AIとサポートの価値

2026年9月号 <Discussion/座談会>

座談会 <AIとサポートの価値>

サポートの価値はどこへ向かうのか
AI時代の体験設計とKPI再定義

生成AIの活用が進み、顧客は企業に問い合わせる前に自ら情報を得るようになっている。そのため、コンタクトセンターやカスタマーサポートの役割や価値の示し方も変化しつつある。AI時代に、サポートはどのように進化すべきか。体験設計とKPI再定義の観点から議論した。

<パネリスト>(順不同)

渡部 弘毅 氏
渡部 弘毅
ISラボ
代表
宇都宮 英 氏
宇都宮 英
NOT A VINTAGE
OWNER

<モデレータ>

大貫 竜平 氏
大貫 竜平
メルカリ
Partner Support, Customer Service Senior Manager

大貫 顧客は企業に問い合わせる前に生成AIへ相談し、情報を集めることが当たり前になっています。顧客が最初に接触する相手が、コンタクトセンターのオペレータではなくなっている。その変化を、企業は意識する必要があります。

 従来は、AHTや応答率など、効率化中心のKPIでコンタクトセンターは設計されてきました。経営層に至っては、コストセンターを前提とした事業計画を組み、オペレーションも人に依存しながらの標準化と効率化が追求されてきました。しかし、その延長線上で、コンタクトセンターの価値を証明し続けられるのでしょうか。問い合わせの前段階で生成AIによる自己解決が進めば、人が対応する接点に届く問い合わせの性質も変わります。単純な確認や定型的な質問は減り、顧客自身では判断しきれない問題、複数の事情が絡む相談、感情面の不安を含む問い合わせが残る可能性が高い。今後、カスタマーサポートは対応から体験設計へシフトし、サポート、サクセス、顧客体験(CX)は統合的に捉えられていくのではないかと考えています。

宇都宮 私自身、アパレル業界で販売や店長、マーケティング、カスタマーサクセス、カスタマーサポートなど、広く携わってきました。その中で感じているのは、サポートの役割は守りだけではなくなっているということです。今後のAIエージェントの普及によって、単体の困りごとの相談は自動化されていく。その一方で、サポートは顧客接点を増やし、ブランドのファンにつなげていく役割を担う必要があると思います。

 今後の顧客体験は、チャネル、コミュニケーション、オペレーション、データのあり方が大きく変わります。これまでは、顧客がFAQ、メール、チャット、電話といった問い合わせ手段を自ら選んでいました。しかし今後は、ボイスボット、チャットボット、メールがシームレスにつながるマルチモーダルな体験へ移行していく。顧客は、問い合わせ手段を意識せず、自然な形で企業とつながるようになるでしょう。それに応じて、コミュニケーションの価値も変わります。誰にでも聞けるオープンな情報は、AIで取得しやすくなります。その一方で、「この人、この場でしか聞けない」というクローズドな関係性の価値が高まる。情報が多すぎる時代だからこそ、信頼できる相手から得る情報や、そのブランドだからこそ提供できる体験が重要になると見ています。

渡部 情報があふれる時代になるほど、“誰が言っていることなのか”“誰から聞くのか”が重要になるということですね。AIがあらゆる情報を集めてくれるが、そのぶん、信頼できる人や場から得る情報の価値が高まる。この変化は、コンタクトセンターにとってもチャンスになるのではと思います。

宇都宮 さらにオペレーション面では、例えば現状、人が8割、AIが2割を担っている状態だとしても、将来的にはその比率が逆転する可能性もあります。だからこそ、サポートだけをしていると、選択肢が狭まる時代になるかもしれません。人が担うべき2割は何なのかを考え、そこに価値を見出すべきでしょう。単に問い合わせに答えるのではなく、顧客に選ばれるための体験を設計する。サポートからサービスへ、さらにブランドや事業に貢献する機能へ変わっていくべきです。

AIとVOCを活用
顧客のつまずきを察知する

大貫 AI時代には、人の仕事が減ることに関心が集まりがちですが、その裏側を設計する仕事はむしろ増えると思います。例えば、購買履歴や行動ログから、必要な商品や情報をAIが予測して提案する世界が来るとします。そこでは、店員やサポートが担っていた役割の一部をAIが代替します。しかし、その体験をどう設計するか、どの接点で人が関わるべきかを考える仕事は残るでしょう。

宇都宮 サポートが注力すべき方向は、大きく2つあります。1つはAIエージェント、もう1つは顧客の声(VOC)です。AIエージェントで対応できる領域を広げ、同時にVOCを収集や分析する範囲も広げる。これらをつなげることで、サポートの価値は広がります。

 私は以前、VOCポータルの構築をしたことがあり、1年半ほどの期間を要しました。購買後のアンケートや問い合わせ内容から、店舗やWebの課題を分析し、改善につなげる仕組みです。従来は、レポートを作成し、関係部署に共有し、会議で課題を確認してから施策化していました。そこには時間も手間もかかります。しかし現在は、生成AIや開発支援ツールの進化によって、同じような仕組みを短時間で作ることが可能です。顧客がどのページで迷ったのか、どの項目に不満を持ったのか、応対履歴や行動データから把握できるようになる。アンケートで「このサイトは見づらいですか」と聞くだけでなく、滞在時間やチャットでのやり取りから、迷いを察知できる世界が近づいています。

渡部 これまでコールセンターには、顧客の生の声が入っていると言われてきました。しかし、問い合わせをしないサイレントカスタマーの声をいかに捉えるかが課題でした。そのためにアンケートを取ってきたわけですが、今後はAIエージェントや行動ログによって、顧客がどこでネガティブな体験をしているのかを把握しやすくなるでしょう。サイトに長く滞在しているのは興味があるからなのか、分かりにくいからなのか。チャットや音声の応対履歴、購入前後の行動データがつながれば、顧客の迷いや不満をより立体的に把握できます。VOC活用のあり方も激変すると考えます。

