「カスタマーサクセスBPO」の可能性
SaaS企業などの事業成長のカギを握るカスタマーサクセス。しかし、顧客との関係性が長期にわたるうえ、導入・活用支援から運用定着、アップ/クロスセル、解約抑止まで対応範囲は幅広く、サクセス組織は慢性的な人材不足だ。この解決策として注目されるのがBPOだ。コールセンター事業者も参入。カスタマーサクセス向けサービスの要点をまとめる。
カスタマーサクセスは、契約後から始まる顧客対応業務が重要なミッションだ。製品・サービスの導入・活用支援を端緒として、使いこなしや利用拡大の提案、解約抑止など、手厚いアシストが必要になる。当然、顧客との付き合いも長期にわたるケースが多い。
1人のサクセス要員が担当できる顧客数には限界がある。しかし、契約数の増加に伴ってサクセス要員を採用し続けていくのは非常に困難だ。労働人口の減少もあるが、カスタマーサクセスに求められる多岐にわたるスキル要件を持つ人材は極めて少ない。育成にも時間・費用がかかり、収益性を損ないかねない。このため、スタートアップのSaaS企業などは、慢性的な人材不足に陥いることが多い。
こうした状況を解消するのが、カスタマーサクセスのアウトソーシング(BPO)だ。重要顧客は自社社員のサクセス要員が対応し、ボリュームゾーンの一般顧客の対応を業務委託する。カスタマーサクセス専門のBPOベンダーもあるが、近年はコールセンター事業者(テレマーケティング会社)の参入も散見されるようになった。各社が提供するカスタマーサクセス向けサービスを検証する。
ギグワークス アドバリューは、今年8月、カスタマーサクセスソリューション「Customer Bridge」の提供を開始した。生成AIの台頭によりコールセンター市場が変化。問い合わせ対応の自動化・省力化による従来事業の縮小を見据え、新たなビジネス領域として着目したのがカスタマーサクセスだ。
「現在のカスタマーサクセスは属人的で非効率です。多くの企業で担当制が敷かれ、1人の担当者がオンボーディングからエクスパンションまですべてを担当しています。また、スキル要件が高すぎて人材の採用・育成もままならない。まずは業務を棚卸しして整理し、委託範囲を決めていきます。ここにこれまでのBPOで培ったノウハウを生かせます」と、取締役常務執行役員の高田秀行氏は強調する。
対象はSaaS企業だ。成長市場である一方、スタートアップが多く、事業拡大に伴ってカスタマーサクセスに課題を抱えているケースは少なくない。こうした企業に積極的に業務支援を行っていく。
具体的には、業務課題をヒアリング。業務フローを可視化したうえで業務の分業化と平準化を提案、コア/ノンコア業務を整理し、アウトソーシングする範囲を決めていく。当初はノンコア業務に注力するが、成熟してくればコア業務の一部を巻き取り、最終的には中堅中小企業(SMB)のコア業務を全面的に請けるなど、適用範囲の拡大も視野に入れている(図1)。
「まずはオンボーディング領域のノンコア業務の効率化から取り組み、徐々に適用範囲を拡大していく方針です」(執行役員 コンタクトソリューション事業本部 本部長の宮本俊幸氏)
採用については、月給制の契約社員制度を導入。給与水準は高く、正社員へのキャリアパスを示すことで高スキルの人材確保を目指す。「既存のサポート人材ではなく、新たに募集しています。BtoBのプロアクティブな対応が中心となるため、コミュニケーション力、問題解決能力、論理的思考力を重視しています」と高田氏は説明する。
今期(2025年10月期)中に、10社の契約獲得を目指す。
キューアンドエーの「BtoBマーケティングセールスサービス」は、企業の営業力強化を支援するサービス。単なる業務代行ではなく、クライアント側にノウハウが蓄積され、内製化できるまで支援するのが特徴だ。
「BtoB向けのSaaSソリューションを提供する企業で、サポート部隊をプロフィット化してカスタマーサクセスに昇華するまで伴走支援するパターンと、営業プロセス改革の一環でLTV最大化を目的にカスタマーサクセスを組織するパターンの2つがあります」と、マーケティング本部 マーケティング推進部 副部長 兼 DEGINEXT推進グループ長の坂倉秀太氏は説明する。サポート起点、営業起点の違いがあるが、近年は後者が多いという。
