本誌記事 ケーススタディ アンドエスティHD

アンドエスティHD

「効率化・価値創出・LTV最大化」
“三位一体”戦略がもたらすCS部門の成果

実店舗とECを融合したブランド戦略を展開するアンドエスティHD。同社のカスタマーサクセス部は、戦略的部門として複数の部門にまたがる形で生成AIやチャットを運用、VOC分析なども担う。2026年には、生成AIを強力に推進する「AXチーム」を新設する予定もある。デジタルツールによるCX設計を軸とした“次世代型CS”を確立すべく、LTV最大化や社内業務の高度化にも貢献する。

 アンドエスティHDは、アパレル・雑貨などのブランドを展開するアダストリアや、エレメントールなど複数社により構成されるグループ会社だ。
 55を超えるブランドを、国内外に約1600店舗展開する。

 実店舗や自社EC「and ST」を運用し、EC会員は1970万人となる。この、広範な事業基盤と多様な顧客接点を支えているのが、同社のカスタマーサクセス(CS)部だ。同部は、「引き算・足し算・掛け算」の“三位一体戦略”を掲げる。

 コーポレート本部 カスタマーサクセス部CS統括 兼 DX推進シニアMGRの宇都宮 英氏はその意味について、「AIの活用や業務自動化に加え、人的要素のECRSによる業務負荷の削減が“引き算”。チャットチャネルを軸とした新たなCSコンテンツの設計・VOC(顧客の声)活用やBIレポート作成といった新たな価値創出が“足し算”。そしてLTV(顧客生涯価値)最大化を狙ったマーケティング連携が“掛け算”」と説明する。

 なかでも、VOC活用は中核を成す取り組みだ。実店舗の接客評価やWeb接客ログ、アンケート結果といった各種データを、AIでレポーティングし、他部門との連携による施策改善にもつなげている。社内の関係部署との“ハブ役”も果たしながら、部門横断による価値創出を図っている点も特徴といえる。

コーポレート本部 カスタマーサクセス部 CS統括 兼 DX推進シニアMGR 宇都宮 英氏
コーポレート本部 カスタマーサクセス部 CS統括 兼 DX推進シニアMGR 宇都宮 英氏

AI促進強化に
AXチームを発足

 現状、約30名がCSとカスタマーサポートを担い、単なる問い合わせ対応にとどまらず、CX向上と事業成長にも役割を果たしている。

 のとおり、実店舗を担当する「SSチーム」、ECを担う「ECチーム」、チャットチャネルを軸に業務効率化とテクノロジー推進を掌握する「DXチーム」がある。来年には、DXチームの機能を拡張した「AXチーム」が発足する予定だ。

図 CS組織図
図 CS組織図

 DXチームは、チャットの立ち上げと無人化、生成AI推進をリードしている。チャットの利用率は全体の約32%に達し、そのうち95%はAIによる無人対応だ。AIエージェント化にもふりきり、有人チャットはサービスを停止している。完全無人化に切り替える過程では、顧客からのクレームは皆無だったという。「2025年度のCSのテーマは“テクノロジーの利活用”でした。メール対応にはCopilot、チャット対応のAIエージェント化、生産性を可視化するWFMなど、さまざまなカテゴリにAIを活用し始めています」(宇都宮氏)。

 なお、設立予定のAXチームは、AI/MLの実装と活用、BIレポートの自動生成、オンボーディング支援、CRM連携、VOC分析、FAQ整備、さらには部門横断でのデータ利活用などを担うという。特定の業務改善にとどまらず、CX全体の設計と最適化に責任を持つ、戦略的な中枢チームとしての役割を期待されている。社内外のステークホルダーを横断する“体験の統合デザイン”を推進する方針。「従来の顧客接点にとどまらず、サービス開発や事業戦略にも深く関与していきたい」(宇都宮氏)。

 同チームの立ち上げは、全社的な価値創出構造の再設計にも直結しそうだ。CSに蓄積されたVOCデータをプロダクト開発やUI/UX改善、さらにはマーケティングオートメーションの入力データとして利活用する構想もある。

 各部門との連携にも余念がない。DX部門やデータインテリジェンス部門と密に連携しながら、FAQやチャットボットの精度向上、VOCポータルの開発、AI学習データの整備などを進めている。「Webを改修したいグループ企業があれば、そのヘルプセンターのUI改善を含めたオンボーディングを担当します」と宇都宮氏。チャットなどの回答精度向上には、アンケート結果や行動ログ、問い合わせの分類などを分析したうえでの設計がされており、グループ全体のCXをデザインする屋台骨といえる。

 仕組みの実装では、現場との共創を重視している。“顧客にとって意味のある価値はどこにあるのか”“業務効率化が従業員にとってどのようなインパクトをもたらすのか”など、定性・定量の両方の観点をバランスよく設計し、段階的に現場へ導入し改善活動もフォローする。宇都宮氏は、「自己解決率の向上やチャットボットの無人化といった業務効率化は、あくまでCX向上の手段であり、目的ではありません」と強調する。

 AIチャットやFAQ改善、VOCレポート、BI分析、CRM連携といった施策を通じて、定量的な成果は着実に蓄積されつつある。また、顧客満足度や従業員の業務負荷軽減といった質の面でも手応えを感じているという。現在は、CSの根幹である顧客満足度や生産性のAHTに加え、自己解決率やリリース数、利用率などが評価軸だ。しかし今後は、LTVやリテンション、CVRなどのマーケティング指標と連動した統合評価の導入も視野に入れる。サポートとサクセスが一体となる組織ならではの強みを生かし、顧客とサービスの継続的な関係性構築を図っていく方針だ。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年12月号 掲載)

2025年11月20日 00時00分 公開

2025年11月20日 00時00分 更新

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