クレーム対応のレシピ 第22回

“感情”を交わして次につなげる!
『できません』の伝え方


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 たかが一字、されど一字の大事件が我が家にふりかかった。インターネットの氏名欄に「Tamamoto」を「Yamamoto」と打ってしまった。これが、わがままな客のクレームの始まりだった。

 筆者家族はこの冬、大奮発してイタリア旅行を計画した。旅行会社の指示に従い、インターネットで、ある航空会社の格安チケットを申し込んだ。その際、息子の一人の名前を間違って「Yamamoto」と打ち、航空会社に送信してしまったのだ。旅行会社側でミスが発見されたのだが、航空会社の規定で「Yamamoto」のチケットに「Tamamoto」は搭乗できない、別の航空会社で1名分だけ申し込んでほしいということになった。

 それはないだろう!切符は買い直さねばならず、また別の航空会社になると格安とはいかない。だいいち、家族旅行の往路で息子は一人旅となってしまう。これはかわいそうだ。  そこで、旅行会社に食い下がった。YをTに間違っただけなのだからなんとか融通がきかないのかと繰り返した。数回、旅行会社に電話をかけ、航空会社とかけあってもらったが、結局は、セキュリティや犯罪防止の面からなんともならないという返事だった。一字違いの代償は、金銭的にも精神的にも大きなものになってしまった。

 ただし、いいこともあった。2回目の電話に応対した担当者が4回目の電話に再登場して、「玉本さま、〇〇でございます。この度はたいへん……」とこちらの感情をくみ取った非常によい応対をしてくれた。さらに、別の切符を買わざるを得ないことになったこと、息子が途中で合流しなくてはいけない羽目になったことをとても申し訳なさそうに話してくれた。

 旅行会社に落ち度はない。客のミスから発生したトラブルだ。だが、こんなクレームでも対応いかんでは顧客を一人失う可能性があった。もし、航空会社の規定のことだけを説明する、つまり、「顧客が感情を投げて、会社が情報を返す」だけの応対だったら、不満足な応対であったと顧客の心には刻まれるだろう。しかし、今回の応対は「感情を投げて感情を返す」ものであったから、今後の関係性の持続につなげられる。言わば継続的に顧客と繋がれる応対となったと思う。筆者はこの旅行会社をまた利用することがあるかもしれないと思う。

 今回のケースのように、規則を崩すことができない、“解決不可能なクレーム”にぶつかったときの解決策があるとしたら、答えはひとつ。今回は解決できなくても、次につなげる応対をすることだ。そのひとつが「感情を投げられたら感情を返す」という応対ではないだろうか。

 イタリア旅行計画のスタートは自らのミスでいきなり躓いたが、クレーム応対のネタはゲットできた。Tamamotoは、転んでもタダでは起きないのだ。


(コンピューターテレフォニー2013年1月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時51分 更新

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