市界良好 第164回

2025年12月号 <市界良好>

秋山紀郎

コラム

第164回

人間がAIに育てられる時代

 コンピュータは、我々人間の能力を高めたり、助けたりするための道具である。どのように動作してほしいかをプログラム、つまり手順として指示していく。コンピュータは、指示通りに動く必要がある。私たちの想定と異なる動作はバグであり、不具合だ。しかし、最近のAIの進化により、この関係性を複雑にした。人間はAIに対して、手順ではなく膨大なデータという教材を与えた。AIは機械学習という手法で、自らパターンを導き出し、予測や自動化といった形で、人間が単独では到達できなかった領域で我々を助ける存在へと進化した。

 自動車の運転支援、スポーツの自動採点、医療現場の画像診断支援、教育分野における個別学習支援、企業では意思決定支援など、人間の限界を補う形でAIは人を助けている。コンタクトセンターにおいても、生成AIを活用したロープレでオペレータ育成に使用される事例が出ている。生成AIは、人間の膨大な知識や経験に基づいて表現された文字や画像、動画などを学習している。その意味では、AIを教育するのは人間である。しかし、生成AIは、我々が新しい手法や発想を得るためにも使われている。つまり、支援するという名目で人間を育てる側面もある。実際に、熟練技術者の継承に使われている事例もある。

 最近話題になっているのが、AIに対する法的な問題だ。AIの学習材料に人間の創作物が含まれ、作成者の許可なく利用されている場合は、著作権などの知的財産権の侵害が懸念される。また、学習の成果として生み出されたAI俳優やAI作曲家などが人間の職域を侵食し始めている。この状況下で、AIが人材育成に活用されることを考えると、倫理的にも問題が生じるだろう。AIで社長の分身を置く事例もある。社長の許可が得られているとはいえ課題はある。従業員からの相談に誤った回答をしたり、人事評価基準を間違って説明してしまうなどのリスクの存在だ。無制限に活用すると重大な問題を引き起こす可能性がある。経営会議の事前相談など、役割を限定した使い方にするなど、適切に管理・運用する必要がある。

 AIが人間を育てることで問題は生じないのか。我々がAI依存症になり、AIなしでは何もできない人間が増加するのは怖い。乳幼児の教育をAIに任せる、新入社員研修をAIに任せるという時代がもうそこまで来ている。記憶の容量や正確性という意味では人間はコンピュータに敵わない。さらには、私たちが人生経験とともに培う共感力や感情表現までもAIに教えてもらうようでは、人を雇う意味がないとさえ思える。現に、若者の就職難がささやかれている。俳優養成所の講師をAI俳優が務めるくらいなら、AI俳優がすべてを演じてしまったほうが効率的だ。実在しないキャラクターに心を寄せるケースもある。役者が人である必要はないとすれば、映画などのすべての作品がAIで作られてしまうのではないだろうか。

 人ができないことをAIが担うという考えには賛成だが、人間の能力が下がり、人ができなくなってしまったから、AIがその役割を担うという循環は恐ろしい。人が倫理と責任をもってAIを設計・運用し、ともに成長する仕組みとは何だろうか。

PROFILE
秋山紀郎(あきやま・としお)
CXMコンサルティング 代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

2025年11月20日 00時00分 公開

2025年11月20日 00時00分 更新

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