クレーム対応のレシピ 第12回

「承知しました」では通用しない!
顧客を納得に導く“気の持ち方”


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 「コールセンターで勤めている」と人に言うと、「ストレスでたいへんでしょう」と返されたことはないだろうか。コールセンターの仕事を敬遠する人の理由もまた、「そんなストレスが溜まる仕事は……」という反応が多い。

 確かに、人間対人間の仕事にストレスはつき物だ。とくにクレーム対応は、すでに不満やストレスを抱えている顧客の対応であるため、ストレスレスにこなすことは難しい。また、どんなにベテランの応対者であっても、同じやり方でいつもうまくいくとは限らない。大クレームに発展し、応対者にも大きなストレスが残ることは少なくない。だが、これは仕方がないと言えよう。逆に、何のストレスも感じない人がいるとしたらその感性の方がよほど怖い。大ヒットしたTVドラマ“家政婦のミタ”のミタさんのように、ストレスを感じることもなく「承知しました」とあらゆる要求を受け入れる方法は、クレーム対応では通用しないのだ。

 近年は、自動応答や音声認識の技術がずいぶん進み、近い将来には、よくある問い合わせはすべて機械が自動処理してくれる時代になるかもしれないと思えるほどになった。機械が「承知しました」と返すだけの顧客対応は、そのうち一般的になるかもしれない。しかし、そうした中でもクレーム対応だけは人間が行わなければならない仕事として残るだろう。なぜなら、顧客が抱える心理的不満は、その心理を理解できる人間にしか解消できないためだ。

 物理的な問題は、時間と手間を惜しまなければ必ず解決することが多いが、心理的な問題は、解決不能に陥ることもしばしばある。もつれた糸をほぐす作業は、機械にはできない。顧客に与えた心理的不満をできるだけ解消し、“納得”というゴールに導くことは、同じ人間だからこそできることなのだ。

 クレーム対応はストレスがつき物であることは確かだが、そのストレスを抱えたままではいけない。落ち込んだ気持ちを引きずったまま応対に向かうと、次の顧客に迷惑をかけることになる。打率の高いバッターは、三振しても、落ち込んだ気持ちを次の打席には引きずらない。役者の世界では、「舞台で起きたことは舞台で取り返せ」という。これは、「失敗事例を忘れろ」ということではない。失敗に対する反省は必要だ。反省とは、後悔ではなく、次への対策である。反省をきちんとしながらも気持ちを切り換えて次に臨むことが大切であり、トラウマを作ってはいけないということだ。

 厳しいコールに落ち込んだときは、スイッチをすぐにOFFにすることを心がけてほしい。「明日があるさ」の楽観主義が必要なのだ。

 クレーム対応によって得られるものは、ストレスだけではない。人間対人間の会話は、大きな充実感も生む。クレーム応対の世界は、実は魅力的で面白いものなのだ。


(コンピューターテレフォニー2012年3月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時47分 更新

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