藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第7回

拡大する「カスタマーサクセス」の概念

Trend 連載

非SaaS、BtoC事業者も導入開始!
拡大する「カスタマーサクセス」の概念

従来、SaaS企業などIT業界のスタートアップ独自の取り組みと認識されてきた「カスタマーサクセス」。しかし今や非SaaS業界や大手ITベンダー、さらにはBtoC事業を行う企業をはじめ、多様な業界に広がりを見せている。今回は、実際に適用しつつある事例から、カスタマーサクセス部門がどのような業界・業種に適用され得るのか、今後の可能性を探る。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、Twitter、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 カスタマーサクセスは、SaaS/クラウド企業から生まれた概念だ。オンプレミス型のソリューションのように納品時の一括請求ではないモデルのため、解約を防ぎ長期契約を促す取り組みが必須となる。その実行部隊としてカスタマーサクセス部門が登場した。

 現在、SaaS/クラウド企業の多くがカスタマーサクセス部門を設置している。具体的には、パッケージやASP(アプリケーションサービスプロバイダ)としてERPや各種のツールを提供したきたベンダーから、新興スタートアップのSaaS企業が多い。例えば、ASPでネットショップのカートシステムを展開してきたある企業は、カスタマーサクセスという名称が登場する以前からカスタマーサポートや法人営業部門に「カスタマーサクセス的な機能」を担っていた。

 近年は、SI企業がオンプレミスからクラウドに事業の主軸転換を図る動きが活発化している。そのため、大手・中堅のSIを中心にカスタマーサクセス部門を設置する動きも見られるようになった。当社でも、大手SIからコンサルティングや勉強会を依頼される機会が増えている。自社で新規事業として開発したクラウド系の事業や、OEMとして販売しているSaaS製品の事業部門にカスタマーサクセス組織を作り、契約の維持や拡大を促しているケースが多い。このほか、自社のITコンサルティングのメニューとして「カスタマーサクセス」を訴求する企業も登場している。

 また、自動車、機械、化学などの非IT系のメーカーにおいてもカスタマーサクセス部門を導入、あるいは検討する動きが見られる。従来、提供してきた既存顧客向けのサービス、例えば会員制サイトやメールマガジン、コミュニティなどをカスタマーサクセス部門の管轄に移管したり、営業企画やCRM部門をカスタマーサクセスに名称変更するケースがある。あるいはDX化の流れからSaaSの新規事業をつくり、カスタマーサクセス組織を組成するケースもある。

BtoC領域にも拡張するCS

 とくにBtoC企業の中でも、高単価サービス(英会話、トレーニング/スポーツ、転職相談/結婚相談など)においてもカスタマーサクセス部門を立ち上げる動きがある。これらに共通するのは、高単価の会費制サービスであり、契約期間の長期化やプランアップが経営貢献に直結する点だ。英会話やジムトレーニングなどはユーザーが挫折、離反しやすいサービスだ。はじめの3カ月はモチベーションが高くとも、多忙で足が遠のいたり、結果が実感できないなどの理由から退会に至るケースが非常に多い。高単価であるがゆえに価値をきちんと感じてもらわなければ損をした気持ちを抱かせてしまう。そこでカスタマーサクセスの施策を組み込み始めているわけだ。

 カスタマーサクセスには、大きく分けると利用始めの「オンボーディング」、利用が習慣的になる「アダプション」、契約が拡大する「エクスパンション」と3つのカスタマージャーニーが存在する。そしてこれは、BtoCのサービスでも適用可能だ。従来、サービス提供コンシェルジュやスタッフ、カスタマーサポート部門が行ってきた部門名を「カスタマーサクセス部門」に変更、こうした取り組みを明確化する企業が増えている。

 あるヨガスタジオも、ヨガのトレーナーのチームを「カスタマーサクセスチーム」と呼称している。ヨガは健康促進やシェイプアップ効果などが期待できるが、こうした「期待効果にコミットする」意味で、言い得て妙のネーミングと捉えられているようだ。同じ意味で、ジムのトレーナー、英会話の講師、結婚相談や転職相談のコンシェルジュ、美容サロンのエステスタッフなど、専門的なアドバイスやサービスを提供する事業には適合しやすい。

販売代理店やフランチャイズでの活用

 販売代理店やフランチャイズにおいても今後、カスタマーサクセスが増えていくと推察される。具体的には、IT製品を扱う商社やコンサルティング事業、広告代理店、法人営業の代行事業、家電量販店や小売店などだ。自社の製品を第三者に販売してもらう際、「この製品はこのように説明してほしい」「このような販売方法が望ましい」と伝える案内やチャネル育成は、カスタマーサクセスの事業モデルに沿って行われていくだろう。

 先日、フランチャイズビジネスを展開する企業の役員から「自社の加盟店育成をカスタマーサクセスの考えで行いたい」と相談があった。複数の加盟店に、自社が定めた効果的なルールや手法で仕事を進めるのは「カスタマーサクセス」的な業務といえる。

 また、メーカーの営業企画部門から「小売店に対するルートセールスをカスタマーサクセス的な発想で効率化できないか」という相談も受けた。小売店各店舗の売り場改善を行うルートセールスを、カスタマーサクセス的なコミュニケーションで実現できないかという相談だ。売り場で販促物を効果的に使ってもらい、製品の訴求方法を伝えていく。これもカスタマーサクセス部門のコミュニケーションスタイルに近い。

 さまざまな領域で活用されはじめているカスタマーサクセスの概念や思想だが、今後さらに従来の区分や垣根を超えて、さまざまな領域で応用されていくことに期待したい。

図 カスタマーサクセスに取り組んでいる企業は?

図 カスタマーサクセスに取り組んでいる企業は?

※画像をクリックして拡大できます

(2023年5月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年04月20日 00時00分 更新

おすすめ記事

その他の新着記事