伊藤 希美 第4回

本誌記事 寄稿 コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第4回

コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第4回

コミュニティ立ち上げ時に陥りがちな
5つの落とし穴と脱出術

前回は、企業がコミュニティを立ち上げる際、留意しなければならない5つのポイントについて解説した。第4回目となる今回は、わかっていても陥りがちな「落とし穴」について5つの事項を紹介。そのうえで、それぞれの項目に対応する、実体験に基づいた具体的な解決方法について詳しく解説し、押さえるべきポイントを学ぶ。

伊藤 希美
Writer
MusuViva!コミュニティマネージャー/COWEN代表
伊藤 希美
1984年生まれ。東京大学・同大学院を修了後、野村総合研究所に入社。ヘルスケア領域の官民プロジェクトに従事した後、薬剤師・薬局本社勤務を経て2018年カケハシ入社。開発・CSを経てユーザーコミュニティ「MusuViva!」の立ち上げ・グロースに携わる。2024年5月に退職し、COWENを創業。

 企業がコミュニティを立ち上げる際、陥りがちな失敗や迷いのポイントは何か。5つのありがちな失敗を解説する。

1:目的を広げすぎる

 本連載の第2回では、「SPACESモデル」に沿ってコミュニティがビジネスにもたらす価値を、①Support、②Product、③Acquisition、④Contribution、⑤Engagement、⑥Success の6つに分けて解説した。このようにコミュニティは広範囲に効果をもちうるが、最初に目的を広げすぎるのは危険だ。広げるほど連携部署が多くなり、効果測定や価値説明が難しくなる。まずは効果を測定しやすい目的に絞って結果を出し、社内理解を促そう。

2:初期コストをかけすぎる

 コミュニティは曖昧で効果を説明しにくく、またスタート時には費用対効果の見合うコミュニティに育てられる保証はない。それゆえ、費用のかかるオンラインコミュニティや大規模ミートアップは、初期にはおすすめしない。少人数で集まる機会で手応えを得てから、段階的に発展させていくほうが安全だ。

3:大人数で始める

 コミュニティはよく「焚き火」に喩えられる。焚き火は最初、燃えやすい小枝や枯れ葉に火を付け、その火を徐々に太い薪に移して安定させる。火が大きくなれば、燃えにくい生木を入れても消えないが、その前に入れれば消えてしまう。最初はコミュニティに高い熱量で関わってくれそうなメンバーで始めることが重要だ。

4:新しい人が発言しづらい

 前項と矛盾するようだが、コミュニティの発言者が「いつものメンバー」で固定されてしまうことも落とし穴の一つだ。新しい人が入りづらくなり、入っても発言しない、いわゆる「見る専」ばかりが増えていくと熱量が下がってしまう。コミュニティには常に活発な新しい人が入り、適切に入れ替わることが必要なため、新しい人が入りやすい雰囲気も大切だ。

5:参加者を「お客様扱い」する

 企業は、通常の文脈の中では顧客を「お客様扱い」する。一方で、コミュニティ施策ではそれとは少し異なる関係が必要だ。この関係は「18年連続増収を導いた ヤッホーとファンたちとの全仕事」(佐藤 潤著 日経BP)にある「ファンは仲間であり、友人であり、同志」の言葉に凝縮されている。コミュニティは参加者が主役。企業にやらされるのではなく、参加者が主体的に楽しみ活動することが欠かせない。丁重に扱いすぎたり、営業したり、厚意に対価を支払うことは、参加者との「仲間感」の醸成を妨げる可能性がある。

落とし穴からリカバリする方法

 あるとわかっていても落ちてしまうのが落とし穴。筆者が薬局向けコミュニティ「MusuViva!」で実際に経験した落とし穴と、その抜け出し方を紹介する。

「広すぎる目的」の抜け出し方

 立ち上げ当時の目的は広く抽象的だった。「製品をより良くし(②Product)、顧客との絆を築き(⑤Engagement)、ユーザーの成功事例を生み(⑥Success)、新規顧客獲得につなげる(③Acquisition)」と説明していた。しかし、この説明は聞こえは良いが効果を実感できず、社内説明も苦労した。

 その後、「事例を生む」ことに集中した結果、その事例を活用したい営業やカスタマーサクセス(CS)に喜ばれ、「CSにコミュニティを活用したい」「コミュニティの事例をお客様が喜んでくれた」といった言葉も多く寄せられるようになった()。

図 立ち上げ時のコミュニティの目的の絞り方(例)
図 立ち上げ時のコミュニティの目的の絞り方(例)

「初期コスト」の抜け出し方

 MusuViva!立ち上げはコロナ禍と重なり、初期メンバーが各地に点在していたためオフラインで集まるのが難しく、オンラインコミュニティとして始まった。そのため、最初からサイト運営費を抱えることになり、費用対効果の説明に苦労した。

 しかし、前項のように目的を絞り込み、営業やCSに良い効果が出始めると、次第に社内説明がしやすくなる。コミュニティの効果は「事業貢献」など大上段から考えるのではなく、まずは「他チームに喜んでもらう」に注力して結果を出すのがおすすめだ。

「新しい人が発言しづらい」の抜け出し方

 熱量の高い少人数で立ち上げたのはよかったが、その後熱量の高いユーザーは思うようには現れなかった。新規参加者がコミュニティに馴染み、積極的に参加するプロセスの設計が十分でなかったのだ。

 そこで新規参加者中心に数十人から、コミュニティに入った動機や実際の所感をヒアリングして分析。その内容をもとに、サイト構成を新規参加者にとってわかりやすく変更した。また、このヒアリングは熱量の高い新たな参加者を発掘する機会にもなった。ヒアリングとサイト構成の見直しは、立ち上げから3周年を迎えた今でも継続している。

 こうした落とし穴を事前に認識し回避することは大事だが、落ちてもリカバリは可能だ。社内やコミュニティ参加者と「仲間」となり、ユーザーにも会社にも喜ばれるサイクルを作り上げる取り組みに、終わりはない。

 次回は、コミュニティの熱量を持続的に高めていく方法を具体的にお伝えする。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年9月号 掲載)

2024年08月20日 00時00分 公開

2024年08月20日 00時00分 更新

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