本誌記事 トレンド 「Customer Success Day!2024秋」基調パネルディスカッションレビュー

「Customer Success Day!2024秋」基調パネルディスカッションレビュー

BPO活用、キャリア構築、IT活用
サクセス業界の人手不足対策を考える

利用初期における顧客体験を向上し、定着と離反抑止、そして拡大利用を促すカスタマーサクセス。顧客に寄り添い、理解し、提案するという高度な業務を担うだけに、人材採用と育成にはコールセンター以上の課題感があるといっても過言ではない。そこで、市場を知り尽くした識者3氏を招聘、課題解消の手段と考えられるBPO活用、キャリア構築、IT活用について議論した。

 月刊コールセンタージャパン編集部は11月、カスタマーサクセス従事者向けオンラインセミナー「Customer Success Day!2024秋」を開催した。その基調パネルディスカッション「CS業界の人手不足対策を考える―BPO活用・キャリア構築・IT活用―」を採録する。

 パネリストは、sasket LLC代表の山田ひさのり氏、ATOMica KOMMONSカンパニーCEOの白塚湧士氏、Nexal代表の上島千鶴氏が登壇した。山田氏はSansanでカスタマーサクセス部門を率い、現在はコンサルタントとしてさまざまな企業のカスタマーサクセス実践を支援。白塚氏はカスタマーサクセスのBPO事業を中心にビジネス展開している。上島氏は、主にBtoBのセールスやマーケティングの支援を展開、コンタクトセンターのマネジメントにも詳しく、編集部主催の「コンタクトセンター・アワード」の審査員も務めている。

sasket LLC代表 山田ひさのり氏
sasket LLC代表
山田ひさのり氏
ATOMicaKOMMONSカンパニー CEO 白塚湧士氏
ATOMicaKOMMONSカンパニー CEO 白塚湧士氏
Nexal 代表取締役 上島千鶴氏
Nexal 代表取締役
上島千鶴氏

BPOに「任せやすい」領域を考察
キーワードは「マニュアル化」

 カスタマーサポート、カスタマーサクセスの共通課題は、 “人手不足”と“採用難”だ。

 とくに、マニュアルに頼らないハイタッチ対応をメインとするカスタマーサクセス職では採用、教育ともに困難を極める。ディスカッションでは、少数精鋭で成果を最大化する仕組みのための対策として、「BPO活用、キャリア構築、IT活用」の3つの手段について、その有効性や活用ノウハウを議論した。

 まずBPO活用について、白塚氏は、BPOと相性の良い業務領域として活用が進んでいるのは、「スポット業務で専門性が高い、あるいは定常業務で専門性が低い業務」と指摘。具体的には、「前者はフェーズ別の業務フロー設計やテックタッチ施策の設計など、一度、仕組み化できれば他者でも回すことができるコスト効果の高い業務。後者は、定型的なオンボーディング業務などで、マニュアル化できれば業務の引き継ぎが容易な業務」と説明した。山田氏は、「設計と実装をうまく切り離すことで、BPOに任せやすい部分が浮き出てくる。顧客がつまずきやすい箇所を的確に把握、ケアできればBPO化は難しくない」と強調した。

サクセス/サポートの連携に期待
IT&人材マネジメントの最適化

 カスタマーサクセス従事者のキャリアについては、モデレータが「ヒエラルキーが明確なカスタマーサポート(コールセンター)に比べると、多様性はあるが、歴史が浅いゆえにゴール設定がいまひとつ見えにくい印象が強い」と指摘。山田氏は、キャリアプランについて「業務内容(タスク)というより顧客企業の置かれているフェーズでスキルが切り分けられているので、スキルアップのプランが見えにくい。しかし、業務が幅広いゆえにひと通りのビジネススキルを身につけられ、結果的に独立・起業につながりやすいというポジティブな点もある」と説明した。

 一方、上島氏は「コミュニケーションスキルが高く、ビジネスプロセスにおける痛点への理解度が高いカスタマーサポートのSVがカスタマーサクセスへジョブチェンジできる可能性に期待したい」としたうえで、「カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、困っている顧客に手を差し伸べるという意味では似通った組織。サポートの人材にアップセル/クロスセルに対するマインドセットが備えられれば、サクセス業務への適応性は高い」と説明した。

 ITの活用については、モデレータの「カスタマーサクセス領域は生産性が重視されるカスタマーサポートほど市場が活性化しそうにない」という指摘に対し、山田氏は「組織の規模の小ささゆえに、ITに頼らずして意思疎通で解決できてしまうのでIT導入のROIが見出しにくい。しかし、組織が拡大すればIT導入は必須になるので、この点はカスタマーサポートに学ぶべき領域」と解説した。上島氏は、「SaaSベンダー中心のいわゆるデジタル接点に特化したカスタマーサクセスツールばかりで、コールセンターのように“通話データ”を検証する必要がない点がIT化の必要性を見出していないポイント」と指摘した。

 サクセス部門とは別にサポート部門が存在する企業であれば、すでに顧客の痛点を見出す知見が蓄積されているはずで、両部門が連携、IT活用を共有化することで顧客のロイヤルティを高める事例の登場が期待される。

図 カスタマーサクセスとカスタマーサポートの「組織」と「人材」などの違い
図 カスタマーサクセスとカスタマーサポートの「組織」と「人材」などの違い

(月刊「コールセンタージャパン」2025年1月号 掲載)

2024年12月20日 00時00分 公開

2024年12月20日 00時00分 更新

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