ひと口にカスタマーサクセスを組織すると言っても一筋縄ではいかない。個社ごとの違いが大きく、一般化できないためだ。そこで、まずはアセスメントとして実態調査を行う。営業プロセスを分解し課題を抽出。また、扱う商品・サービスの機能や特性、認知度、企業のブランド力、客層などによっても取るべき手法が変わってくる。個社ごとの特徴や考え方などを踏まえつつ、コンサルティングしながら、その企業に適したカスタマーサクセスを構築していく。
図2は、同社が提供するカスタマーサクセスサービスの全体像だ。顧客の状態──契約直後、利用促進、恒常的活用、高度な活用、利用拡大に応じて対策方法を策定し、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチを駆使して顧客をフォローしていく。一連のプロセスを内製化する際は「セールスイネーブルメント」で人材育成・組織力強化が可能。もちろん、同社のリソースを活用した業務委託もできる。
「我々がハイタッチを実践することもあります。結局、カスタマーサクセスの目的はLTVの最大化。継続的にお客様との関係を築きながら、契約維持やアップセルなど促す施策を行います」(板倉氏)
とはいえ、カスタマーサクセスはあくまで営業機能の一部。企業で内製化するのが本筋で支援範囲と捉えている。今後、これらの取り組みにより、営業支援サービス全体の売上拡大を目指す。
アディッシュは、カスタマーサクセス支援に特化したBPOベンダーだ。カバー範囲は幅広く、オンボーディングはもちろん、定着支援、チャーン対策から、カスタマーサポートまで実施(図3)。単なる運用代行のみならず、ゴール/KPIの設定、プロジェクト管理、ペルソナ策定など、戦略的なカスタマーサクセスを実践しクライアントのビジネス拡大に貢献する。
「SaaS系スタートアップ企業のBPO需要が高まっています。事業成長に伴い、一部の業務をアウトソースしたいというニーズです。また、最近はスタートアップの初期フェーズからBPOを利用したいというケースも増えています」と、執行役員 経営戦略本部長の小原 良太郎氏は市場を捉える。
商談ではコンサルティングから入ることが少なくない。企業の中で業務プロセスが型化されていないケースが多いためだ。例えば、オンボーディングの手法や着地点、期間などがあいまいで属人化しているような場合は、どのような状態になればオンボーディング成功なのかゴールを決め、KPIを設定して実践していく。とくにスタートアップ企業は余裕がないことが多いため、同社が積み上げた知見・ノウハウで業務設計していく。
近年はSaaS市場の拡大に伴い、カスタマーサクセスの業務内容は多様化している。営業、マーケティング、サポートなど、従来は分業化されていた要素をまとめて実践するケースもある。このため、人材要件は高く、営業やサクセスの経験者、あるいはBtoCの接客経験者で短期間で店長・副店長になったような人物を正社員雇用して育てている。クライアント先への常駐も多いため、コミュニケーション力は必須だ。また、カスタマーサポートの人材であっても、サクセスへの異動を見据えて採用、キャリアパスも整備している。
「サービスミッションは、クライアントのビジネスの成功実現。そのためには、多様なSaaS企業のカスタマーサクセスを実践して知見・ノウハウを貯め、どんなニーズにも応えられる必要があります。優秀な人材と豊富なノウハウが、差別化ポイントです」(小原氏)
◇◇◇
今後、SaaS市場の拡大とともにカスタマーサクセスの重要性が増し、アウトソーシングの需要も高まると予想される。しかし、歴史が浅く、SaaS企業側でも業務委託の内容が整備されておらず、BPO各社はコンサルティングを入口に商談獲得を行っている状況だ。
いかに豊富なノウハウを蓄積できるか、プレイヤーの少ない今こそ先駆者のチャンスといえそうだ。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年12月号 掲載)
2024年11月20日 00時00分 公開
2024年11月20日 00時00分 更新