クレーム対応のレシピ 第21回

「ウソ」と「ミス」の共通点
“上塗り”は悲劇を招


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 山中教授がノーベル賞を取った。物腰の柔らかい庶民的な話し方、マラソンを走り抜く体力とラグビーで鍛えた筋骨隆々の身体。そこに、品のいい医師の奥さんと可愛いい医大生の娘さんたちが現れる。世の中によくぞこんなにも非の打ち所のない方がいるものだと感嘆してしまった。

 一方、「iPS細胞の移植手術をした」という先生も現れた。こちらは、インチキ、ペテン、サギと散々な言われようだ。山中教授の場合は、周辺情報がプラス+プラスの相乗効果、自称ハーバード大学客員講師の先生は、ウソにウソを重ねてのマイナスの足し算である。

 接客応対の世界においては、最初の関係性がマイナスでスタートするとなかなか取り返しはきかない。

 先日、あるファミリーレストランで、着席後、いきなりコップをドンとテーブルに置かれた。こぼれた水を拭きながら待つが、なかなか注文を取りに来ない。やっと来たと思ったらオーダーを聞き間違えるという始末。もし、クレーム因子(クレームを口に出して言いやすい性格)を持つ顧客だとしたら、その因子をむくむくと活性化させてしまう状態だった。クレーム細胞の再生である。

 クレームとは、ある瞬間に起こるものもあるが、大半は小さいミス、不満が積もり積もった挙句、何かの問題をきっかけに爆発することが多い。もちろん誰にでもミスはある。だが、そのマイナスを取り戻す名誉挽回は可能だ。マイナスにマイナスを続けてしまうと顧客は二度と来ない。

 ファミリーレストランの例では、水がこぼれた際に丁寧に謝罪し、テーブルを拭けば、その後の顧客との関係性はずいぶんと変わっただろう。水をこぼしたというマイナスをプラスに転換させることができただろう。飲食業などの直接エンドユーザーに向けて行うサービスは常にon timeである。beforeもafterもない。だから、顧客とのファーストコンタクトで不快感を与えると取り返しがなかなかつかない。

 オペレータの仕事もまた、初期応対が大切である。マイナスからスタートしても、それをいかにプラスの印象に転換させるかがクレーム対応の腕の見せ所だ。物理的なミスはあるにはあったが、「応対が大変良かった」との評価を受ければ、顧客との良好な関係は築ける。顧客との関わり度合いとクレーム解決は比例すると言ってもよいだろう。某氏のようにマイナスにマイナスを積み上げてはいけないのだ。

 さて、こんなことを書いている現在、クレーム常習者の女性が起こしたとみられる無残な事件がマスコミを騒がせている。なんでも、その人は蝿を食べ物に入れて食堂の店主から数十万円を脅し取ったという古典的な手口を使っていたらしい。これはクレームというより犯罪だ。山中教授からこんな人まで、人とは本当にいろいろだ。出来ればiPS細胞ですべての人間の脳を善良なものに再生させてほしい。



(コンピューターテレフォニー2012年12月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時49分 更新

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