伊藤 希美 第5回

本誌記事 寄稿 コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第5回

コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第5回

コミュニティ参加者が感じる3つの価値と
熱量を持続的に高める循環サイクル

前回・前々回で、コミュニティ立ち上げ時の企業側のポイントや、陥りがちな5つの落とし穴と脱出方法について解説した。今回は、コミュニティがある程度大きくなった後の多様なメンバーの特性の重要性と、熱量を持続的に高めていく方法を具体的にお伝えする。ポイントは、リーダー・フォロワー・オーディエンスを上手く循環させることだ。

伊藤 希美
Writer
MusuViva!コミュニティマネージャー/COWEN代表
伊藤 希美
1984年生まれ。東京大学・同大学院を修了後、野村総合研究所に入社。ヘルスケア領域の官民プロジェクトに従事した後、薬剤師・薬局本社勤務を経て2018年カケハシ入社。開発・CSを経てユーザーコミュニティ「MusuViva!」の立ち上げ・グロースに携わる。2024年5月に退職し、COWENを創業。

 コミュニティの初期は、基本的に熱量の高いメンバーを集めたほうがよい。だが、最終的にはさまざまな熱量レベルのメンバーが関与できる懐の深さが、事業への好影響を広げるうえでは必要だと、筆者は考えている。

 2010年に配信されたTED Talksの中にある「How to start a movement」というプレゼンテーションでは、野外フェスで1人の男が踊っている動画が映し出される。やがて、それを見ていた1人の男が近づいて同様に踊りだすと、次第に踊る人が増えていき、最終的に「踊らなきゃ損」と思えるような空気を作りだす。ここで強調したいのは、このうねりを作り出したのは最初の男ではなく、2番目に踊った男である点だ。

 「最初に真似をする」という勇気ある行動が、全体の雰囲気を動かした。つまり、何かを始めるリーダーがいても、あとに続くものがいなければムーブメントは起こらない。リーダーを称賛し真似するフォロワー、そしてそれを取り巻くオーディエンスがいてこそ、持続的な行動が起こる。

 コミュニティも同様である。薬局のコミュニティ「MusuViva!」では、ユーザーの行動ログをもとに参加者を3つのグループに分けた。これらのグループがコミュニティに感じている価値とともに整理するとのようになる。

図 参加メンバーが「MusuViva!」に感じている3つの価値
図 参加メンバーが「MusuViva!」に感じている3つの価値

Sグループ:社会的価値

 まずはコミュニティに率先して参加するSグループだ。コミュニティに「社会的価値」を感じ、「社会や業界をより良くしたい」「役に立つならシェアしたい」と、惜しみなく投稿やイベント主催・登壇をしてくれる。コミュニティの活性を生み出す「リーダー」である。

Aグループ:情緒的価値

 次に、Sグループの行動を称賛し、あとに続くAグループだ。コミュニティに交流や所属の喜びといった「情緒的価値」を感じる。投稿へのリアクションやコメント、イベント参加といったリーダーを支持する「フォロワー」的な行動で全体の雰囲気を決める、重要な存在である。

Bグループ:機能的価値

 最後に、前述の2グループから得られる情報に「機能的価値」を感じるBグループ。コミュニティ内のコンテンツを視聴する「オーディエンス」となる。リーダーやフォロワーのみでは「内輪で盛り上がっているだけ」になりかねず、事業への影響力も限定的になる。通常、最も多いBグループが、コミュニティに価値を感じ定着することは重要だ。

 Sグループのメンバーでも、忙しさや転職などによりコミュニティ活動が続けられなくなることもある。その時、A・Bグループを常に惹きつけ、BからA、AからSへと変化する循環を作れていれば、コミュニティは発展し続ける。リーダー・フォロワー・オーディエンスは、いずれも重要な存在である。

コミュニティ参加後のジャーニー

 では、この循環を具体的にどう作るのか。米国のコミュニティマネージャーのためのコミュニティであるCMXの創設者デイビッド・スピンクスの著書「The Business of Belonging」の中で提唱される「社会的アイデンティティサイクル」が参考になる。コミュニティ参加者は、①識別→②参加→③検証の3つのステージを常に繰り返す。例えば、どんな特徴やメリットのあるコミュニティなのかを識別し(①)、実際に参加する(②)。得られたものと①が合っているかを検証(③)し、合っていれば満足・定着する。有用で安心できるコミュニティだとわかったら(①)、自分から質問を投稿する(②)といった新しい行動を起こす。そこで自分の求めていた回答が得られたら(③)、また満足・定着する、といったサイクルである。大抵の新規参加者は「機能的価値」を求めるBグループから始まる。ゆえに参加してすぐ「期待していた情報」が得られたという体験をすることが大切だ。このサイクルを回しながら、B→A→Sへの変化を促そう。

隠れた「熱量の持ち主」を探す

 積極的に関わりたくても、実際には仕事や育児などで難しいメンバーもいる。そんな場合でも、オンラインイベントやラジオ風のコンテンツで気軽に参加できる機会を用意することで、隠れた熱量の持ち主と接点を作ることができる。

 また、日本人の奥ゆかしい性格もあり、投稿や登壇・企画に自ら手を挙げる人は少ない。巻き込むためには、小まめに意志確認をするとよい。MusuViva!では、イベント開催後のアンケートで毎回「コミュニティにどう関わりたいか(企画、登壇・発信、傍聴・閲覧)」を取得している。また、どうしても巻き込みたい相手には、相応しいテーマを掲げてイベントを企画し、登壇依頼を行っている。

 自ら前に出るタイプでなくても、日々信念を持って工夫している人、成功事例を持っている人は大勢いる。そうした隠れた熱量の持ち主を発見し、個別に巻き込む取り組みもまた、コミュニティを持続的に発展させるために欠かせない。

 次回はコミュニティの目標設定について解説する。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年10月号 掲載)

2024年09月20日 00時00分 公開

2024年09月20日 00時00分 更新

おすすめ記事

その他の新着記事