オンボーディング設計から採用拡大へ
顧客を成功に導き組織を拡大する具体的手法
SaaS事業者におけるカスタマーサクセス部門立ち上げからLTV最大化までの事業開発と組織開発を3回に分けて解説する。第2回目となる今回は、「オンボーディング設計と実行」と「業務の型化と採用拡大」のプロセスに焦点をあてる。ポイントは、「完璧さを求めるのではない、柔軟なプランニング」だ。教育系SaaS企業のカスタマーサクセスロードマップの例も図解する。
前回は、カスタマーサクセス部門として顧客の提供価値を定義し、プロダクトの提供価値と自社が顧客に提供したい価値をどのようにつなげるかを図解する“カスタマーサクセスロードマップ”の作成について解説した。次の課題は「顧客が実現したい成果と現状のギャップを把握し、顧客がつまずきそうなポイントを能動的に支援する」ことだ。このアプローチをオンボーディング/アダプション/エクスパンション、それぞれのフェーズで考える。
顧客が望む成果に向けて線路をつなぐように各フェーズを設計、型化することで売り上げ拡大までの流れができると同時に、組織拡大の基盤が構築できる。オンボーディング設計と実行サイクルを明らかにすることで、他フェーズも同様のアプローチで設計できる。
事業開発の初期段階は自社内に成功事例がなく、顧客の行動予測が困難であることが多い。そのため、完璧な計画に固執するよりも、現状と理想のギャップを埋めるための柔軟なロードマップを作成し、段階的に実行に移すことを推奨する。オンボーディングから始め、段階的にプロセスの解像度を高めていく方法が望ましい。
オンボーディングの完了定義は
抽象化で全プロダクト共通化可能
オンボーディングはカスタマーサクセスの中核をなす役割であり、顧客は何ができれば「ひとり立ち」でき、何ができなければ「解約」するのか、顧客の行動から見つけ出すことは極めて難易度が高い。だが、「成果を創出するうえでどのような状態になるのがよいか」という理想の状態からアプローチすることで比較的、容易になる。オンボーディングの成功は、次の3つの要素に集約される。
1.プロジェクト体制が構築できているか
2.顧客とゴール設定のすり合わせができているか
3.対象者がプロダクトの価値を実感できているか
これらの要素を明確に定義し、顧客の業務フローを考慮に入れながら、具体的なアクションとタイミングを設計する。その際、フローごとに乗り越えるべきこと(機能の理解や具体的なアクションなど)と、つまずきそうなポイント(CSVを一度ダウンロードして文字コードを変換したうえで保存しないといけないなど)を明確にすることで解像度が上がり、具体的なアクションが見えてくる。このプロセスは、顧客へのヒアリングで補完されることもあり、その後の解約率や売り上げの影響を定量的に分析し、継続的に改善を行う。
採用拡大をする前段階に必要な
エクスパンションまでの設計
オンボーディング設計が完了したら、アダプションとエクスパンションも同様に、顧客の理想の状態と完了定義、必要なアクションとタイミングを整理する。これにより、改善を前提としつつも「顧客がプロダクト導入からビジネス成果創出に至るまでの道筋」が明確になる。次に、実行と振り返りを繰り返し、顧客の成功確率を高める。とくに重要なのは、オンボーディング時に設定したゴールに関する定期的な評価とフィードバックだ。顧客の現状、達成度、今後の課題を可視化し、エクスパンションへの方向性を定める。
ここまで設計が完了してはじめて、新たな採用や人員増加が可能になる。作成されたロードマップは、新入社員にとっても指針となり「入社後の顧客支援方法」を示すものとなるからだ。採用面接時には、このロードマップを使用して業務内容を説明し、入社前の情報ギャップを減らそう。入社後の新入社員は、確立されたオンボーディング/アダプション/エクスパンションプロセスをさらに強化する役割を担うことになる。
このように、多少粗くとも最後までカスタマージャーニー設計を描き切ることで、はじめて「適切な採用」が可能となる。新入社員はこのジャーニーを参考に顧客を支援しながらより解像度を上げて改善していくことで顧客への支援が確実になり、組織が創られていく。
ここまでが、カスタマーサクセスフレームワークを使った部門立ち上げ方法の2つ目と3つ目のイシュー「どのようにオンボーディング設計し実行に移すか」と「いかに業務を型化して採用により拡大していくか」である。
次回は、組織として戦略を打ち出し、育成により収益性を担保していく方法を解説する。
(2024年2月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)
2024年01月31日 18時11分 公開
2024年01月20日 00時00分 更新