コラム
第152回
顧客体験は、さまざまなチャネルでの顧客接点を通じて得られる体験を包括した概念だから数値化が難しい。もし、数値化できれば、顧客体験向上に関わる施策やシステムへの投資に対する効果が測定できるため、ROIの説明ができるだろう。とはいえ、“体験”という人間の感情や心を正確に測定することが難しいのは明らかである。
私の日常を考えてみれば、会計処理、請求処理、社会保険、ネットバンキング、出張の手配、物品購入、QR決済など、実にさまざまなWebサービスを利用している。中には、使いづらく、ストレスを感じるWebサービスもある。操作方法が分からず、同じ画面を行ったり来たりしてしまうものだと、時間のロスが大きい。画面メニューや機能が分かりづらいと、別のサービスに切り替えたくなる。顧客体験の結果が、画面操作履歴や利用率に反映されていると思う。
先行指標と遅行指標という概念がある。景気動向でいえば、実際の景気の浮沈に先んじて上下動するものが先行指標だ。例えば、新規求人数や消費者態度指数である。消費者態度指数は、消費者の消費に関する今後半年間の見通しを調査したものであるから、景気の先行きを予想する目安となる。これに対し、遅行指標とは、景気変動に遅れて変化するとみなされる経済指標で、完全失業率、法人税収入などがある。私たちの食生活で言えば、摂取カロリーが先行指標で、体重が遅行指標だ。個人の体重であれば、指標を用いてコントロールしやすくなるが、日本経済の見通しは容易ではない。
顧客体験の先行指標は、ネット・プロモーター・スコアやカスタマー・エフォート・スコアなどの1つの指標で示すこともあるが、顧客満足度やWeb直帰率、感情データなどの複数指標の組み合わせで示すとよい。さらに重要なことは、遅行指標を取得することだ。肯定的なクチコミ件数、紹介顧客数、継続利用期間、顧客維持率、購入増加額をはじめ、顧客生涯価値(LTV)、顧客獲得コスト、利益率、従業員満足度などに結び付いていく。このような顧客体験に関わる先行指標と遅行指標の構造を示すことがポイントとなる。指標それぞれの因果関係を示すことは難しいが、例えばNPSが1.0上がると肯定的なクチコミ件数あるいは顧客維持率がどのように上昇するのかというモデルを蓄積していくのが理想だ。これらの指標をCXダッシュボードと称して、経営者も現場もモニタリングするのである。海外では、この顧客体験の変化をボーナスに反映する企業もあるという。ここまで徹底すれば、顧客体験向上が活発になるだろう。
いま、多くの企業が取り組んでいるデジタル化。コスト削減が目的のケースが多いと思う。しかし、デジタル化の意義として、その経過や変化が数値で示されるため、状況把握と対策が打ちやすく、データを蓄積して活用できる点を忘れてはならない。せっかくデータが蓄積されても、それらを顧客体験の観点で分析・収集しないのはなぜか。顧客体験に関する担当役員や担当部署が未定義なことが原因として大きい。顧客中心主義を根付かせ進化させるために、顧客接点部門であるコンタクトセンターから顧客体験の数値化にチャレンジしてほしい。
2024年11月20日 00時00分 公開
2024年11月20日 00時00分 更新