コンタクトセンター・レベルアップ講座 第5回


個別対応から全社改善へ進化する
VOC活動のプロセス設計
著者:消費者の声研究所増田由美子
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コールセンターが経営に貢献する要素のひとつである「VOC活動」。収集、管理/分析、共有/還元という3つの機能を発揮するためには、収集から分析まで科学的アプローチが欠かせない。個別の苦情分析ではなく、全社的な改善活動につなげるため、センターではどうVOC活動を設計し進めるべきか。そのポイントを解説する。

 ソーシャルメディアやスマートフォンなどの拡大により、購買判断の基準が「企業からの情報」から、「消費者間評価や自身の情報」に明らかにシフトし、消費者や自社ユーザーの購買・離反行動が企業からは益々見え難く分かり辛くなっている。こうしたなか、量的にも、顧客カバレッジの広さからもコールセンターのVOC活動は注目を高めている。

 いまや約6割(「コールセンター白書2013」では65.3%)のコールセンターで、VOC分析を何らかの形で行い、関連部署にフィードバックしている。数字上では、センターでの「VOC活動」は実践段階に入ってきたといえる。

 しかしながら現場では、「やり方やどこまでやればよいのか分からない」「関連部門への還元効果が見えない」「必要性は分かるが工数が割けない」という声が絶えない。常に上位にあがってくる課題テーマのひとつが、この「VOC」関連だ。

 今回は、このセンターでの「VOC活動」について、顧客視点からのセンターマネジメント実践のひとつとして取り上げる。

受け身からの脱却
全社のVOCを分析、還元する


 センターでのVOC活動は、もともと顧客対応の中で、顧客から直接申出のあった苦情や要望を『ホットボイス』として履歴に残したことからスタートした。とくに「苦情」については個別フォローが必要な事案も含まれるため、その管理と併せて履歴のホットボイスの傾向やトピックを発信していたのがセンターでのVOC活動の第一段階だ。

 顧客の顕在的な要望や意見を受け止めるという受け身の姿勢から、もう少し積極的に聴き出そうとするのが次の段階だ。商品開発や関連部門に還元することを目的に、関連部門連携や源流部門還元が進みつつある。

 さらにVOCの有効性・重要性が全社的に認められると、センターが全社CSマネジメントの現業部門として機能していく。広義のVOC(自社ユーザー、SNS書き込み、パートナー、ユーザー以外の関係者、センターオペレータなどの内部顧客の声も含む)を問題仮説に基づいて積極的に収集し、上位のVOC所管部門と密に連携して収集や分析、全社還元を担っていく段階に進んでくる。

 図1は、「VOC活用」の進化段階を図示したものだ。一番下のボックスは、「VOC担当」が組織的にどこに配置されているのかを示している。この図から、まず自社または自センターのVOC活動がどの段階にあるのかを確認してから、この先を読み進めると分かり易くなるはずだ。


収集、管理/分析、共有/還元
VOC活動が持つ3つの機能


 「VOC活用」の機能や、運用プロセスそのものは至ってシンプルだ。それは、顧客接点ごとやカスタマーセンター/顧客相談室でVOC管理を扱っている場合でも、CS本部など所管部門を決めて全社一元的に管理する場合でも変わらない。「収集」「管理/分析」「共有/還元」――この3つの機能を一連のプロセスとして廻していくことだ。

 図1を生活者主導の今の時代に応じて進化させていくためには、VOC収集の意義・目的、対象を明確にしたうえで、どのレベルで仕組みとして動かしていくのかを考えていく必要がある。
 図2は、「VOC活用」に必要な構成要素の全体(構造)を示したものだ。


 「戦略」は、VOC活用の範囲(スコープ)に応じたVOC活用の意義・目的、ゴール設定の前提となる。全社一元管理レベルであれば、例えば「中期経営計画目標の○○を達成するために△△のVOCを活用する」といった内容になるし、センタースコープであれば、センター戦略(事業計画)におけるVOC活動の意義・目的を文書化して定義したものが該当する。

 「収集、管理/分析、共有/還元」の3つのフレームには、各機能を発揮するための対象、範囲、方法(設計・開発)とプロセスの記述等が入ってくる。

 「仕組み」のフレームには、目的を達成するための機能やプロセスを有効に動かしたり支える、組織や役割、運用、人(意識・スキルなど)、システム(ITツール、データベースなど)などがここに入る。


課題を分類・分解し
マネジメントレベルを見える化


 自センターでのVOC活動の課題事象を列記し、この構造フレームに沿って事象を「分類」「分解」してみると、VOCに関する現状のマネジメントレベルを「見える化」できる。課題がどの構成要素に偏っているのか、どの部分が未着手なのかなどがわかるはずだ。

