コンタクトセンター・レベルアップ講座 第2回


遅れている「日本のサービス業」
問われる“経験と勘”からの脱却
著者:消費者の声研究所増田由美子
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コンタクトセンターは、①顧客接点業務の現業(現場)②CSマネジメントの現業(現場)の2つの経営機能を持つ。これを意識したうえで、顧客・企業間、経営・現場間、部門間の情報連携を進めるなど仕組みの充実がCS経営の実現には欠かせない。経験則やベテランの実務者による勘に頼った現場からいかに脱却するかが問われている。


 CRMやCS、ロイヤルティの意味する重みや効果が社会環境に応じて大きく変わり、今後企業は、顧客や消費者とのつながりを、今の時代に即したかたちで構築していくことが必要になる。

しかし「消費者の評価基準で企業活動を変革し続けていく経営」と定義した「CS経営」の考え方や本質は変わらない。

 CS経営に必要な仕組みとは何か。

図1は、CS経営の仕組みを俯瞰的に表したもので、「CS経営の構造モデル」ともいえるものだ。

図1.CS経営の構造モデル


 商品は、企画開発、生産、セールス・販売、アフターサービスなどの提供プロセスやそれを支えるさまざまな間接機能と社員による活動を通じて市場に提供される。

どの企業も、効率的に高品質の商品やサービスを提供することを目指し、主要なプロセスや機能の改善・改革に常に取り組んでいるはずだ。

具体的には、セールス改善のためのSFA(Sales Force Automation)導入、在庫・物流適正のためのSCM(Supply Chain Management )構築、生産プロセスの改善、スペシャリスト制度の導入などだ。

これらは、コスト削減・売上げ貢献などの収益に直結した、いわば「事業施策領域」としてくくることができる(図1の点線の太枠)。

 一方、一度市場に提供した商品や重要な顧客接点(MOT:Moment of Truth)ごとのサービス価値がどの程度、市場に受け入れられているのか、購入・利用ユーザーの事前期待に何がどの程度上回っているのか・劣っているのか、離反したユーザーの原因が何だったのか、競合他社と比較してどこがどれだけ劣っていたのか――などをCSの法則(顧客満足の度合いは事前期待との比較衡量で決まる)を拠り所として、企業が「意図」を持って継続的に計測し管理していくことを、「CS施策(マネジメント)領域」(図1のL字型の実線太枠)ということができる。

「意図」とは、CS向上のための予算を配賦し、仕組みとして実体的に機能させることを意味している。

技術革新とSNS普及を背景に
実践段階に入るVOC利活用

 このモデル図の中でのコンタクトセンターの位置づけと役割を整理する。

 まず、事業施策枠(点線部分)の中では、営業、アフターサービスなどの各主要プロセスの顧客接点業務の現業としてコンタクトセンターが位置づけられる。

これは、顧客接点業務の効率化が第一義的な役割でスタートしているセンターのコアの役割だ。

企業によって、主要プロセスや事業部門ごとにセンターを持っているところもあれば、営業・販売・アフターサービスを一気通貫で、センターを事業部化することによって、総合コンタクトセンターとして集約統合しているところもある。

 もうひとつ、CS施策(マネジメント)枠でのセンターの役割は、CS向上や顧客志向に向けた評価データの収集・分析をする現業としての役割だ。

厳しい経営環境と消費者主導の購買行動にシフトする中で、2000年代後半からは経営からも、VOC利活用の現業の役割をセンターに求める流れが強くなってきていることは、センターの経営貢献項目やKPIにVOC活用の項目が入ってきていることからも明らかだ。

 こうした役割や機能の論理的かつ歴史的な背景のなかで、実装面でも変化がみられる。

ネット調査や検索・分析のクラウドサービスなどの低価格での分析業務を可能にするBI(Business Intelligence)、BA(Business Analytics )の技術革新は、従来、投資対効果が見えず継続投資が難しかったCSマネジメントへの投資ハードルを下げた。

さらに、SNSの普及で「つながり」が購買を促す社会に変化したことも、企業の取り組みを進化させている。

 自社商品の売り上げや収益の最大化が、「社会善」に直結していくことが求められるのがソーシャル時代の特徴だ。

企業変革の大きな流れを見ると、コア領域のビジネスモデル自体、例えばマーケティングや売り方そのものが大きく変容していく可能性は高い。

将来的には、事業(ビジネス)領域とCS施策領域とに分けること自体が否定されるのかもしれない。

 一方で、現実のセンターマネジメントやセンター施策を考えると、センターに求められる役割が、「顧客接点業務の効率化と品質向上によって収益貢献する顧客接点の現業」と「顧客志向経営に向けたCSマネジメントの現業」の2つであることを改めて認識せざるを得ない。

自社の組織的配置からの予算獲得の仕方や、2領域に対する強み・弱みを整理してみることは、意義があるはずだ。

継続的に消費者行動をみる
VOC統括部門がCS経営に必須

 2000年代からCRMの提唱と併せて、CSマネジメントの重要性と仕組み化も随分提唱されてきた。

だが、企業活動の永続テーマとしてCSの重要性を認識する一方で、実際にCSマネジメント施策への全社的な継続投資ができCS本部などが組織化されて仕組みとして確立された例はほんのわずかだ。

 もちろん、まったく実装されていない訳ではない。

多くの企業では、事業施策領域の中で、営業・サービス部門やコンタクトセンターなどの顧客接点現場からのVOC活用と、マーケティング部門の市場調査、事業部ごとの品質管理が実施するユーザー調査といった各所管部門単位で機能させ、全体の取りまとめや苦情対応を品質管理やお客さま相談室などの消費者対応部門が担ってきている。

