スタジアム
縦割り構造の組織では、情報共有の遅れやそれに伴う意思決定の遅延といった弊害を生みやすい。カスタマーサクセス実践企業が志向するケースが多い「THE MODEL」を採用している企業ではとくにそうした課題が指摘されている。インサイドセールスやカスタマーサクセス、サポートなどを受託するBPOベンダーであるスタジアムに「THE MODELの弊害を防ぐポイント」を聞いた。
カスタマーサクセス実践企業に広く浸透しているフレームワーク「THE MODEL」は、効率化の面でメリットが大きい一方、営業活動プロセスを分業するがゆえの弊害も指摘されている。業務のみならず、組織を縦割り化して情報連携が不足すると、弊害は大きくなる。一部プロセスをアウトソースすると、なおさらリスクは高まる。では、分業化や委託を上手く進めるにはどうすればいいのか──営業代行サービスを展開するスタジアム(東京都港区、石野悟史代表取締役)を例に検証する。
スタジアムは、BtoBのインサイドセールスからフィールドセールス、カスタマーサクセスを主に受託するBPOベンダーだ(図)。SaaSベンダーやWebサービス事業者などの営業支援を行うことが多いという。
DSS事業部 部長の河嶋孝俊氏は、「ビジネスがスケール(拡大)する中で、営業のオペレーションを安定化するため業務委託を検討されるケースが多い」と近年の傾向を説明する。
業務委託は、オペレーションがある程度、汎用的であることが必要で、「属人性の高い業務は委託モデルに向いていない」と河嶋氏は指摘する。このため、比較的、属人化しやすいフィールドセールスやカスタマーサクセスよりも“型化”しやすい、インサイドセールスの受託案件が多いという。
ひと口にインサイドセールスといっても、クライアントによってミッションはさまざまだ。新規顧客の開拓をミッションとするBDR(Business Development Representative)と、見込み顧客を対象に反響型のアプローチをメインとするSDR(Sales Development Representative)では、KPIも人材要件も異なる。何を目的に、どのような商材を提案するのか、クライアントと丁寧に情報連携したうえで、インサイドセールスのオペレーションを設計する。リストをベースに単純に案内を繰り返すのではなく、ナーチャリングを見越して、顧客理解の追求も図る。このため、基本的には1人が1プロジェクトの専任担当制で運用している。インサイドセールスの結果はフィールドセールスに引き継がれるため、クライアントのフィールドセールス担当者とも綿密な情報連携を欠かさない。
「インサイドセールスとフィールドセールスの両方を見るマネージャーがいると、両チームの連携強化につながります」(河嶋氏)
連携が甘いと、施策がうまくいかないとき、お互いに他チームの責任を追及しがちになる。アウトソーシングの場合、事前に責任範囲を明確にしているため、責任の擦り付け合いが起こりにくいのがメリットだ。
アウトソーシングならではのメリットは、まだある。人材育成の一環で、積極的な異動ができる点だ。
河嶋氏は、「他の商材を取り扱うチームへの異動や、インサイドセールスからフィールドセールスといった職種間の異動を積極的に行っています。経験を積むことでスキルの幅が広がるため、異動を重ねることでスキルアップしたいと望む人材は多いです」と強調する。
実際に、インサイドセールスの経験があると、フィールドセールスの職種についたとき、インサイドセールスが残した情報をできるだけ生かそうという意識が働き、それが成果につながる。カスタマーサクセスも、インサイドセールスの経験で身に付けた営業意識があることで、より具体的な提案を行いやすくなる。
「とくにカスタマーサクセスの人材は、営業経験の有無がパフォーマンスに影響します。売上へのアンテナが低いと、サポートに寄りがちになります。営業とサポートの間で顧客に寄り添う、絶妙なバランス感覚を、さまざまな役割を経験することで身に付けた人材が活躍する傾向にあります」(河嶋氏)
責任範囲を明確にするとともに、役割ごとの相互理解を進める人事制度と緻密な情報連携で、“縦割りの弊害”を防ぐ。THE MODELを採用し、一部を業務委託するケースでは、ぜひ採用したい考え方とノウハウだ。
(月刊「コールセンタージャパン」2025年4月号 掲載)
2025年03月20日 00時00分 公開
2025年03月20日 00時00分 更新