コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第3回
第1回〜2回の寄稿で、近年コミュニティが注目されている背景、コミュニティの目的を絞り明確にすることの重要性について解説した。今回からは具体的な運営面において押さえるべきポイントについて説明する。実践において、企業がコミュニティを立ち上げる際、押さえるべきポイントは何か。今回は、立ち上げ時のポイントを5つにまとめて紹介する。
企業がコミュニティを立ち上げる際、何からはじめるべきか。「ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング」(小島英揮 著、日本実業出版社)を参考に重要な点を紹介する。
1.コミュニティ担当者が自社製品のファンである
コミュニティ施策は、人から人へと熱量が伝播されていき、その結果として最終的に製品活用の促進や新たな購買行動が起きることを期待して行う。したがって、最初の熱源はコミュニティ担当者その人だ。担当者が真にその製品の価値を信じ、また、顧客に敬意を持って接すること。顧客にとっての価値や社会にどのような影響を与え得るかを、自分の言葉で語れることが重要である。
2.「ファーストピン」を探す
ファーストピンとは、ボウリングの一番先頭のピンを指す言葉で、コミュニティ運営初期のメンバーやリーダーのことだ。この熱量が他のユーザーに連鎖すると、最小限のリソースで、顧客体験を最速で最大化することができる。
ファーストピンの共通点は、(1)その会社・製品のファンであり、(2)実際に価値を感じていて、(3)他者のために行動することを厭わないの3つ。
BtoBでハイタッチ支援をする場合、サクセス担当者が見つけることも多い。BtoCの場合は、「ネスカフェ アンバサダー」などのアンバサダープログラムや公式SNSアカウント施策などが有効だ。
3.関心軸を揃える(コンテキストファースト)
ファーストピンを見つける過程で見えてくるのが「関心軸」だ。なぜ会社や製品を愛してくれるのか、何に価値を感じているのか。逆に欲しているもの、もっと知りたいことは何か。その共通点を見出すことで、コミュニティで扱うべきこと、関心軸が見えてくる。それを明確にし、それ以外は扱わないことでコミュニティの意義がわかりやすいものとなる。
ユーザーコミュニティの関心軸として最も多いものは「製品活用事例」だ。これはカスタマーサクセスやマーケティングなど、企業視点でも活用価値が高く、多くのコミュニティで中心に置かれている。
4.信頼構築から始める(トラストファースト)
コミュニティには、コミュニティサイト中心のものと、イベント中心のものがある。目的によって重点が変わるが、サイト上に人を集めるだけでは、投稿やコメントなど「してほしい行動」を促せず、情報を受信するだけのメンバーばかりを増やしかねない。それではメルマガ施策と変わらない。
だからこそ、まずは顔の見える信頼関係を築ける場作りから始めることが大切だ。ファーストピン候補とも1対1で対話し、最初は十数人〜数十人程度のオフラインイベントで、担当者やファーストピンの熱量が直接伝わる場を作ることで、行動してもらいやすくなる。
5.発信する文化を作る(アウトプットファースト)
コミュニティは、ユーザー同士がイベントの感想などを発信(=アウトプット)し、知見・経験をシェアし、質問が飛び交うことで活性化する。新しい参加者を呼び、大きなムーブメントとするには、発信した顧客が称えられ、発信しやすい文化を作ることが重要だ。
筆者がユーザーコミュニティ「MusuViva!(ムスビバ)」を、立ち上げた際の事例を紹介する。MusuViva!は、医療関連サービスの開発・提供を手掛けるカケハシが運営し、「ともに考えともに創る、薬局のあした」をコンセプトにした薬局向けのユーザーコミュニティだ。まず、企業側の担当者の熱量だが、筆者はコンサルタント・薬剤師をともに経験し、「薬を渡すだけ」ではない薬局・薬剤師の可能性・重要性は深く理解しているつもりだ。「よりよい医療の未来のために、一歩踏み出すことを応援したい」という本心が、ユーザーに共感してもらえた理由の一つだと考えている。
ファーストピンには、初期顧客や社内からの推薦者を含めて、7名のユーザーを初期メンバーとし「コミュニティパートナー」と称した。発信が得意、周囲を気遣い称えることが得意、などメンバーの多様性は後々の発展に寄与した。今では15人程の集団となっている。
関心軸はあえて製品活用事例に限定しなかった。初期メンバーとの対話で「カケハシなら薬局業界を変えてくれるのではないか」との期待や、「先進的な薬局経営者とつながり、その思考・取り組みを知りたい」との要望が明確化したからだ。そこで、薬局経営・運営全般について「新しい一歩を踏む」取り組みを扱い、製品活用はその一環と位置づけた。
信頼関係構築は、コロナ禍に加え初期メンバーが全国各地に点在していたため、オンラインで行った。初期の7名全員で対話を重ね、プレオープン時は50人規模に抑えた。設立から3年近く経つ今でも、初参加メンバーには担当者と1対1で話せる場を用意している。
デスクワーカーではないというユーザー特性も加味し、発信を無理強いはせず、コミュニティパートナーをはじめ抵抗がない人には発信を推奨した。企業側からのお題の提示や、代理投稿も発信を促しやすく有効だ。
このように、5つのポイントは型通り運用するというより、会社や顧客の特性に合わせて適宜アレンジが必要だ。次回は、立ち上げ時の落とし穴について解説する。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年8月号 掲載)
2024年07月20日 00時00分 公開
2024年07月20日 00時00分 更新