AI時代に残る“正解のない応対” 「判断力」の磨き方 第3回

2026年11月号 <AI時代に残る“正解のない応対” 「判断力」の磨き方>

武居正子

実践編

第3回

「教え方」から「伝わり方」へ
思考タイプで変わる育成とマネジメント

同じ研修を受け、同じマニュアルを使っていても、応対や成長には差が生まれる。その背景にあるのが、情報の捉え方や理解の進め方といった「思考タイプ」の違いだ。AI活用によって人が担う応対が複雑化するなか、求められるのは正解を教え込むことだけではない。1人ひとりが「なぜそう判断したのか」を捉え、対話を通じて判断力を育てる。これからの現場マネジメントに必要な視点を考える。

PROFILE
Last One Mile代表
武居正子
コンタクトセンター業界で30年以上にわたり、センター運営、品質改善、人材育成に携わる。現在は大手メーカーのコンタクトセンター運営支援やナレッジ整備をはじめ、AI時代の現場の判断と人材育成をテーマに、企業支援、執筆活動を行う。

 前回、同じ研修を受けていても対応に違いが生まれる背景には、思考タイプの違いがあるという話をした。同じ説明を聞いていても、どこに注目するのかは人によって違う。構造や手順から理解する人もいれば、会話の流れや相手の反応から理解する人もいる。現場を見ていると、その違いは応対の中に自然と表れている。

 では、その違いに現場では、どう関わればよいのだろうか。

 コンタクトセンターでは、同じマニュアルを使い、同じ説明を受けながら業務が進んでいく。それでも、対応の仕方や成長のスピードには差が出る。

「できない」の前に理解の違いを見る

 同じことを伝えているはずなのに、すぐに理解できる人もいれば、なかなか行動に結び付かない人もいる。現場では、この違いが日常的に起きている。

 例えば、構造や手順が整理されることで理解が進む人もいる。一方で、実際の会話の流れや具体的な事例を通じて理解が深まる人もいる。

 この違いを前提にすると、「どう教えるか」よりも、「どう伝わっているか」に目が向くようになる。

 その視点を整理すると、図1のようになる。デジタル思考とアナログ思考は理解しやすい方法や有効な学習方法、課題になりやすい点などに違いがある。どちらが優れているという話ではない。現場を見ていると、それぞれの強みが違う場面で発揮されている。気になるのは、その違いが「できる」「できない」で、語られてしまうことである。

図1 思考タイプ別育成アプローチ
図1 思考タイプ別育成アプローチ

 同じフィードバックを受けても、すぐに変化につながる人もいれば、どう動けばよいのか迷ったままになる人もいる。例えば、「もう少し寄り添ってみましょう」というフィードバック。ある人には、具体的な行動として伝わる。一方で、ある人には少し曖昧な言葉として残る。

 同じ言葉を聞いている。ただ、受け取り方が違う。その結果として行動にも差が出てくる。

 現場では、こうした違いを能力の差として捉えてしまうことがある。ただ、実際には理解の仕方の違いが影響している場面も少なくない。

判断の理由を引き出す育成へ

 最近は、オペレータが判断に迷う場面も増えている。例えば、お客様の要望に応えたい気持ちはあるものの、ルール上は対応できないケースである。説明としては正しい。それでも、そのまま伝えると関係性が崩れてしまうことがある。少し言葉を変えることで納得につながることもある。

 一方で、配慮しすぎることで判断基準が曖昧になることもある。どこまでが配慮で、どこからが逸脱なのか。その境界は、簡単には決められない。オペレータは、正しさと関係性の間で判断している。そして、その判断は外からは見えにくい。

 実は、マネジメントする側も同じである。任せれば対応のばらつきが出る。一方で、揃えようとすると現場の柔軟さが失われる。どこまで任せるのか。どこまで支えるのか。そのバランスを取り続けることも、マネジメントの仕事になっている。こうした状況の中で、育成の関わり方も変わり始めている。これまでのように、「正しい対応を教える」だけでは対応しきれない場面が増えている。代わりに増えているのが、「なぜそう判断したのか」を一緒に振り返る関わり方である。応対レビューでも、問いの立て方によって見えるものが変わる。構造を重視する人には、「どの情報が不足していたのか」「説明の順序は適切だったのか」といった問いが整理につながりやすい。

 一方で、関係性を重視する人には、「お客様はどう感じていたと思うか」「どこで会話の流れが変わったのか」といった問いの方が振り返りにつながりやすい。実務では、応対を次の二つの視点で分けて見ると整理しやすい(図2)。

図2 応対レビューの2つの視点
図2 応対レビューの2つの視点

 この2つを分けて見ていくと、「何が起きていたのか」を言葉にしやすくなる。チームの中を見ても、構造を整えることが得意な人もいれば、感情の変化を自然に捉える人もいる。それぞれの違いが別の場面で機能している。AIの活用が進む中で、人が対応するケースは、より複雑なものへと移っている。そのときに問われるのは、正しい答えを知っているかどうかだけではない。

 どのように判断したのか。なぜその言葉を選んだのか。そこに、目を向ける場面が増えている。判断は、一度教えれば身に付くものではない。振り返りや対話の中で少しずつ形になっていく。そのプロセスに、どう関わっていくのか。それが、これからのマネジメントに求められる役割のひとつになっているように見える。

 コンタクトセンターでは、毎日多くの判断が行われている。その判断は、どこまで個人に委ねられているのか。どこからが組織として支えられているのか。現場を見ていると、まだ言葉になり切っていない判断が残っているように感じる。次回は、その判断をどこまで言葉にできるのかという視点から考えてみたい。

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会員限定2026年10月20日 00時00分 公開

2026年10月20日 00時00分 更新

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