わたちゃんのかすたま~えくすぺりえんす 第141回

2026年11月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

渡部弘毅

コラム

第141回

コミュニティが顧客をつなぎとめる時代

 健康目的で通い始めたスポーツジムのヨガ教室に、気づけば「仲間に会いに行く」ために通っている、わたちゃんです。レッスン前の雑談、終了後のストレッチ中のおしゃべり、インストラクターの先生との近況報告。正直に言えば、ヨガのポーズが上達しているかは怪しいのですが、この教室をやめるという選択肢はもはや存在しません。だって、やめたら「あの仲間との時間」を失うことになるのですから。

 この「やめられない理由が、サービスそのものではなく仲間にある」という現象は、実はビジネスの世界で今、最も注目されているテーマのひとつです。製品やサービスだけでは差別化が難しくなった時代に、「コミュニティへの帰属感」が顧客ロイヤルティの新たな源泉として浮上しているのです。

 最も有名な事例は、ハーレー・ダビッドソンです。バイクオーナーが結成する「H.O.G.」は、世界中に100万人以上の会員を擁する巨大コミュニティ。会員はツーリングイベントやカスタムの情報を共有し、「ハーレー乗り」という共通のアイデンティティで結ばれています。同社のバイクは決して安くありませんが、彼らが他メーカーに乗り換えない理由は、バイクの性能以上に「この仲間と離れたくない」という帰属感にあるのです。

 日本でもコミュニティの力を生かした事例が増えています。カゴメの「&KAGOME」は、ファン同士がレシピを共有し新商品のアイデアを出し合う場です。ワークマンは、アンバサダーと呼ばれる熱心なファンに新製品を先行提供し彼らのリアルな使用感をSNSで発信してもらう「共創型マーケティング」を展開しています。いずれも、企業と顧客が「上下関係」ではなく「仲間」として結ばれることで、通常の広告では到達できない深い信頼関係を構築しています。

 コミュニティがロイヤルティを生む理由は、心理学でいう「社会的アイデンティティ理論」で説明できます。人は「自分が所属するグループ」に愛着を持ち、その一員であることに誇りを感じます。「ハーレー乗りの自分」「カゴメファンの自分」という社会的アイデンティティが形成されると、ブランドを離れることは「自分のアイデンティティを否定する」ことと同義になるのです。

 ということで、先日のヨガ教室では、レッスン後に仲間と近所のカフェでお茶をして、気づけば2時間も話し込んでいました。思い返すとヨガ自体は正味60分、おしゃべりは2時間。完全に目的と手段が入れ替わっています。でも、あのジムのオーナーはきっと分かっているはず。僕のような「ヨガの腕前は伸びないけど、退会もしない最高の顧客」を生んでいるのは、設備でも料金でもなく、あの教室に自然と生まれた「仲間の空気」なのだと。インストラクターの先生、いつもありがとう! 身体はあまり柔らかくないけど、心はだいぶ柔らかくなりました!

図 コミュニティの4つの型
図 コミュニティの4つの型
PROFILE
ISラボ 代表
渡部弘毅
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
著書『ファンをつくる顧客体験の科学 「顧客ロイヤルティ」丸わかり読本』(2023年11月、リックテレコム刊)
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す

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会員限定2026年10月20日 00時00分 公開

2026年10月20日 00時00分 更新

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