座談会 <コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2026 in 大阪>
AIエージェントの導入で、CS拠点の業務や人の役割が変わり、より高度な判断や共感が求められるようになっている。「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス2026 in 大阪」の基調講演から、顧客体験・従業員体験と評価指標のあり方を探る。
<パネリスト>(順不同)
<モデレータ> コールセンタージャパン編集部
──テーマは「AIエージェントが変える次世代CS拠点、『顧客体験』『従業員体験』の新しい考え方とアプローチ」です。AIエージェントの活用が本格化するなか、顧客との接点は今後、どう変化していくのでしょうか。
森 大きな変化は、企業が用意した情報を一方的に提供する形から、顧客ごとに必要な情報や手続きを、AIを活用して正確かつ迅速に案内する形へ変わることです。人が対応する場面では、顧客の状況を理解し、納得できる解決へ導くことがより重要になります。正確さとスピードを担う領域と、共感や判断を必要とする領域が、これまで以上にはっきり分かれていくでしょう。
秋山 私もそう思います。従来の自動化は、決められた処理を間違いなく実行することが中心でした。生成AIは、柔軟に対応できる半面、誤った回答をする可能性があります。したがって、単にAIを導入するのではなく、どこまで任せるのか、どこで人が確認するのかを、業務プロセスの中で設計する必要があります。
──実際の現場では、どのように人とAIを使い分けているのでしょうか。
飯田 LINEヤフーコミュニケーションズでは、メールサポートの自動化を進めています。目的は、自動化による処理の速さを生かした「お待たせしないCS」の実現と、人がより重要な案件に集中できる環境づくりです。従来、人が対応すると解決まで約24時間かかっていた問い合わせを、自動処理では1時間以内に解決できるようになりました。夜間も回答を続けられるため、朝の時点で残っている未回答件数も、人だけで対応していた時期の約10分の1まで減っています。
加藤 速さは、AIを含む自動化が効果を発揮しやすい領域です。その一方で、すべてを自動化すればよいわけではありません。人が対応すべき案件を見極め、そこで十分な時間とスキルを使える状態をつくることが、顧客体験と従業員体験の双方にとって重要です。
──すべての問い合わせをAIに任せているわけではないのですね。
飯田 自動対応の中心は、メールで受け付ける1回目の問い合わせです。内容に応じてロジック型とAI型を使い分け、2回目以降の複雑なやり取りは人が担当します。試験段階では、問い合わせ内容をそのままAIに読み込ませて回答させましたが、存在しない機能やボタンを案内することがありました。そこで、問い合わせの種類やユーザーの状況に応じた手順書を詳細に作成するようにしました。機能に関する回答は人があらかじめ用意し、あいさつ文や締めの言葉をAIが生成する。人とAIを組み合わせた運用です。
秋山 まさに、AIの誤りを前提にした設計ですね。導入後も回答内容を確認し、継続的に修正する運用が欠かせません。
──運用を続けるなかで、回答品質はどのように評価すべきでしょうか。
森 AIと人の回答を、満足度の数字だけで単純に比べることはできません。担当する問い合わせの内容や難易度が異なるからです。数値だけを見るのではなく、具体的な回答内容や顧客の反応まで確認し、どの役割分担が最適なのかを見極める必要があります。
──自動化によって、オペレータやSVの仕事はどう変わりましたか。
飯田 大きいのは、応対以外の仕事に関わる機会が増えたことです。AIとの壁打ちによって、これまで管理者が担っていた分析や改善提案にも、オペレータやSVが取り組みやすくなりました。以前は管理者が担う仕事だと思われていたものが、日常業務の一部になりつつあります。さらに、AIの回答結果やユーザーの反応を確認し、回答内容や運用を見直す役割も生まれています。
加藤 AI活用スキルは、一部の専門職だけが持つ特殊なスキルではなく、すべての職種に必要なベーススキルになりつつあります。重要なのは、現場の課題を理解している人自身が、AIで何ができるかを学ぶことです。従来、ITツールやRPAを導入する際は、専門家が現場から課題を聞き取り、仕組みを作ることが一般的でした。生成AIは、現場のメンバーが一定の知識を身につければ、自分で課題を言語化し、改善方法を試すことができます。現場主導で改善を進められることが、大きな変化です。
森 AIの活用には、マニュアル化できる技術だけでなく、「まずAIに聞いてみる」という感覚も必要です。使いこなしている人が、どんな場面で、どんな問い方をしているのか。そうしたセンスを共有することで、組織全体の活用レベルを引き上げられます。また、AIとの対話によって、これまで言語化されていなかった現場の判断基準や工夫を引き出せます。それを共有可能な知識に変えることも、AI時代の重要な組織づくりです。
