クレーム対応のレシピ 第32回

日々の暮らしで磨かれる――
日本が誇る「お・も・て・な・し」  


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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    今年の流行語大賞は稀に見る混戦になるという話だ。

前半の「今でしょ」「アベノミクス」「じぇ、じぇ」に、「倍返しだ」と「お・も・て・な・し」が割り込んできた。

それぞれが、お笑い芸人の作為的な一発ギャグではなく、世相と社会を反映した感が強いのも面白い。

 流行語だけあって、この原稿が出る頃にはそろそろ手垢がついていると思うが「お・も・て・な・し・」とは何なのか一考したい。

 ひと月ほど前に、ある電話コンクールの審査員をした。
出場者のレベルはかなり高かったと思う。

声の出し方・確認の仕方・相づち・話のストーリー性――どれもなかなか申し分ない。

難を言えば、お客様役がときどき行う、困った感じのつぶやきや悲しげな声の表情、つまり「えぇ、そうなの?」とか「それは困った――」ということを表すフレーズに対する反応が弱いのではないかと感じた。

言ってみれば、想定された会話の中での訓練や練習を積んだトークには強くても、瞬時に相手の気配を感じとり、瞬時に口からフレーズにする、いわばフレーズ力に弱点があるように思えたのである。

 お客様の気配に対する反応をレベル分けすると、
・感じないから答えない
・感じているけど答え方がわからない、あるいは言葉が出ない
・感じたからワンパターントークだが答える
・感じたからお客様と同じ温度で応える
の4段階になる。

 これはスキルというよりも感性、心性の問題ではないかと思う。

心のIQ=EQだ。

こうしたことは、練習・訓練ではなく、その人の生活体験からくるものかもしれない。

 先日、道を尋ねたときに、たいへん親切なおばさんが表れて、おばさんの先導の元に無事目的地に着いたという経験をした。

タメ口のおばさんが接客や応対のトレーニングを受けた人だとはとうてい思えない。

しかし、「道を聞く」ということに対する反応力、満足度は十分であった。

「東京では、現金の入った財布を落としても戻ってくる」との滝クリさんのスピーチは少々オーバーかもしれないが、「相手も気持ちいい、自分も気持ちいい、みんなが気持ちよく、みんなの利益になることは気持ちがいい」――そう思う感性・心性が「お・も・て・な・し」なのだろう。

 日本人だからといって日本びいきをするわけではないが、私の海外での体験からしても日本人の接客(必ずしもお金をもらっての応対とは限らない)のすばらしさは群を抜いていると感じる。

それは、繊細な感性、豊かな対人関係の言葉に基づくものであろう。クレーム応対の際でも、この繊細な「感じる力」を是非生かしてもらいたい。日本は「お・も・て・な・し」の国なのだから。

(コンピューターテレフォニー2013年11月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時54分 更新

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