藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第3回

「カスタマーサクセス」真の効果の取り入れ方

Trend 連載

安易な部門名称変更に警鐘
「カスタマーサクセス」真の効果の取り入れ方

「カスタマーサクセス」が浸透するなか、自社のカスタマーサポート部門やCRM部門の名称をカスタマーサクセス部門に変更する企業が出はじめている。だが、業務内容の見直しもせず、単に名称を変更するだけでは社内外の期待値を裏切り、混乱を招きかねない。両者の役割や機能をどう捉えるか、最適な運用はどのようなものか、ポイントを解説する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、Twitter、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 昨今、自社にあるカスタマーサポート部門やCRM部門を、カスタマーサクセス部門に名称変更するケースが見られる。しかし、カスタマーサクセスに関わってきた立場として、「安易な部門名変更は危険だ」と伝えたい。一度、部署の名前を変更してしまえば、良くも悪くも、その言葉自体に業務の目標や領域などが縛られてしまう。また、カスタマーサクセスは比較的新しい言葉であるため、社内外での経験者も少ない。そのため、一部の関係者による自己解釈で外れた方向に向かう事態を招きかねない。名称変更による危険やトラブル、最適で理想的な実行形態、運用について解説する。

カスタマーサクセス名称と現場のズレ

 カスタマーサクセスはSaaSビジネスにおいて発祥している言葉だ。SaaSは初回の契約単価が高くないため、中長期的な継続取引を行い、取引単価を上げていく必要がある。これを建設的に進めるため、法人取引における契約後のアクションが体系化されていった。そのため、BtoBの文脈が強い。

 もし名称変更の目的が、既存顧客からの契約拡大ではないのであれば、カスタマーサクセスの施策、指標、業務を調べるほど、現場業務と強いズレが起きてくる。「自社のカスタマーサクセスは名ばかりだ」という声もあったが、言葉通り、名称だけで実態が異なる業務になってしまいやすい。

 多くのカスタマーサクセスの現場の悩みを聞く中で、最も多いのは、「会社の経営層が、十分に理解しないままカスタマーサクセス組織を作っている」という話だ。「顧客が成功する」という響きはもっともらしく、会社組織を活性化させる良いキッカケになると前向きな気持ちでの名称変更だったと思われる。しかし、十分なリサーチをしていない状態で変更することによって、結果的には現場の士気を下げてしまうということも起こり得る。

サクセスはサポートの進化系ではない

 ときに、「カスタマーサポートはカスタマーサクセスになるべきだ」と言われることがある。しかし、歴史的にはカスタマーサポートのほうがはるかに長い。現場で用いられるテクノロジーも、カスタマーサポートのほうが進んでいる。そのため、カスタマーサクセスのほうがトレンドワードで先端的な印象を与えるものの、両者に優劣があるものではない。それぞれ仕事の歴史の中で、それぞれ業務・スキル・KGIが存在する。カスタマーサクセスの主な目的は、契約の維持と拡大であり、主要KGIは解約率、クロスセル/アップセル、売上継続率だ。カスタマーサポートの基本的なミッションは、問い合わせ減少、素早いトラブルシューティングで、KGIは、問い合わせの対応スピードや問題解決率だ。つまり、カスタマーサクセスとカスタマーサポートは目的が異なるため、不用意に混ぜてしまうのは危険なのだ。

 もちろん、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの業務が緩やかに結びつくこともある。だが、基本的に会社組織は、業務を分業することで最適化できるよう設計されているはずだ。業務別でチームや部署を設置するのは問題ない。

 また、カスタマーサポートをカスタマーサクセスに変えるのであれば、まずはカスタマーサポート部の中にカスタマーサクセスチームを置き、目標設計や業務内容などを整理してから、徐々にカスタマーサクセスを拡大。結果的に、部署を分けるというような手順が必要だ。

 カスタマーサクセスとは、「既存顧客の契約継続と契約拡大」にコミットをする職種だ。名称変更するのであれば、Webサイトをオンボーディング目的で使えるようにする、契約拡大ができる営業職経験者の比率を増やすなど、現場レベルでの業務やスキルセットの変更が必要だ。名称を変えるということは、組織のあり方も変わるため、慎重に行うべきだ。

漠然とした部門構築による転職リスク

 カスタマーサポートからカスタマーサクセスに安易に部門変更すると、従業員の転職リスクも高まる。筆者の周りでもカスタマーサクセスに特化した部門を持つ会社に転職してしまうケースが少なくない。理由について「経営層がカスタマーサクセスを理解していない」「カスタマーサクセスとしての体制が十分だと思えない」という声が多い。不用意なリスクを負うなら、部門の名称変更は避けるべきだ。

 カスタマーサポートにおいては、チャットボット、オムニチャネル、IVR、LINEなどの技術進化が起きているが、カスタマーサクセス分野においてはそれほど進んでいない。一方、カスタマーサクセスにおいては、売上継続率(NDR/NRR)を高めるための顧客コミュニケーションや、解約率を下げるための顧客データモニタリングなど、カスタマーサポートにはない議論が盛り上がっている。

 現段階での組織名称変更は危険だが、小さく組織をつくり、効果的だと判断できた段階で人員を増やして別部門として独立させるのであれば効果的にノウハウを獲得できる。計画的にカスタマーサクセス的な要素を会社の中に取り入れるべきだ。

図 名称変更すべきか、する際にとるべき手順

図 名称変更すべきか、する際にとるべき手順

 

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2022年12月20日 00時00分 更新

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