
Part.1 <現状と課題>
顧客対応の自動化は、新たな局面を迎えている。従来のボイスボットが「定型業務の自動化」にとどまっていたのに対し、生成AIを活用した「AIオペレータ」は、柔軟な対話を武器に、より人間に近い応対を実現し始めている。“オペレータの代替”が本格化し始めた一方で、その導入・運用には従来以上に高度な設計力が求められるのも事実だ。Part.1では、AIオペレータの定義や構築のポイントを整理したうえで、今後の可能性を検証する。
生成AIの登場により、ボイスボットは「AIオペレータ」へと進化を遂げつつある。従来のボイスボットはシナリオ設計やルール定義に多大な工数を要し、対応範囲も限定的だった。一方で、AIオペレータは文脈や意図をくみ取り、人間に近い形で対応し「処理の完了」まで対応可能だ。単なる一次受付ではなく、解決まで導く能力を持つことが前提となる。
この進化は、顧客体験(CX)に大きな影響を与える。AIオペレータは柔軟に応答できるため、自然な会話を維持しやすい。ただし、その柔軟性が誤案内のリスクも孕むため、ミスやエラーを防いだり、発生した場合にフォローする設計が極めて重要になる。
本特集では、AIオペレータを提案するITベンダーやBPOの識者によるアドバイスをもとに、AIオペレータ構築のポイント(図1)を解説する。

Part.2 <ケーススタディ>
人手不足や呼量変動への対応を背景に、AIオペレータの導入が進んでいる。ただし、各社の取り組みを見ると、すべての問い合わせをAIに任せるのではなく、対応範囲を絞り、有人対応やWeb誘導と組み合わせる設計が主流だ。生命保険、テレビ通販、金融、物流の4社事例から、導入企業が重視する適用範囲の見極めと、完結させるための工夫を探る。
2028年大量満期見据えた第一歩
「マイナンバー窓口」で応対を検証
T&Dフィナンシャル生命保険のコンタクトセンターは、採用難とスキル育成にかかる負荷の高さを課題として抱えていた。加えて、2028年に満期を迎える商品の相談が増えることが予想されたため、RightTouchが提供する『QANTスピーク』を導入。AIオペレータの実装に向けた検証に着手した。
2026年4月、まずは契約情報を特定しなくても回答できる問い合わせが多く、専用回線が存在する「マイナンバー専用ダイヤル」で運用を開始した。制御が効きやすい、あらかじめ用意した回答コンテンツを読み上げる方式を採用して、質問パターンを整理。顧客の自然発話から最も近い意図を判定して回答、およびコミュニケータ(オペレータ)に転送するフローを構築した。
シニア顧客特有の会話に対応
CX向上と機会損失の抑止を両立
テレビ通販の受注業務は、放送枠ごとのピークの波が極端に大きい。呼量予測の難易度も高く、ピークタイムの呼量に合わせた人員確保策を講じても、すべての受注電話を取り切れず機会損失を招くことは少なくない。
テレビ東京ダイレクトが展開するテレビ通販「虎ノ門市場」は、顧客体験を損なわずに、受注機会を最大化するという観点で、Verbexが提供する音声AIエージェントを採用。色やサイズ展開といった選択肢が少なく、注文フローがシンプルで運用・改善しやすい単品商材の注文受付からスモールスタートした。
運用開始後は、「AIのみ(折り返しなし)で受注完了した割合」をKPIに設定し、日々顕在化する課題の解消に注力している。結果、完結率は初回より約30ポイント向上しているという。
人とAIの対応範囲を金融規制で線引き
自然な対話でシニアの満足度を追求
SBI新生銀行では、口座数の増加が続く一方、人材確保が年々難しくなるなか、これまでと同じ人手中心のオペレーションを継続していくことには限界が見え始めていたことから、オペレータの負荷軽減と顧客利便性の両立を目的に、AIオペレータを導入した。
AIオペレータで対応するのは、口座開設の流れやサービス内容の確認など、FAQをベースに回答できる問い合わせに限っている。AIで完結できないものは、基本的にSMSでWebサイトを案内。例えば、最新の金利情報など間違いが許されない問いには答えずに、SMS配信するといったガードレールを徹底している。
導入したのはRecho(東京都中央区、代表取締役 邱 実)が提供する対話完結型音声AI「Recho AI Voice Agent」。意味理解と応答生成を並列処理する仕組みのため、ほぼ遅延のない応答が特徴。顧客が「ゆっくり話して」「もう一度」と発話すると、ゆっくりと言い直すなど自然な対話も実現する(図2)。
今年中には、他のサービスの問い合わせ対応にも範囲を拡大し、現在IVRで行っているコールの切り分けをAIオペレータに任せていく方針だ。

生成AIの「柔軟性」にこだわりすぎない
確実なシナリオ型を採用し集荷依頼の8割を自動化
ヤマト運輸は、EC利用拡大による問い合わせ増加に対応するため、2020年からシナリオ型ボイスボット「LINE WORKS AiCall」を導入し、集荷依頼などの自動化を進めている。同社は“自然な会話”や過度な柔軟性よりも、顧客の利便性と確実性を重視。問い合わせ内容が「集荷依頼」「再配達」「荷物未着」に大別できることから、生成AIではなくシナリオ型を採用した。集荷依頼では氏名や住所、日時などを音声で受け付け、必要時のみ有人対応へ切り替える仕組みを構築。法人顧客向けには登録情報を活用し、短時間で受付を完了できるよう工夫している。また、再配達はプッシュ式IVR、未着問い合わせはAIオペレータと、内容ごとに最適なチャネルを使い分けている。これにより、電話問い合わせ全体の約3分の1、集荷依頼の約8割を自動化。待ち時間短縮や業務負荷軽減につなげた。導入後も発話やシナリオを継続改善し、“運用で育てるAI”として定着させている。
会員限定2026年05月20日 00時00分 公開
2026年05月20日 00時00分 更新
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