本誌記事 ケーススタディ オービックビジネスコンサルタント

「仕組み化」のプロフェッショナル集団

オービックビジネスコンサルタント

カスタマーサクセス部門の役割は「仕組み」作り
ハイタッチ依存の業界課題に一石を投じる!

一般的なSaaS企業のカスタマーサクセス業務と異なり、導入を支援するパートナー比率が高いIT企業では役割が異なることも多い。オービックビジネスコンサルタントのカスタマーサクセス推進室は、顧客(エンドユーザー)と直に相対する役割よりも、それを支援するための「仕組み化」のプロフェッショナル集団として機能している。

営業本部カスタマーサクセス推進室 平田智教室長
営業本部カスタマーサクセス推進室
平田智教室長

 会計・人事・給与等の基幹業務やその周辺業務を提供する「奉行クラウド」「奉行クラウドEdge」を手掛けるオービックビジネスコンサルタント(OBC)。クラウドサービスといえども、販売と契約は販売チャネルのパートナー企業が担うビジネスモデルで、直販モデルのSaaS企業とはカスタマーサクセス(CS)部門の役割が異なる。

 営業本部カスタマーサクセス推進室の平田智教室長は、「SaaS企業の多くが設置するCSは、お客様と直接やり取りをして実践するオンボーディングが大きな役割です。しかし当社には、パートナー企業や、クライアントの導入支援を担うインストラクターが全国に存在します。そのため、導入支援の方法が、一般的なSaaS企業とは異なります。ですから、推進室の役割は、あくまで導入後のサービスの定着や運用をアップデートさせるための企画部門。KGIは離反抑止/継続利用を重視しています」と説明する。

 同推進室の役割や機能の概要をに示す。クライアントの状況把握をベースに、利用定着までのプロセスを明確に描いている。現段階での最大の目的はクライアント企業の「自走」で、アップ/クロスセルについては「次のフェーズ」(平田氏)という。

 部門として設立された2021年当時は、オンプレミスが主流だった奉行シリーズ。コロナ禍の影響もあり、クラウドサービスの利用に転換しつつあった。「クラウドは、使ってもらうための支援が離反抑止に直結するものの、新規開拓が主業務の営業には難しく、社内に責任部署が存在しませんでした」(平田氏)。そこで、平田氏が当時在籍していたマーケティング部にタスクフォースとして設置した。

 この3年間でクラウドシフトは加速し、OBCのARR(年間経常収益)356億円(24年3月末)のうち、クラウドサービスが228億円を占めるまでになった。CS部門も推進室に昇格し、メンバーはマーケティング、カスタマーサポート、開発といった各部門から選ばれた10名が在籍している。

図 カスタマーサクセス推進室のファンクション設計
図 カスタマーサクセス推進室のファンクション設計

クライシスマネジメントではなく
「リスクマネジメント」が役割

 クラウドサービスへの移行は「解約しやすい環境」への移行を意味する。同推進室は、その解約予備軍を早めに見極め、食い止める役割を果たしている。平田氏は、「問題が起きてからアクションを起こすクライシスマネジメントではなく、問題や課題の発生を未然に防ぐリスクマネジメントが(同推進室の)役割」と強調。そして、「そのためにはお客様の状態をいち早く把握したうえで、適切な打ち手が必要。その一連のプロセスを自動化するために、『Gainsight』の導入を決めました」と語る。

 カスタマーサクセス・プラットフォームの『Gainsight』は、ソリューションの活用状況の見える化から、アップ/クロスセルの機会の発見まで、CSに必要な機能を一元的に提供する。OBCは従来、さまざまなソリューションを組み合わせて顧客の状態を月次ベースで把握するまでは実施してきた。しかし、「解約リスクの高いお客様を把握できても、そこへ自動的にメール配信することまでは難しかった。限られたリソースで最大限の効果を発揮するには、可能な限りのタイムリーな自動化が必要でした」(平田氏)という。

 同社の試算では、チャーンが0.1%で約3560万円の損失。そこで、ヘルススコアで解約の危険度を色分けし、必要なサポートを遂行。動画などテックタッチへの誘導を重視しつつ、状況によってはサポートセンターに対応を依頼するなど、他部署との連携も積極的だ。推進室の限られたリソースで企画設計、状況の察知、仕組み作りに専念し、顧客対応を担うサポートセンターやインストラクターたちが動きやすい環境を用意する。

 ともすれば、「ハイタッチ対応が上手い人材の集まり」など、属人的になりやすいCS組織だが、OBCの取り組みはそうした課題に一石を投じるといえそうだ。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年2月号 掲載)

2025年01月20日 00時00分 公開

2025年01月20日 00時00分 更新

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