「カスタマーサクセス」のリソースマネジメント 第3回
カスタマーサクセス向けBPOの活用効果を最大化するには、扱っているプロダクト/サービスの特性、顧客(クライアント)の層、事業(ビジネス)規模、そしてサクセス部門の成熟度──などによって取り組みや意識を変化させる必要がある。分類ごとに検証し、「どの業務を、いつ、どの程度BPOベンダーに委託するのか」を探る。
前回は、CS(カスタマーサクセス)向けBPO導入を阻む3つの懸念材料(品質・ROI・セキュリティ)と、それらを解消するパートナー選定のポイントを整理した。今回はさらに一歩進み、「どの業務を・いつ・どの程度アウトソースすると効果が最大化するのか」を立体的に判断するフレームを検証する。
判断の鍵になるのは、①プロダクト特性、②ターゲット顧客規模、③CS組織が置かれているフェーズ──この3軸の掛け合わせとなる。
まずCS組織のフェーズを整理しよう。人員規模を目安にすると、立ち上げ期(1〜2名)、拡大期(3〜10名)、効率/分業期(11〜20名)、成熟期(20名以上)の4段階に区分される。
立ち上げ期はハイタッチでPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を探りながら、顧客の声を吸い上げる段階といえる。拡大期はオンボーディングを標準化し、解約率の低減に舵を切る。効率/分業期以降はNRR(Net Retention Rate)やアップセル率を伸ばすためにロータッチ/テックタッチを拡充し、成熟期では1人当たりARR(Annual Recurring Revenue)の最大化と新規サービス立ち上げがメインテーマとなる。
次がプロダクト特性。大きく2つに大別される。
<既存業務置き換えタイプ>
顧客が今ある業務フローの効率化・コスト削減を目的に導入するSaaS。オンボーディング内容が定型化しやすくBPOとの親和性が高い。
<新規業務提案タイプ>
これまでできなかった施策を可能にして、新たな価値創出を狙うSaaSが中心。導入後のコンサルティング的伴走が欠かせないため、BPOにも提案力と専門知見が求められる。
最後が顧客規模だ。SMBが中心なのか、エンタープライズが中心なのかで求められるタッチレベルは大きく変わる。3つの軸を組み合わせると、「いつ、どんな業務を外部化できるか」が明確になるはずだ(図)。次に代表的なケースを3分類して解説する。

<SMB×既存業務置き換えタイプ>
スタートアップやSMB向けSaaSが該当する。立ち上げ期から顧客数の急増を想定し、FAQやマニュアルをテンプレート化して標準化を意識する。拡大期に入ると、オンボーディングや契約更新確認など“量は多いが内容が均質な業務”をBPOベンダーに委譲し、社内CSは利用促進施策の改善に集中。機能追加が進む効率期以降は、メルマガ運用やアップセル架電などのリピート業務も外部化し、限られた社内リソースを戦略立案に振り向けるのがセオリーとなる。
<エンタープライズ×既存業務置き換えタイプ>
大企業向けSaaSでは、導入時点で大量のデータ移行や複雑な初期設定が発生しやすい。拡大期にはこの“一時的な負荷”をBPOが肩代わりし、正社員CSは顧客との関係構築や提案活動に専念する。効率/分業期に入ると、定例会で提示する活用データの抽出・レポート作成もアウトソースし、付加価値の高いコンサルティングへシフトする動きが一般的だ。成熟期にはオンボーディング支援自体を有償パッケージ化し、BPOパートナーと協業して提供するモデルも見られる。
<エンタープライズ×新規業務提案タイプ>
データ統合プラットフォームやAI活用ツールなど、導入効果をコンサル的に示しながら顧客をリードする必要があるSaaSが該当する。初期設定に時間はかからないものの、導入直後から「どの施策でどれだけ成果が出るか」を可視化し、施策を伴走する専門人材が必要だ。希少な人材を正社員だけで揃えるのは難しく、拡大期には業務委託や代理店契約で外部調達するケースが増えるだろう。成果責任が曖昧になりがちな準委任よりも、共同KPIを設定した代理店モデルのほうが成功しやすいのがこの象限の特徴といえる。
プロダクトの特性、顧客規模、CS組織の成熟度──この3つを重ね合わせると、「どの業務を、いつ外部化すると最大のレバレッジがかかるか」が立体的に見えてくる。共通するのは、導入時の一時的な負荷と大量・定型業務は、どの象限でもアウトソース効果が大きいという点だ。次回は、BPO活用時によく起こるトラブル事例をさらに深掘りし、失敗を未然に防ぐための詳細チェックリストを検証する。
(月刊「コールセンタージャパン」2025年8月号 掲載)
2025年07月20日 00時00分 公開
2025年07月20日 00時00分 更新