秋山 加えて、検証する習慣も欠かせません。AIの出力を確認し、必要に応じて修正する仕組みを設計・管理することも、これからのマネジメントの重要な仕事になります。
──現場でAI活用を定着させるうえで、最大の壁は何でしょうか。
加藤 圧倒的に学習時間の確保です。コールセンターでは、電話や問い合わせ対応に追われ、研修は後回しになりがちです。しかし、本人の自主性だけに任せていては定着しません。私の部門では、翌月のシフトを組む時点で「この時間はAI研修」と決めています。ワークフォース・マネジメントの中に学習時間を組み込み、業務として確保することが必要です。
飯田 現場でも、マネージャーが半ば強制的に時間をつくっています。小規模でもよいので、AI活用事例の共有会を開き、仕事以外の簡単なテーマでもAIに触れてもらう。「業務の隙間時間」の発生を待つのではなく、計画的に学習機会を確保しています。
森 AIへの理解は、触れる回数を重ねることで深まります。一方的な研修だけでなく、日々の業務で使い、うまくいった方法や失敗例を共有することが重要です。組織の暗黙知をAIとの対話を通じて引き出し、再利用できる形にしていく。それが従業員体験の向上にもつながります。
秋山 重要なのは、どの業務課題を解決するために学ぶのかを明確にすることです。問い合わせ理由を分類し、件数が多く効果を確認しやすい領域を特定する。学習と業務改善を結び付ける設計が求められます。
──AIが定型的な問い合わせを処理すると、人が担当する業務はどうなりますか。
加藤 オペレータやSVの仕事の難易度は、確実に上がります。ただ、お客様から感謝されたり、社内で成果を評価されたりすることは、仕事の意義やモチベーションの向上につながります。複雑な問題を解決する仕事こそ、人が担う価値が高い。単純な業務をAIに任せ、人が価値を実感できる仕事に集中できれば、従業員体験の向上にもつながります。
森 今後は、正確な情報提供を求める応対と、人の共感を必要とする応対が二極化していくでしょう。前者では、ナレッジやデータを整備し、AIでも人でも正しい情報を提供できる状態が重要です。後者では、顧客の感情や背景を理解し、誠実に向き合う力が問われます。
秋山 だからこそ、人の仕事を「AIで代替できなかった残り」と考えてはいけません。AIに任せる領域と、人が価値を発揮する領域を最初から設計すべきです。応対品質、顧客の納得感、従業員の心理的負荷などを含め、顧客体験と従業員体験の両面から役割分担を決める必要があります。
──AI導入の効果は、どのような指標で評価すべきでしょうか。
森 従来の入電数や平均処理時間(AHT)だけでは、実態を捉えにくくなります。AIを活用した業務では、AHTを大幅に短縮できますが、それだけで顧客体験が向上するわけではありません。反対に、人が複雑な問い合わせへ丁寧に対応すれば、AHTは長くなります。今後は、AIで解決できた割合、人へ適切に引き継げた割合、有人対応における満足度など、役割に応じた指標が必要です。
飯田 当社でも、自動化した業務では平均処理時間が大幅に短縮されました。しかし、その数字を引き続き目標として追うべきかについては疑問です。現在は従来の指標も見ながら、新しい評価軸を模索している段階です。
秋山 AI導入の稟議では、AHT短縮や人員削減を最終目的にしないことが重要です。コスト削減には限界があり、それだけでは差別化にもつながりにくい。目指すべきは、顧客体験やサービスレベルの向上です。AHTを短縮して生まれた時間を、何に使うのかまで明確にしなければなりません。
──最後に、次世代のCS拠点をつくるため、何から始めるべきでしょうか。
飯田 まずは、AIをマネージャーの相談相手として使ってみることです。実際に使えば、何ができ、何ができないのかという現在地が分かります。
秋山 AIを活用しながら、自社ならではのサービス価値をどうつくるかを考えることが重要です。
加藤 息を吸うように、毎日AIを使うことが大切です。日常的に触れなければ身につきません。使い続けることで、AIの得意なことや、実際の業務への生かし方も少しずつ見えてきます。オペレータだけでなく、SV、マネージャー、経営層が率先して使う必要があります。
森 AIは、コールセンターの力を置き換えるものではなく、拡張するものです。企業が持つ知識や応対の良さ、現場に蓄積された判断基準を整理し、人にもAIにも共有できる状態にする。それによって、その企業らしいCSを、より多くの接点で提供できるようになると考えています。
会員限定2026年09月20日 00時00分 公開
2026年09月20日 00時00分 更新
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