コンタクトセンターで使える!ソーシャルメディア活用の手引き 第1回




目的の明確化と属人性の排除
ROI算出を可能にする体制作り


無料で顧客窓口を開設できる――この手軽さが、ソーシャルメディアの最大のメリットであり、同時に落とし穴でもある。思いつきでスタートした結果、担当者任せの属人的な運用によって閉鎖や休止に追い込まれるケースは後を絶たない。導入時のポイントは、目的・ゴールの明確化だ。これによって、効果測定が可能になり、漫然とした担当者の気分次第の運用を防ぐことができる。

著者:オフィスバトン うねだ友希
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 FacebookページやTwitterなど、“ソーシャルメディア窓口”の開設ペースが加速している。

 コンタクトセンターなどに比べ、初期投資額も少なく容易に顧客接点を構築できることは魅力のひとつだが、「競合が始めたから」「流行っているから」など安易な理由で開始した場合の多くは属人的な対応に終始した結果、閉鎖や休止に追い込まれるケースも少なくない。

 いわゆる“炎上”や“ソーシャル疲れ”を防ぐには、対応ポリシーやガイドラインを策定しサスティナブルな体制作りを目指すことが重要だ。今回は、失敗を防ぐ導入時のポイントを紹介する。

図1 開設から運用までのフローとボトルネック

■目的を明確にする

 ソーシャルメディアの失敗例を挙げればキリがない。TwitterでもFacebookでも同じことが言えるが、目的が曖昧なまま「とりあえず始めてみよう」では失敗しがちだ。行っているうちにゴールがわからなくなってしまい、「やること」が目的になってしまっているケースも見受けられる。  コンタクトセンターでもまったく同じことが言えるが、窓口を開設したということは「顧客の声を聴きますよ」という姿勢を表したに他ならない。担当者や企業側にそんなつもりがなかったとしても、顧客は他の企業と同じようにみなし、サービスを求めるのだ。

 「電話では滅多に聴くことができないお褒めの声や感謝の気持ちを聴きたい」「匿名による本音の投稿からニーズを探りたい」――企業がソーシャルメディアの窓口を開設するに至るのは、こんなニーズからではないだろうか。まずは、企業からウェルカムの姿勢を見せていかないと、顧客もそう簡単には心を開いてくれないのを覚えておこう。

 また、目的が明確化されたら、それを担当者だけではなく社内全体に告知しておくことが重要だ。なぜなら、社員もある程度の共通認識を持ってもらわないと下手に会話に介入してきてしまい、炎上を引き起こすリスクもある。アディダスや東京電力などの例からも、いくら個人のアカウントであろうと本人が社名を明かしてる以上、暴言を吐けば会社としてのリスクにもなるのだ。これは、企業アカウントを持つ/持たないに限らず起こるリスクだ。

■KPI・ROIを測る運用

 ソーシャルメディアの導入をためらう理由の上位に必ず登場するのが、「ROI算出」の難しさだ。

 アカウント開設などは無料だが、対応者が存在する以上、コストが発生する。ある程度の問い合わせ数が見込める場合は、他の業務と兼任することが難しく専任スタッフを置く必要もでてくるだろう。

 ソーシャルメディアのROI(投資収益率)は認知獲得やリーチだけでなく、「どれだけ顧客との関係を深めることができたか」「どれだけブランドの好感度向上に貢献できたか」などの側面から測る必要がある。それが購入に結び付けば当然売り上げに貢献していることになるのだが、売り上げに直結しない場合は証明しづらいかもしれない。

 ソーシャルメディアのROIは計測が不可能だと考えられていた時期もあったが、運用のゴールさえ定まっていれば明確な算出は難しくとも評価の期待はできる。まずは、「短期間の目標設定をして100人に『いいね!』してもらおう」というものでも構わないのだ。「そのためにこういったキャンペーンで顧客に喜んでもらおう」「商品とは関係なくとも楽しんでもらえる投稿をしよう」といった姿勢こそが大切だ。ネット通販会社のケンコーコムは、2011年内に1万人以上のファンを獲得することを目標とし、キャンペーンに注力することで成功した(図2参照)。具体的には、今にも削りたくなるようなスクラッチカード型クーポンを提示し、「いいね!」を押すと割引率やクーポンコードが表れるというユニークな仕組みだ。このように、独自の工夫や努力で、まずファンを増やすことが第一歩となる。この連載では、さまざまな事例を紹介しながら、各社がどのような狙いを持ち何をもって効果と見定めているかをみる。

図2 ケンコーコムのオンラインクーポン


■ソーシャルコミュニケーション

 既に運用を始めた多くの企業が、ここにきて戸惑いを見せ始めている。実際に、筆者が相談を受けるケースも増え始めた。国内では、マーケティング部や広報など、顧客とのコミュニケーションを専門とするわけではない部門が担当することが多く、顧客との対話にどう返したらいいかわからず困惑しているのだ。または、デジタル文化に慣れ親しむ若年層社員に任せきりにしたことで、経験不足などからくる失言や判断ミスが炎上をもたらすケースも出てきている。

 注意すべきは、オンライン上であってもコンタクトセンターにかかってくる電話とさして変わらないという事実だ。ただし、それぞれのメディアによって属性や用途、制限文字数が異なるため、その「場」にあったコミュニケーションが求められる。とはいえ難しいことではなく、電話の相手に合わせて話し方を工夫するコンタクトセンターとまったく同じ要領だ。特徴を理解して、円滑なコミュニケーションを目指して欲しい。

(コンピューターテレフォニー2012年6月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 14時14分 更新

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