2020年8月号 <特集>

特集扉

事例に見る
「在宅コールセンター」の作り方

Part.1 <現状と課題>

「できない理由」を探すのはNG!
“品質・生産性維持の手段”と捉える

「3密」と指摘されたコールセンターも、ようやく多くの企業が在宅シフトに取り組みつつある。当然、制度やルールの見直し、IT導入など課題も山積しているが、もはや“できない理由”を探す時期は終了した。長期化の様相を呈するコロナ対策、そして長年の課題である人手不足を解消し、品質と生産性を維持するためにも在宅シフトは必須だ。

 コロナ禍を受けて、コールセンターにも在宅勤務制度の導入が一気に進んだ。図1は、コールセンタージャパン編集部が主催したオンラインセミナーの参加者を対象に行ったアンケートの結果だ。4月〜6月、新型コロナウイルス感染予防対策について聞いたところ、ソーシャルディスタンスの確保やノンボイスチャネルへのシフトとともに、在宅勤務制度が急速に浸透したことがわかる。

 図2は、前述のアンケートでリモートワークの対象について聞いた結果だ。「センター長やSVなど正社員のマネジメント職のみ在宅勤務にした」という回答が、約10%ある。IT活用や教育ももちろん重要だが、それらを十分に実施したうえで、最後は「オペレータを信頼する」という判断ができなければ、コールセンターの在宅シフトは不可能だ。

 採用難対策や運用コストは、コールセンターにとってもっとも大きな課題のひとつだ。これらの課題を解消する切り札になりうる在宅勤務制度は、コロナ禍を受けた一過性の取り組みではなく、戦略的な定常活用を検討したい。

図1 自社センターで実施したコロナ対策

図1 自社センターで実施したコロナ対策

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図2 自社センターで実施したリモートワーク

図2 自社センターで実施したリモートワーク

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Part.2 <ケーススタディ>

規模、業務を問わず在宅化できる!
事例にみる「3つの条件」のクリア法

在宅勤務を実践している企業に聞くと導入のポイントは、(1)通信インフラの整備、(2)セキュリティ対策、(3)マネジメントの3つだ。ルーティングや転送など各種コールコントロール機能、セキュリティ、音声品質──すべてを担保して通信インフラを在宅仕様にシフトすることは容易ではない。また、きめ細かいケアマネジメントの必要性も増す。在宅シフトに取り組んだ5社の事例を検証する。

CASE STUDY 1:チューリッヒ保険会社

「止められない顧客対応」を支援する
在宅センターの“お手本事例”

 ダイレクト型の自動車保険などを販売するチューリッヒ保険会社では、緊急事態宣言の発令直後から驚異のスピードで在宅勤務体制に移行し、「最終的にコールセンター全体の95%の業務を在宅対象にしました」と、ダイレクト事業本部 カスタマーケアセンター 大阪オフィス センター長の内田憲幸氏は振り返る。これは2010年初頭から事業継続計画の一環として在宅勤務の実現に向けて取り組んできた成果だ。

 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、2月下旬から本格的に在宅勤務移行への準備を開始し、追加するセキュリティシステムやツール、全体の運用方針を固めた。このような新たな手順や在宅での業務をイメージできるようにするため、ケアスタッフ(同社のオペレータ呼称)には事前に研修を実施。また、通常業務の運用との最大の相違点で、すべての在宅センターで課題となっているケアスタッフのフォロー体制も整えている。

 実施後のES調査では「在宅勤務移行の決定に支持しますか」の質問に対し99%が「はい」と答えるほど、ケアスタッフの満足度は高い。在宅勤務へシフトした効果はビジネス面でも顕著に表れている。自動車保険市場における最大のピーク期は春だが、このコロナ禍においても、4月の新規契約の契約数は新記録を達成。

 緊急事態宣言が解かれた現在、東京・大阪・長崎の3拠点ではオフィス所在地の地方自治体の要請を見ながら、オフィスでの3密を避けるようにして、一定割合の社員が出勤するテスト運用をしている。今後は出社/在宅に関わらずチャット接続の体制を継続するなど、この数カ月の経験を活かしたハイブリッド型の運用で、柔軟に対応する方針だ。