 「CSマネジメント」が継続投資の重要施策領域として確立されている訳ではないが、機能として、何らかの手当をしているということだ。

 図2は、VOC担当とセンターの組織の置き方を分類したものだ。

図2.「VOC担当」と「センター」の配置分類(3パターン)



自センターがどの分類にあたるかを見ることで、VOCを含めたCSマネジメントとコンタクトセンターの関係、経営意思や現段階の実装レベルを知る材料になるはずだ。

 CS施策領域を本格的に運用するには、「購入する」「商品・サービスを買い続ける」「解約する、競合他社商品に変える」といった購買行動をもたらす要因や真因を継続的に追求することが重要だ。

「問題仮説」を持って消費者評価を測り、その結果をすべての企業活動やプロセスに提供して、商品開発や業務改革にどの程度・どのようにつながっているかをトラッキングし続ける。

そのためには、ユーザー/競合の調査や商品/チャネル別の満足度調査を実施したり、コンタクトセンターやその他の接点経由で収集される膨大な顧客の声(VOC: Voice of Customer )を収集・分析し、それらを社内の経営や業務課題とぶつけ、経営改善や事業戦略に活用・還元していくダイナミズムなPDCAを継続的に回していくことが欠かせない。

商品自体では差別化できない
「産業のサービス化」が進む

 顧客視点からのセンターマネジメントの各論に入る前に、もうひとつ触れておきたいことがある。それは、「産業のサービス化」だ。

 いまや国内GDPの75%がサービス産業であり、2010年度の就業者数も6200万人の内7割以上に当たる4300万人がサービス産業従事者だ。

コールセンター業は、この3次産業の伸びを牽引している比較的新しいサービス産業の一種といえる。

 この傾向は先進国共通のものだ。商品が溢れている飽和市場のなかで、製品のコモディティ化が進み、競争力や消費者ニーズが、『モノからコト(サービス)』へ、大きくシフトしてきているためだ。

 製品がコモディティ化すると、製品に付与されるサービスの品質や多様性が事業の成否を決めることになる。

例えば、携帯電話というハード(製品)を販売した後に、アプリケーションソフトやゲームコンテンツなどを追加販売するなどがその典型だ。

また、商品販売後の有償のアフターサービスのように、継続的に利便性を提供し収益を得ることのできるストックビジネスが重視され始め、その品質が収益に大きく影響してくる。

 農業や水産業でも同様だ。有機野菜や産地直送の会員向けネット頒布会など、生産プロセスや販売プロセスに工夫をし、商品の付加価値を上げる新たな取り組みが価格競争からの差別化になっている。

 まさに、第一(農業・漁業)・第二(製造業)産業含めた全産業のサービス化だ。

 そういう意味では、『サービスが競争優位そのもの』になりつつあるということだ。

日本が誇る「おもてなし」の文化
産業活動にまだ活かされていない


 経済理論から見てみると、経済の成熟に伴い「大量生産・大量消費」から「機能・価値の消費」へ移行し、さらに成熟すると「高付加価値消費」へと発展していく。

 成熟経済での、モノをサービス経済の一形態と捉えて、「すべての商取引はサービスの提供」とする考え方『サービスドミナント』が、現実の経済活動の主流になってきているということだ。

 一方で、日本のサービス産業の生産性は、製造業や欧米諸国のサービス産業と比較して、相対的にまだ低いと指摘されている。人に依存し、経験と勘でこなしている領域が未だに多いということだろう。

 他方では、「おもてなし」に代表されるあらゆる生活産業に見られる日本的なきめ細かいサービス提供は、輸出産業の柱として国も注力し始めている。

 宅配、コンビニ、飲食、ホテル(旅館)、理美容など経済成長目覚ましいアジアでの日本型サービスへの需要は高く、そのことは、日本がハイエンドな高付加価値型社会をすでに実現しているともいえるが、その一方で、そうした高い価値が産業活動や国の経済力としてまだ十分に活かされていないことも事実だ。

 こうした産業全体のサービス化の流れと、高付加価値型サービスの産業活用の背景から、サービスを自然科学分野と同じように扱い、サービスプロセスや、サービス品質の可視化・高位標準化を進めようとするサービスに対する科学的・工学的なアプローチの重要性が増している。

サービスを制するものが
ビジネスを制する


コンタクトセンターは、ITを道具として利用する人材集約型の典型的な「サービス業」である。

 さらに、サービスが持つ本来的な4つの基本特性、「無形性(見えない・触れない)」「同時性(生産と消費が同時)」「消滅性(貯蔵できない)」「異質性(人や状況に依って結果が変わる)」が、対面サービス以上に強く複合して出てくる難しい業務である。

 しかしながら、これまでみてきたように、あらゆる産業の提供サービスの高度化はまさに「市場要求」であり、コンタクトセンターにおいてもしかりである。

 「サービスを制するものが、ビジネスを制する」とまでいわれるサービスイノベーションの時代的要求と、「共創型ネット社会」へのパラダイムシフトの中で、多くの企業が新たなつながりを基軸とするビジネスモデルを模索している。

顧客フロントとして、センター自らがサービスイノベーター(改革者)としてのマネジメントができるかどうかはますます重要になってくる。

 次回からは、いよいよCS/顧客視点のセンターマネジメントの各論に入っていく。

(コンピューターテレフォニー2013年7月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年10月10日 15時41分 更新

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