2022年9月号 <インタビュー>

弘子 ラザヴィ 氏

顧客を見極め、育て、導く
“売った後”を担う『カスタマーサクセス』

サクセスラボ
代表取締役
弘子 ラザヴィ 氏

世界最大級のビジネスSNS「LinkedIn」で「将来有望な職種に選定」され、認知度、期待値ともに高まる「カスタマーサクセス」。同分野のエバンジェリスト、人材教育の第一人者とされる弘子ラザヴィ氏に、日本における普及の可能性、従来型の営業およびサポートとの立ち位置の違いについて聞いた。

Profile

弘子 ラザヴィ 氏(Hiroko Razavi)

サクセスラボ 代表取締役

一橋大学大学院卒業後、公認会計士を経て、ボストンコンサルティンググループ、シグマクシスで経営コンサルタントとして活動。2017年、サクセスラボを設立、カスタマーサクセスの教育およびコンサルティングを行う。著書に『カスタマーサクセスとは何か──日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(2019年、英治出版刊)

──米国で普及したカスタマーサクセスが、日本でも注目を集めている背景を教えてください。

弘子 大まかな流れとして、2000年頃にセールスフォース・ドットコムをはじめ、一部の米国企業内に「カスタマーサクセス部門」が登場しはじめました。当然、認知度は低く、設置された目的も企業ごとにバラバラでした。注目されはじめたのは2012年です。米国で金融クライシス、いわゆるリーマンショックが2008年に起こり、多くの企業が淘汰されました。これを切り抜けた企業の経営者らが投資家となり、自らの投資先に「顧客に寄り添い、顧客の成功をサポートせよ」とカスタマーサクセスの必然性を指導したことがきっかけです。

 2013年には、現在、カスタマーサクセスプラットフォームの世界トップシェアとされるゲインサイトが活動開始。「Pulse(パルス)」という世界最大のカスタマーサクセスカンファレンスを開催しました。2015年には米GEがGEデジタルという子会社をつくり、LinkedInでカスタマーサクセス職を千人単位で募集開始。その影響で、Googleのキーワードランキングに入り、話題になりました。2018年には、LinkedInが発表した「Most Promising Job(最も有望な職種」)」の3位に選定され、認知度、期待値ともに高まっています。このように、カスタマーサクセスの歴史は厳密にはまだ10年ほどに過ぎません。現在、従事者数は世界でおよそ25万人と推定されており、営業やマーケターに比べると桁違いに少ないのですが、急速に注目度が高まっている職種です。

ミッション開始は契約後
顧客の売上向上を伴走

──カスタマーサクセス担当者のミッションは何でしょうか。

弘子 企業によって具体的な役割の内容や比重は異なりますが、共通するのは、「契約後のフォローにより解約抑止と既存顧客の売上拡大を目指すこと」です。

 従って、必ずしも部門が存在する必要はありません。セキュリティソフト大手のトレンドマイクロなど、営業部門を中心とした複数組織にそうしたサクセスの役割と責任が付与され、機能している企業もあります。大切なのは、解約抑止や既存顧客からの売上拡大などのロール(役割)が明確であること。リテンション率やチャーン(離脱)率、NRR(Net Revenue Retention:売上継続率)など自社に対するKPIだけではなく、カスタマーの売上高なども成果の対象に含みます。これらは四半期ごとにカスタマーの経営層との戦略会議QBR(Quarterly Business Review)で成果を検証しています。重要なのは、すべてのスタッフが顧客視点を持ち、顧客の成功を理解し、目標値の見直しを共に行うという意識です。

(聞き手・嶋崎有希子)
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2024年01月31日 18時11分 公開

2022年08月20日 00時00分 更新

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