大貫 顧客接点ごとにログが紐づき、応対履歴や行動データ、購買データがつながれば、サポートが見るべき対象は「問い合わせ後」だけではなくなります。(顧客の)接触する以前の体験も含めて設計する必要があります。VOCは、単なる苦情や要望の記録ではなく、顧客体験を改善するための設計情報になっていくのだと思います。

KPIを測定する意味
効率価値だけでは測れない

大貫 AI時代のサポートの価値は、3つに分類できると考えています。1つめは「効率価値」です。コストやスピード、AIの一次解決率、エスカレーション率、1件あたりの解決コストなどが該当します。2つめは「体験価値」です。顧客がどこかで迷っていないか、AI接点でCXスコアがどう変化したか、オペレータへの流入が多いのか少ないのか。対応後の満足度だけでなく、接触前の体験設計を評価するKPIが必要になります。3つめは「関係価値」です。サポート接触後にLTVがどう変化したか、VOCをもとに改善した施策が売り上げやリピートにどうつながったか。こうしたロイヤルティへの寄与を見る必要があります。

 従来はAHTの短縮や生産性を上げることが重視されてきましたが、今後は、「価値ある解決の割合」をいかに増やすかが重要になります。AIで効率化した時間を、体験価値や関係価値への投資に回す。CSはなくなるのではなく、役割の重心が変わり、体験設計の司令塔になっていくのだと思います。

宇都宮 AIエージェントのKPIでは、解決率だけでなく、AI対応への満足度も重要です。解決率が高くても、満足度が十分でなければ体験価値は高まらない。AIで自動化できたかどうかだけでなく、その体験が顧客にとって良かったのかを見なければならない。AIエージェントは、導入した瞬間に完成するものではありません。顧客との応対履歴を見ながら、どの質問で迷っているのか、どの回答に不満が残るのかを改善し続けるべきです。自動化率だけを追うと、顧客にとっては不自然な体験になってしまう。満足度や体験価値の指標とセットで運用することが重要です。

渡部 効率価値、体験価値、関係価値は、これまでも重要だと言われてきました。ただ、現場では応答率やつながりやすさといった効率価値が優先され続けてきた面もあります。生成AIによって効率化が進むことで、ようやく体験価値や関係価値に重心を移せる時代が来るのかもしれません。

将来のコンタクトセンター像
「デジタルおもてなしセンター」

渡部 私からは、将来のコンタクトセンター像として「デジタルおもてなしセンター」を提示します。コンタクトセンターの価値は二極化すると説明してきました。1つは、迅速性や正確性を高めるエフォートレス型サービス。もうひとつは、共感性や柔軟性、安心感を発揮するエモーショナル型サービスです。以前は、前者は自動化を進め、後者は人が担う領域だと考えられていました。

 しかし、生成AIの登場によって、その前提も変わりつつあります。エフォートレス型の自動化はさらに進みますが、エモーショナル型でも生成AIが活躍する可能性があります。例えば「この服は自分に似合うか」といった問いに対しても、柔軟に応答できるようになっている。つまり、二極化ではなく、人とデジタルが融合し、一段上のサービスを提供することが求められます。ヘルプデスクセンターは、言われたことに答える場です。そこから接客センターへ進化し、さらに事前の「しつらえ」と、対話における「振る舞い」によって、顧客と主客一体の関係を作るデジタルおもてなしセンターへ昇華していく。これが、これからのコンタクトセンターの方向性ではないでしょうか。

大貫 AI導入そのものが本質ではありません。重要なのは、CSとして顧客にどのような体験を提供したいのかという問いです。そこがないままAIを導入すると、単なる自動化で終わり、顧客体験は変わりません。AIは目的ではなく手段であり、体験設計の思想が先にあるべきです。技術ありきで進めると、問い合わせを減らす、処理時間を短くするという発想に偏ります。

 また、顧客にとって本当に良い体験とは何かを定義しないまま自動化すると、便利になったように見えて、実は不満が残ることもあります。AIをどこに使い、どこで人が関わるのか。その設計が、サポート部門の新しいマネジメントテーマになります。

宇都宮 デジタル化については、サポート起点で周囲をどう巻き込むかも重要です。人の仕事はなくなりません。ただし、サポートだけに閉じるのではなく、データやAIを使って顧客接点を広げ、ブランドやサービスに貢献する必要があります。VOCやAIエージェントで得たデータを、マーケティング、プロダクト、店舗、ECなどにどう返していくか。顧客接点を持つ部門だからこそ、会社全体の体験改善に関われると思います。

大貫 サポートは、顧客接点そのものを設計する中核になっていくべきです。さらに、サポートとサクセスの境界も薄れ、統合的なカスタマー組織へと変化していくと思います。自社のサポートは、今どの地点にいるのか。AI導入の出発点はコスト削減なのか、体験を変えることなのか。3年後、チームや仕事はどう変わっているのか。そうした問いを持ち続けることが、AIエージェント時代のサポートの価値を再設計する第一歩になると思います。

このコンテンツは会員限定です。
限定コンテンツを見るには無料会員登録が必要です。

お申込み

会員限定2026年08月20日 00時00分 公開

2026年08月20日 00時00分 更新

その他の新着記事

  • スーパーバナー(P&Wソリューションズ)

●コールセンター用語集(マネジメント編)

●コールセンター用語集(ITソリューション編)

記事検索 

購読のご案内

月刊コールセンタージャパン

定期購読お申込み バックナンバー購入