メンタル不調者を戦力にする “リワーク支援”のススメ 第5回

2026年1月号 <メンタル不調者を戦力にする “リワーク支援”のススメ>

加藤 菜々香/川野克俊

実践編

第5回最終回

「体調変化の把握」から「ケア機能の整備」まで
いま企業に求められるリワーク支援体制

最終回の今回は、これまでの課題整理に基づき、企業からの視点として、かつて大手企業の人事に長く携わり、現在はHRコンサルタントとして活躍中の河原畑 剛氏(クロスメディア・コミュニケーションズ)と、福祉サービス提供者としてリワーク案件の経験が豊富な加藤 菜々香(日本就労移行支援センター)との対談を通して、企業がとるべき対策、あるいはそれを検討する糸口になるヒントを提供する。

PROFILE
日本就労移行支援センター
(本社:赤坂、代表:高橋慶治)
加藤 菜々香(本社勤務:マネージャ)
復職を含む就労移行支援全般の管理・統括
川野克俊(本厚木駅前校勤務:支援員)
過去CC業界でCX推進。現在は就労支援員

体調変化を客観的に見える化

──今回、取り上げたケースでは、休職までの期間がかなり長く、周囲が本人の異変に気づけなかったという課題がありました。

加藤(福祉):実際の支援現場でも、本人はかなり前から「ちょっと変だな」という小さなサインを感じていることが多いです。ただ、自分の体調や気分の変化を客観的に把握できていない人が少なくなく、「自分はまだ大丈夫」と思い込み、相談のタイミングが遅れがちです。相談を切り出すきっかけをつかめないまま、半年以上経過してしまうこともあります。自己理解や自己受容が苦手な人ほど、悪化に気づきにくい傾向があります。従って、「体調管理やストレスアラートを会社として仕組み化する」ことが必要だと思います。例えば、「K-STEP」という体調管理ツールがあります()。短い時間で対応できる簡単な記録シートで、睡眠・気分・体調などを数値化・見える化するものです。企業で導入しても業務の妨げにならず、異変の早期発見に役立ちます。

図 K-STEP=Kawasaki Syurou TEityaku Program(川崎就労定着プログラム)
図 K-STEP=Kawasaki Syurou TEityaku Program(川崎就労定着プログラム)

河原畑(企業):個人がメンタルの状態を定期的に確認できる仕組みは有用です。ただ、「上司がストレッサー(ストレスの原因)」であるケースなど、自分の状態を職場で正直に開示しにくい現実もあります。そのような場合には、単純に仕組みを導入しても機能しない可能性があり、把握した記録は第三者的な健康管理担当などに提示できるなど、心理的安全性を高めたほうが良いかもしれません。

メンタルヘルス施策で重要な
企業と個人の「調整役」

ストレスチェック制度の限界と課題

──企業ではストレスチェック制度が義務化されていますが、どう活用されているのでしょうか?

河原畑(企業):大手の活用は目覚ましくないでしょう。プライバシー保護で人事は個人結果を見られず、部署の傾向を知るのみです。個人も周囲の状況はわかりません。個別の問題を早期発見し対処するツールにはしづらいです。

加藤(福祉):福祉の現場でも似ています。見てほしくないけれど助けてほしい、という矛盾した気持ちが強いです。しかも、上層部は組織改善を目的にデータを見ようとする一方で、個人は「自分の悩みをどうにかしたい」だけ。目的がすれ違っている状態が多く並行線だと思います。

メンタルヘルス教育の不十分さと管理者の課題

──メンタルヘルスに関する教育不足や、管理者のヒアリング力の課題もありそうです。

河原畑(企業):大企業ではEAP(従業員支援プログラム)やラインケア研修も普及しています。しかし、自分のマネジメントがストレスを生んでいることに無自覚な上司や、その人の業績が高ければ会社も配置換えしづらいという問題もあります。

加藤(福祉):福祉側から見ると、中小企業ではとくに教育体制の差が顕著です。上司と部下の距離が近い分、ストレッサーとの関係性が濃く、メンタル不調を起こしやすい。だからこそ第三者が間に入って「調整」する必要があります。

「調整」機能の重要性

──企業内で、そうした機能を設ける動きはありますか?

河原畑(企業):ある企業では、人事部内に「相談センター」を設け、本人、上司、産業医/保健師、人事担当が情報を共有し、客観的に復職のあり方を検討・調整する体制を整えました。結果的に休職者減に効果がありましたが、専門性とコストの点で、どの組織でもすぐできる仕組みではありません。

加藤(福祉):実際、現場でその機能を担うと「個人の希望」と「会社の希望」がまったく合わないことが多いです。どちらも条件を譲らない。その間に立って“擦り合わせ”をするのが最も難しい。とくに会社側の要求が非現実的なことも多く、調整にはかなりのエネルギーを使います。双方の「期待値」をあらかじめヒアリングすることは重要です。そのうえで、この「期待値」を調整していくことで落としどころを探ります。

──なかなか特効薬はなさそうです。しかし、日常的に本人の体調やメンタルを客観的に把握することが極めて重要であること、本人と会社、医療スタッフなどの間に立つ調整役(コーディネーター)的な存在がカギを握りそうですね。

健康対策は企業のリスクヘッジ
社会資源と連携し体制整備

──最後にこの課題に取り組むために、企業はどのような心持ちであるべきでしょうか。

加藤(福祉):負担の大きい領域ではありますが、外部の専門資源を組み合わせれば、無理なく実現できます。社員が安心して働ける環境=企業の持続可能性につなげてほしいです。今日の対談がその第一歩になれば幸いです。

河原畑(企業):これからストレスチェックの義務化が広がります。いまのタイミングで仕組みを整えることは、企業にとってのリスクヘッジであり、同時に社員に対する誠実な姿勢になると考えます。

2025年12月20日 00時00分 公開

2025年12月20日 00時00分 更新

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