クレーム対応のレシピ 第7回

団塊世代vsスマートフォン――
両者の溝に潜むクレームの“種”


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
この著者の講座はこちら

 知人がケータイをスマートフォン(スマホ)に替えたという。年齢は団塊の世代に近く、とてもアプリをダウンロードしてスマホを使いこなせるとは思えない。購入したのは、「半年間、通話料が無料」という宣伝トークに魅かれたもので、ついでにもう一台契約して高校生の娘にプレゼントし父親としての日頃の罪滅ぼしをしたらしい。

 ところが、これが思わぬトラブルを生んだ。キャリアが変わったことで、自宅での電波状況が悪くなり通話が頻繁に切れてしまう。それを補うアンテナがあると聞きショップを訪ねると、コールセンターに問い合わせるように言われた。電話ではわかりにくいと思い、わざわざ店舗に出向いたというのにだ。

 ここから先は、聞くも涙のアナログ人間の悲劇だ。電話をかけて「もしもし」と話しかけると、音声ガイドが対応。番号を押せというが、ダイヤルキーがどこかわからない。押せたと思うや隣の数字を押してしまう。やり直すと、今度は暗証番号が必要だという。番号を調べ、再度やり直し。なんとかオペレータにつながったが、たらい回しされたうえ、IDだのアクセスキーだのと理解不能の説明を繰り返され結局解決できなかった。温厚な知人も、ついに途中で怒り出してしまったとのことだ。

 オペレータは、クレームの電話を受けたとき、「自分はたまたま運が悪かった」と思いがちだ。だが、これでは、業務改善につながらず、応対スキルも上がらない。確かにクレームに遭遇する比率は少ない。たまたまこちらに落ち度があった、たまたまちょっとした行き違いがあった――不運が重なったケースが圧倒的に多いのは確かだ。しかし、企業側の都合で存在する『事情/環境』が、クレームを生みだしやすくしている場合もある。とくに、スマホをはじめ急速に発展したデジタル業界ではそうした課題を抱える企業が少なくない。

 顧客層が広く、問い合わせ内容は専門的で変化に富む――こうした業界の顧客サービスは非常に難易度が高い。先進的な情報機器を購買した顧客のすべてが、ITリテラシーが高いとは限らないためだ。オペレータは、顧客の知識レベルを見極めつつ、その理解度に合わせて真の要求を察知し、解決策を提示しなければならない。それを実現できるための仕組みを、企業側やコールセンターでは整えておく必要がある。

 別の知人(完全なる団塊の世代)で、PCの電源がどこにあるかも知らないのにEメールを使う方がいる。「.(ドット)」をなぜか「ドットコム」と読むと認識しているらしく、メールアドレスを聞かれると、「~ドットコム、~アットマーク、~ドットコム、シー、オー、ドットコム~」と読みあげる。このため、誰もアドレスを正しく聞き取れないそうだ。そういう筆者も団塊の世代に近い。これをまったくの人ごととは笑えない。


(コンピューターテレフォニー2011年10月号掲載)

第8回はこちら

この連載の一覧はこちら

この著者の講座はこちら

2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時46分 更新

その他の新着記事