クレーム対応のレシピ 第33回

主張の裏に「論拠」あり
推察・共感が“最強の対応”を生む  


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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     やらせ疑惑で話題の「ほこ×たて」というTV番組。
「どんなドリルでも穴を開けられない硬い金属」と「どんな金属でも穴を開けられるドリル」の対決などを取り上げている。

「矛盾」という故事成語から考えついた企画であろうが、厳密にいうとこれは矛盾ではない。
矛盾とは、1人の人間(または組織)の主張・言動のつじつまが合わないことをいう。

最強の金属と最強のドリルが同じメーカーで、どちらも“最強”を主張していたら矛盾といえようが、違うメーカー同士の対決なのだから、互いの主張の検証実験である。

 ここで『主張』についてちょっと考察してみたい。
主張とは、推定、価値、意志などと言い換えられる。
たとえば、「明日は晴れるだろう」「大阪は庶民的な町である」「あなたに会いたい」などだ。

 主張はそれ単独であるのではなく、必ず根拠が支える。
根拠とは、事実と常識・法則・推論・感情などの論拠だ。
たとえば、「傘を貸してほしい」という主張は、「雨が降っている」という事実と「雨の中を傘を差さずに歩くと濡れて困る」という論拠が背景にある。

日常会話では、事実と論拠を『常識』として共有しているため、「傘を貸してほしい」の主張だけで用が足りる。

 論理は事実→論拠→主張と流れる。

クレーム応対でいうと、「カレーライスに髪の毛が入っていた」(事実)→「不衛生で気持ち悪い」(感情の論拠)→「取り替えてほしい」(主張)とつながる。

会話では「髪の毛が入っていた」という事実から一直線に「取り替えてほしい」という主張につながっていくが、理論上はいったん論拠を通っている。

 他にも、「不良品であった」(事実)→「何をしてるんだ。

すぐに交換せよ」(主張)というクレームには、「自分が不便になり困った」「なんて気持ち悪い人だろう」「子供が楽しみにしていたのに」などの論拠がある。

 議論とは、事実の正確性、解釈、論拠の妥当性を検証しあうものだが、クレーム応対は相手の論拠に共感を示し論拠に言葉を当てるものだ。

そうすれば相手は自分の主張を支えている土台に理解を示してくれたと納得することが多くなる。

つまり、「不良品だ」のクレームに「申し訳ありません。交換します」の応対だけでなく、顧客のどんな感情が論拠として潜んでいるかを想像し、そこに言葉を当てるのである。

「ご不便をおかけして申し訳ございません」「ご不快な思いをされたと思います」「お子様はさぞがっかりされたでしょう~」などがそういうときのフレーズである。

 こうして考えてみると、“クレーム応対”も「ほこ×たて」の番組にリクエストできそうだ。
「絶対にお客様を納得させるクレーム応対の達人」と「史上最強のクレーマー」の対決。
さて、どちらに軍配があがるのだろうか。

(コンピューターテレフォニー2013年12月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時54分 更新

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