS像の枠を越えていますね。AI活用も積極的だと聞いています。

宇都宮 AIエージェントの活用によってカスタマーサポートの自動化を進め、スタッフ数を40人から32人に削減しました。また、社内FAQの自動応答にも生成AIを使い、CS部門が他部署をサポートする役割も担っています。

山田 CSが“内と外をつなぐ存在”になり、社内の壁も壊していくことを志向しているのですね。

宇都宮 CSの機能は、「引き算=生産性向上」「足し算=業務の再設計」「掛け算=他部署との協働」で評価されると捉えています。さらに現在はVOCポータルとAIを連携し、LTVを最大化するための仕組みを設計し、推進中です。

平田 (OBCも)クラウドビジネスへの転換をきっかけに、「プロダクトではなくサービスで勝負する」意識が強くなりました。それを担うCSの役割は、プロダクト価値を最大化するための“道筋づくり”といえます。

──おふたりの話からは、“CSの型”そのものが変化していると感じます。顧客と寄り添うのはもちろんですが、企業内で自社プロダクトの価値を高めるための連鎖反応をいかにして構築するかが問われていますね。

山田 これまでCSとサポート、マーケティング、営業などの境界は明確でした。しかし今は、その境界がどんどん「溶けてきている」印象です。顧客体験の向上と成果の最大化を軸に、部門横断で連携する時代に入っています。

宇都宮 そのためにもCS部門は「戦略と現場の橋渡し」の役割が期待されていると考えます。私たちは、現場の声を定量・定性の両面から分析し、社内の他部署や経営層に届ける努力を続けています。

平田 それを支える“仕組み”の構築が必要だと思います。データを起点にパートナーと連携し、顧客の成功に寄与するには、人力だけでは難しく、属人的になっては永続性に欠けます。組織の構造や文化に合わせて、最適なCSのあり方を描くことが重要でしょう。

──後編では「CSを経営に理解してもらう方法」など、実践に即したテーマを掘り下げていきます。

(月刊「コールセンタージャパン」2026年2月号 掲載)

2026年01月20日 00時00分 公開

2026年01月20日 00時00分 更新

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