定着する組織作り『人財』最適マネジメント講座 第6回(最終回)

 

給与を上げれば離職を防げる?
カギは金額よりも評価の公平性


リーマンショック以降、就職への不安から人材の定着が進んでいる。だが、 この状況は必ずしも長く続くわけではない。離職予防や従業員のモチベー ション維持といった施策は、労働集約的産業であるコールセンターには不 可欠だ。最終回では、給与や評価、表彰の手法や考え方について解説する。


著者:HDI-Japan(ヘルプデスク協会) 長掛文子
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 最終回では、HDIサポートセンタ ー国際認定(以下SCC国際認定)の 項目の一つである「従業員管理」の 中から、「従業員満足、給与、報 奨・表彰」について説明する。本連 載第一回で解説した「職務内容定 義」は、評価や表彰までを連携させ ることが必要であり、それによって 人財マネジメントの最適化につなげ ることができるはずだ。

情報収集からキャリアマップの明示まで
最適な給与体制に導く4つのステップ


 給与(時給)に不満を持ち、他セ ンター(企業)へ転職するという話は よく聞くが、単純に給与額を上げれ ばそれが防げるかというと、実はそ うではない。

 確かに、離職要因の1つとして 「給与の低さ」が議論されることは 少なくないし、適切な給与を設定す ることは人材管理の最適化に不可 欠な要素だ。
 HDIサポートセンター国際認定の中では、従業員の給与について、 以下にあげる4段階の監査項目を設 けている。

 ①サポートセンタースタッフの給与 は、同じ地域にある同じ業界の同 等職位と定期的に比較している

②給与プログラムにはパフォーマンス を高められる要素を含んでいる

③給与プログラムは企業、サポート センターおよび個人の目標達成に 対応している

④職務内容定義書の見直し、キャ リア開発プラン、給与見直し、実 績評価プロセスはすべて統合さ れている

 第一段階では、「給与は同じ地域 にある同じ業界の同等職位と定期 的に比較しているか」ということを 問う。同じ地域であっても、テクニ カルサポートとノンテクニカルでは 給与が異なることは問題ない。また、 同じ業界のSVでも地域ごとに相場 は異なるものだ。同地域、同業界、 同職種の情報収集は、適切な給与 設定に不可欠だ。

 第二段階では、「パフォーマンス を高められる要素を含んでいるか」 を問う。つまり、どうすれば給与が 上がるのかを明確にしているかと いうことだ。しかも、それがスタッ フのやりがいにつながっていること が重要だ。

 第三段階は、「企業、サポートセ ンターおよび個人の目標達成に対応 しているか」。つまり「がんばり」だ けを評価するのではなく、「結果を 出したか」が給与に反映されてい るかということだ。また、それが個 人の目標のみならず企業やセンター の目標達成についても問うている。 企業は利益が出ないことには社員 に還元できないため、ここは重要な ポイントだ。

 第四段階では、キャリアや評価体 制、給与はすべて職務内容定義を 元にし、それらをすべて定期的に 見直すことを推奨している。

 大切なのは「給与の額」だけではなく、スタッフが公平を感じ評価に 納得できる給与体制かどうかが重 要だということだ。
 実際に、HDI-Japanで従業員満 足度調査を実施すると、「給与が低 い」ことよりも、「正しく評価されて いると感じない」「何をどうがんば れば、給与が増える(あるいは減る) のかが分からない」という不満が多 くを占めている。つまり、「自分の がんばりが認められている」と思え ること(内発的要因)を従業員は求 めているということだ。

表彰対象は個人よりもチームが有効!
努力と全体目標のつながりを実感させる


 従業員のモチベーションを左右 するのは給与だけではない。報 奨・表彰制度も有効だ。
 給与に反映しにくいスタッフのが んばりを認める仕組みが、報奨・表 彰制度だと言える。一般的に期待 できる効果としては、①モラルの向 上、②生産性の向上、③離職率の 低下、などが挙げられる。

 対象を個人にするだけではなく、 チームにフォーカスし、チームとして の実績を表彰すると、チームワーク の醸成にもつながる。自分のがんば りがチームの目標達成につながるこ とを実感できる良い経験になる。

 たとえば、あるセンターでは電話 対応後のログ入力のスピードアップ を目的に、個人ではなくチームでキ ータッチソフトのスコアを競い合っ ている。チーム対抗にすることによ って、表彰されること自体には興味が沸かないオペレータも競争に巻 き込むことができ、全員でキータッ チ向上に励むことができるという。

 報奨・表彰で賞品を付ける場合 は、必ずしも現金や金券などであ る必要はないが、センターである程 度の予算を確保する必要はある。
 稀に管理者のポケットマネーから出 ているという話も聞くが、きちんと 予算化し継続することが重要だ。

 また、報奨・表彰の内容は、管理 者だけで決めてしまうのではなく、 表彰される側の意見も取り入れた い。これにより、管理者の独りよが りを防ぎ、スタッフ側に参加意識を 根付かせることができる。定期的な 見直しによってマンネリ化を防ぐこ とも必要だ。同じことの繰り返しで は飽きてしまい効果も半減するか らである。

外部認定/表彰で団結力アップ
労い『誇り』を植えつける


 社内の報奨・表彰制度だけでは なく、社外に認められる機会を設け ることも有効だ。
 HDIでは、「SCC国際認定」や「問 合せ窓口格付け調査」といった認定 や表彰制度を展開しているが、 SCC国際認定の取得企業や、格付 け調査で3ツ星を取得したセンター では表彰式を実施するケースも多 く、筆者も招かれることがある。表 彰式の場に外部機関である我々が 参加することで、センターの品質が 「第三者に認められた」ということを 強く認識させる効果があるようだ。

 こうした表彰式は、スタッフへの感 謝の意を表すとともに、センターが さらに一丸となる絶好の機会にな っていると感じる。
 たとえば、OCNサービスセンタ (仙台)のSCC国際認定式では、ス タッフが「自分たちの仕事が国際標 準に準じていることを誇りに思う」 と語っていた。また、認定 式後のパーティーには、関連の人材 派遣会社や協力会社のスタッフなど も参加し、全員で取得の喜びを分 かち合っていた。 <br>

OCNサービスセンタ(仙台)のSCC国際認定式


認定式後のパーティには関連会社も参加


(コンピューターテレフォニー2011年3月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 11時38分 更新

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