コールセンター「進化の担い手」 QAの選び方/育て方第5回

 

第三者の“感じ方”を学ぶ
カリブレーションによる耳の鍛え方


公正で客観的なモニタリング体制を維持するには、評価のブレをなくす『カリブレーション』の実施が不可欠だ。これは、単に評価の質を上げるだけではなく、評価者同士の意識統一やスキル育成にも有効だ。今回は、カリブレーションを実施する際のポイント――評価シートの書き方、評価後の話し合い方――について解説する。


著者:B-コミュニケーション 高橋珠実
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  モニタリングは、オペレータ1人ひとりの応対スキル向上やセンター全体の課題抽出(スクリプトやナレッジツールの問題点など)とさまざまな役割を担うが、いずれにしてもその主旨はセンター全体の『品質向上』や話法の『平準化』にある。決して、個々の監視や話法上のあら探しをするためではない。  平準化を目指すには、基本となるルールの周知・徹底が前提となる。意識の統一は、センター全体でも必要だが、まず評価者同士の目線を合わせることが重要だ。そのためには、カリブレーション(基準合わせ)を行い、互いの認識のズレを確認・修正することが有効だ。

結果よりも「なぜ」が大事
評価の根拠を書き添える

 カリブレーションとは、1つのコールについて同一の評価シートを使って評価者全員がモニタリングし、評価項目ごとに平均点を出したあと、各評価者が項目ごとに平均点と自身の点を比較して差が何を意味しているのかを検討するというものだ。モニタリングした内容・項目など担当者が話し合いながら、課題が見つかれば、その時点から評価項目や基準を見直すこともある。  カリブレーションの流れは図1の通りだ。

図1 カリブレーションの流れ


 まず、各自でモニタリングを実施しその結果を評価シートに記入する。このときのポイントは、必ず評価を決定した「根拠」や「理由」も一緒に書くことだ。書く内容は、感覚ではなく、「事実」と「それによって受ける印象」である。最終的なまとめとして「良い点」「改善点」を書く。「良い点」は少なくとも3点(難しければ2点)は記載してもらいたい。モニタリング評価を始めたばかりの頃は、誰でも「改善点」しか書けない場合が多い。しかし「改善点」ばかり挙げ連ねられても、簡単に改善できるものではないからである。モチベーションを保ち、より良く「改善」していくためには、「良い点」を見て聴いて、見つけてあげること。「改善点」は、良くするために優先的に何をしてくべきか?をアドバイスできるようにすることが有効である。そのためには、複数でカリブレーションする素材を書き残していくことが重要である。

 その上で、各人が良い点、改善点共に評価を決定した「根拠」を書き残すことで、それぞれが感じた点、それを示す根拠などを話し合い、どこにズレが生じているのかを確認できる。例えば点数評価が違っても根拠にズレがないようであればどちらかの点数の認識が甘い/辛いということがわかる。その際には、評点などの数値決定のルールを周知することが必要になる。数値の決定は、「できていること」「できていないこと」のどちらを決め手にするかを明確にしていくことで、あわせることが可能であるからだ。逆に点数評価は合っていても根拠が全く異なる場合には、モニタリングスキル自体にズレがあることが考えられ、トレーニングが必要であることがわかるだろう。

 『声の表情』『配慮を感じさせる言葉遣い』『話し方』『聴き方』といった「印象面」の評価項目はズレが発生しやすい。このため、評価項目を「印象/感情」の評価と「目的/事実」の確認とに分けて、それぞれを別々にカリブレーションすると課題が明確になる。

 なお、じっくり聞き起こす録音ベースのモニタリングと即時判断が求められるリアルモニタリングとでは、記入できる内容に違いがある。このため、予めシートの内容を変更する方が良い。具体的には、評価基準を録音ベースでは5段階、リアルタイムでは3段階にしたり、リアルタイムモニタリングの記述はワンコメントのみにするといった工夫が有効だ。

評価後の意見交換で
“感じ方”の違いを確認

 次に、モニタリングシートをもちより、人数用のカリブレーションシートを用意して、話し合いに入る。この、基準を合わせていく場面では、まず「何を感じたのか」「なぜそう思ったのか」を具体的に表記しているシートを基に話し合っていく。評価シートを基に全員で再度音声を聞き、評価シートを比較しながらずれていた評価を記載しなおす。このとき、点数が大きく変更となる場合は、数値の設定基準が曖昧であることが多い。この場合は、点数が全体的に甘くなる傾向もあるため、評価基準を調整する際にはその点を考慮すべきだ。

図2 カリブレーションシート


 カリブレーションの実施でもっとも注意すべきなのは、評価数値を一致させることが目的ではないということだ。「何を感じたのか」をお互いに話し合うことこそが大切だ。多くの意見を確認し“感じ取る心”のスキルを向上させることが重要だ。各自が、自分のシートの横に他メンバーの点数評価や根拠を添え書きすることで、自身以外のメンバーの気づきを学べる良い機会になる。

 こうした話し合いは、各自の評価スキル向上に非常に有効だ。人は誰でも聴き方の癖がある。ある一定まで聴くと、自身の過去の経験や価値観などに当てはめてしまい思い込みで評価してしまうことも少なくない。こうしたそれぞれの癖や傾向は、幾度とないカリブレーションを実施するうち見えてくるものだ。外部評価機関では専門家がモニタリングを行っているが、この専門家もカリブレーションによってスキルを強化している。

 また、項目ごとに各自の苦手な項目や傾向を互いに確認することで、社内の基準を客観的に見つめなおし正しい方向に導くこともできる。このため、たとえ点数のブレが少なくなって意識統一が進んだとしても、カリブレーションの実施をとりやめることは望ましくない。

(コンピューターテレフォニー2009年2月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 11時57分 更新

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