実践編
第11回
会社で大きなトラブルが起きると、経営層から最も頼りにされるのがコンタクトセンターです。お客様からのクレームやご意見などを一手に引き受け、対応することができるからです。ただし、あまりに大きすぎる事件が起こると、センターは修羅場と化します。今回は、ある不祥事をきっかけに、日本列島を駆けずり回ることになった、事件の顛末を報告します。
ある金曜日の夕方、会社からの帰りの電車の中で、私はスマートフォンでニュースを見ていました。そこには、ある事件が掲載されていました。某企業で大きなトラブルが起こり、被害範囲も広く、場合によっては会社にとって致命的ともなる事件でした。私は、「うわー最悪。この会社大変だなぁ」。そうつぶやいていました。
翌日、土曜日の夕方4時頃。家族と外食でもしようと外に出ていました。暑かったので、服装は半袖のポロシャツと短パン。そこへ、携帯電話に着信がありました。

留守番電話サービスに設定していなかったため、ずっと鳴り続けています。画面を見ると会社の偉い人でした。もちろん、携帯電話を再度、ポケットに入れました。
私は休みなので、電話に出ませんでした。しかし、その後も呼び出し音は鳴り続けます。家族に「さすがに出たほうがいいんじゃない?」と言われ、渋々出ることに。
出ると、上司が焦った様子で、「今から大阪行けます?」。私は「え?」という間もなく、「すぐ新幹線に乗ってください」と言われました。「どこに行くんですか?」と尋ねると、上司は「分からない」と。そんなミステリーツアーは聞いたことありません。今から大阪に行け、新幹線に乗れ、だけど行き先は分からないのです。上司は「後で詳しいことはメールするから、すぐ新幹線乗ってね」と言って、一方的に電話を切られました。
家族が「誰から?」と聞くので、「えーと、偉い人だね」と答えると、「何の電話だった?」とまた質問されたので、ことの経緯を説明すると、「え、大阪出張なんて聞いてないよね」と言ってきます。しかし、ことの重大性を認識したのか、新幹線の駅まで車で送ってもらい、新幹線に飛び乗りました。
乗っている間にメールが来て、夜7時30分までにある場所に来てほしいとだけ書かれていました。新大阪に着いて、地下鉄に乗り換え、あるオフィスビルに着きました。スタッフに案内されて通されたのは大きめの会議室でした。そこにヤフーの社長がいたのです。社長も急遽駆けつけたのか、ポロシャツにジーンズという軽装です。
7000人近い社員がいて、当時は、私は平社員でしたので、社長と会社内で会うことも話す機会もありません。社長から「会社が大きなトラブルを抱えてしまった。月曜日の朝9時までに200人集めて、クレーム対応部署を立ち上げて」と言われました。そうです、金曜日にニュースで見ていた企業は、自社のグループ会社だったのです。
時間は夜の7時30分。月曜日まで1日半しかありません。まずは人数集めです。自社でかき集められるのは40人。残り160人をなんとか用意しないといけません。派遣会社に声をかけるとしても、土日なので休日の可能性も。いろいろな人脈や手を尽くして連絡します。
土曜日の深夜は、派遣会社も含めて、人を集めるための作戦会議です。そして深夜2時30分。社長に「疲れた?」と聞かれ、飲まず食わずで働いていたので、「少し疲れました」と答えると、「会社でホテルを取ってあげたから、仮眠とってきなよ。明日、朝7時30分集合な」と言われ、とりあえずホテルにチェックイン。
部屋に入り、一息つくと、そこに一本の電話が入りました。役員からでした。「飲みに行く?」と言われ、そのまま飲みに行くことに。朝4時くらいまで飲んで、少し仮眠をとって出社しました。
朝からタクシーに乗り、いろいろな所に行って交渉しました。日曜日の夕方、「寺ちゃん、荷物まとめてタクシー乗って」と言われ、タクシーに乗車。前日寝てないので、タクシーの中では爆睡でした。
タクシーが目的地に着くとチケットを渡されました。伊丹発羽田行きの飛行機のチケットです。なんだ、家に帰れるんだと思って、飛行機に飛び乗り、羽田空港に到着。すると、地上係員が数名で「寺下様はこちらにお願いしまーす!」と叫んでいます。嫌な予感しかしません。無視して通り過ぎたのですが、気になり、戻って私だと告げると、係員に「走って!」と言われ、また飛行機に乗ることに。
着いたのは新千歳空港。その時、家族から電話が。「今どこ?」。私は「んー札幌?」と言うと、「え、大阪に行ったんじゃないの?」と聞かれ、「何やってんの?」と尋ねるので、「詳しいことは言えない」と言うと、「いつ帰ってくる?」と当然のことながら聞かれます。
携帯から漏れ聞こえる声を聞いた隣にいた役員が「1カ月って言え、1カ月って」。おいおい、1カ月も札幌? しかも、着替えもない状態です。そんな電話のやり取りの後も仕事をして、翌日を迎えました。最終的には、月曜日の朝8時に大阪2カ所で40名、札幌1カ所で160名を集めて、1時間研修し、9時からセンターをスタート。大変でしたけど、修羅場を経験したことで、自分自身がとても成長できたように思います。

会員限定2026年07月20日 00時00分 公開
2026年07月20日 00時00分 更新