クレーム対応のレシピ 第13回

“条件次第”では決着しない!
納得のカギは気持ちを汲んだトークにあり


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 先日、会社を経営している知人から食事の誘いがあった。「少し相談もあるのでランチでもどうか。役員2名も参加して、個室でゆっくりと話がしたい」とのこと。場所は一流ホテルのイタリアンである。ただのお食事会でないことは明らかだ。

 話を聞くと、同席している役員2名が当日の夕方、あるクレーム対応を行うことになっており、このクレームがこじれにこじれて打つ手をなくしているとのことだった。打開策がないかと考えた結果、小生が浮上したらしい。

 詳細を伺うと、課題がはっきり分かった。対応してきた役員の口調は明瞭だが理屈っぽい。まるで応戦する気満々で、論戦のゴングが鳴れば論破し、言い負かしてやろうというようなにおいを醸し出している。例えば、「○○という条件でケリをつけたいと思っています」「これぐらいで、納得して欲しいんですけど」と自社都合のトークが続く。こんな調子でクレームに対応していたとすると、どんな温厚な顧客であってもリングに乗ってやろうという気にさせてしまうだろう。まして、その顧客のタイプを聞く限り、感受性豊かな女性の方らしく、いくら納得・満足できる条件を提示しても、これではますますこじれるのは必然的である。条件が良ければ顧客は納得するとでも思っているのか、それとも納得すべきと考えているのか。その考え方・姿勢が変わらない限りこのクレームはおさまらないだろう。

 大切なことは、顧客の立場や気持ちを汲んだトークの構成で話を進めることである。特に、感受性豊かな方は同じ内容であっても言葉の使い方一つで、表情・感情は大きく変化する。「○○という内容でぜひともご了承いただけないでしょうか」「ご負担をかけないような方法を一生懸命検討いたしました。ぜひ一度この内容でお考えいただけないでしょうか」「これ以上ご迷惑をおかけしたくありませんので、この方法をご提案したいと考えました」など。内容は同じでも、受けとる側は自分を気遣ってくれている表現を敏感に察知するものだ。

 いくら物理的に打開策が顧客にとって条件がよくても、心理的なニーズが満たされない限りこのクレームは終わらない。いや、ますます深みにはまってしまうだろう。

 さて、後日かの友人からメールが入った。「おかげ様をもちまして、ご教授通り対応した結果、お客様より『あなたみたいに私の気持ちをわかってくれたら嫌な思いをしなくてよかったのに。あなたはいい人ですね』と役員におっしゃったとのこと。一件落着ではあるが、先日のイタリアンのランチはフレンチのディナーでもよかったのではないかと思わずクレーム(?)を言いたくなった。もっとも、ディナーならもっとハードな相談になっていたかもしれない。おいしい話には何かわけがある。


(コンピューターテレフォニー2012年4月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時47分 更新

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