 多くのセンターのVOC活動の共通の問題点として挙がってくるのは、1.何のために、2.何の情報を、3.どこの組織と共有していくのか。これらが不明確なことだ。

 1の「何のために」は、戦略のフレームで方針定義された内容をもう一段ブレイクダウンしていく必要がある。代表的なものを例示する。

・新規顧客の拡大
・既存顧客の活性化
・解約阻止
・全社CSスコア向上 など

 2の「何の情報を」にあたる情報レベルについては、センターで収集できるVOCを1の活用目的の優先順次に応じて、フォーカスして収集すべきVOCを決めていくことが必要だ。具体的な切り口を例示する。

・商品の利用目的や利用シーン
・ユーザーの趣味・嗜好
・解約理由や解約行動の背景
・他者推薦意向とその理由
・良い個客体験や失望体験

 3のどこの組織と共有するのかは、文字通り、営業部門、マーケティング部門、品質本部、製品開発部門、取締役会等、どの組織とどの情報レベルで共有したり還元するのかを、具体的に定義していくことを意味している。

 上記の3つが不明確になるのは、そもそものVOC活用のプロセスを動かす主体者がはっきり決まっていないことに起因する場合も多い。そういう意味では、VOCの主体者をまず明確に決め(センターが自ら手を挙げる自己宣言でも良い)て、主体者とセンターが1、2、3の優先順位と全体バランスを保ちながら、段階的に構築・展開させていくことが重要だ。

対応、聞く・書くスキル、マインド
データの精度はオペレータで決まる

 次に、課題分類でやはり多くの問題点が出てくる「収集」と「管理/分析」機能についてのポイントを見ていく。

 「収集」では、収集の目的、レベル、対象等を明確に定義した「収集設計」をしっかりすることと、入力データの品質向上がポイントとなる。

 データの精度を高めるため、ヒアリングやライティングスキルの均質化は不可欠だ。同時に、収集意義・目的をセンターの全要員に理解・徹底させ、顧客視点を常に意識させる動機づけやマインドの醸成が極めて重要になる。顧客満足や利用シーンをオペレータに考えさせるワークショップや、VOC収集を促進させるトークスキルの研修などが有効だ。

 「管理/分析」でも設計の重要性が第一に挙げられる。構造化させることで、問題仮説や顧客インサイト(真意)をあぶり出せる分類軸(切り口)が決まり、検索加工も容易になるためだ。これは、履歴データからVOCを切り出してエクセルやアクセスなどの簡易データベースで管理するにしても、全社一元管理のVOCデータベースを本格的に構築運用する場合でも同じだ。

 分析設計では、定量データと、定性データをVOCマネジメント情報の両輪として活用することも極めて重要だ。定量(数値)データは「結果」を表し、定性(文字)データは「理由」を表すからだ。


抽出、発見、分析
VOC活動の基本ステップ


  基本的な分析設計の手順は、次の3つだ(図3)。

①定量レポートから、用件傾向や変化を量的に把握・評価して問題領域や変化仮説テーマを抽出する
②生の文字データをキーワード検索して、顧客ニーズや業務改善につながるネタを発見する
③定量と定性のクロス、相関、セグメント層別(クラスタリング)などの分析手法も用いて、キーワードの深堀りや二次分析をする

 顧客のインサイト(真意)や市場変化の断面、業務・サービス改善のネタ抽出を目的にするならば、以下がポイントになる。

・現象だけでなく、顧客の行動背景や原因(理由)を捉える
・顧客側の現象を商品軸や業務プロセス軸とのクロスで捉える
・顧客の行動背景や原因を時系列で視る
・顧客クラスタリングを行い、顧客像を明らかにする

 顧客クラスタリングは、基本属性や企業の顧客情報からクラスタリングするだけではなく、事前期待の分類軸で顧客をセグメントできていると、顧客像を明らからにするのに非常に有効だ。


今後注目されるSNSデータ
現時点での準備が重要


 今後、SNSデータの扱いがセンターVOC活動の最大テーマになってくることは間違いない。メール対応が数年の間で、「コールセンター」を「コンタクトセンター」に名称変更させたと同じように、いずれは、オムニチャネル対応がセンターの姿になっていくのではないかと予測している。
 今後のVOC活動は、好むと好まざるとにかかわらず、『自己変化する生活者(市場)』に深く入り込むことで見えてくる世界へのチャレンジになるに違いない。その時、強力な武器になってくるのが、顧客対応やカスタマーサービス、VOC活動に対する科学的なアプローチだ。図1の今後の展望に図示しているので、確認していただきたい。
 VOC活動は、センターの存在価値そのものともいえるが、その成果を見せるのが難しいもののひとつでもある。次回は、「見せる化」が難しいと云われる「センターの成果」や「経営貢献」を、どのように、見えるようにするかを取り上げる。

(コンピューターテレフォニー2013年10月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年11月22日 16時27分 更新

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