CASE STUDY 2:ベルトラ

「コールセンター発」で全社テレワーク化
“仕組み”だけでなく“信頼”が成否を分ける

 マリンスポーツ、ワイン、エコツアーなどの体験型オプショナルツアーを提供している旅行会社であるベルトラ。プランのカスタマイズから、キャンセル、現地の様子についての問い合わせまで、顧客の要請や疑問に応えているのがカスタマーサービス部門だ。在籍オペレータは40名で、およそ9割がメール、1割が電話で問い合わせに対応している。

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、3月よりカスタマーサービス部門は全面的に在宅勤務へ移行した。

 主な品質管理指標は週次で集計している「トランザクションNPS」。これは、問い合わせをした顧客に、そのブランドやサービスの推奨度を聞き、スコア化した指標だ。

CASE STUDY 3:生活総合サービス

生産性向上の一方で見えた課題
「職場の雑談」効果のフォローを模索

 健康食品や化粧品の通販サイト「ていねい通販」を展開する生活総合サービスは、本社のある大阪で自社運営する他、40席規模のセンターを札幌でアウトソーシングしている。大阪センターは、SVを含め約30人が在籍し、全員、正社員とアルバイトの直接雇用だ。

 同社は、緊急事態宣言を受けてから1カ月強で、委託先も含めて100%リモートワークできる環境を整えた。

 カスタマーサービス部リーダーの奥条達也氏は、「在宅勤務という環境で、センターの強みである発想力やお客様のために1人ひとりが考えて行動する実行力をどのように活かし、コミュニケーションの質を高めていくか、今後も模索していきたい」と意気込む。

CASE STUDY 4:ロイヤルカナン ジャポン

在宅時でも「全員の状況」を可視化・共有
秘訣はオフィス同様のコミュニケーション体制

 ペットフード大手の一角、ロイヤルカナン ジャポンは、多くの獣医師がスタッフとして在籍するコールセンターを擁している。マネージャーの武者昌彦氏は東京オリンピックを見据えてかねてより在宅システムを準備しているところだった。

 緊急事態宣言発令直前には、在宅勤務で必要になるPCやヘッドセットなどの備品の手配などがほぼ完了しており、発令後に本社の決裁が下りると同時に移行を完了した。

 在宅移行した当初は、一時的に電話対応を休止し、メール対応のみで運用していた。在宅で電話対応を開始したのは4月26日。コムデザインのクラウドCTIシステム「CT-e1/SaaS」を導入し、在宅コールセンターの環境を整えた。再開してからはすぐに、コール量が在宅以前の水準まで回復。再開当初は、情報共有とエスカレーションに課題が生まれた。

 運用のポイントは、「すべて従来通りに業務をこなすことは不可能と割り切り、優先順位を明確化したこと」だと武者氏は語る。優先したのは、「顧客への対応品質の維持のために、現場スタッフが混乱しないこと」(武者氏)という、従業員体験(EX)だった。

CASE STUDY 5:サイボウズ

組織と会社の垣根を越えた
ベンダーマネジメントで在宅勤務を支援

 グループウエア「サイボウズ Office」「KINTONE」などを提供するサイボウズは、問い合わせ対応の一次受け付け業務を主に愛媛県松山市のオフィスで、業務委託を活用し運営している。

 政府が「春休みまで臨時休校」とするように要請したタイミングである2月28日より同社は在宅推奨にシフトしたが、コールセンターの在宅化には踏み切れなかった。

 4月17日、緊急事態宣言の全国への拡大を受けて、コールセンターのあるオフィスでは原則出社禁止に移行。本部内協力体制が発動し、管理職を含めた東京オフィスのメンバーも顧客対応のサポートにまわることとなった。センターはこの段階で電話のサポート窓口を閉鎖し、メール対応のみを在宅で開始。当初は、東京オフィスのスタッフとSVのみで対応していたが、電話窓口を閉鎖したことによりメールが従来比で3〜4割も増加。対応が間に合わず、急遽、委託先の全60名を対象に、セキュリティや在宅環境についてアンケートを実施し、移行の可能性を探った。結果、半数にあたる約30名が条件をクリアし、在宅でのメール対応を行った。