本誌記事 ケーススタディ ヌーラボ

ヌーラボ

127万ユーザーの利用を支援する
「テックタッチ&ロータッチ」施策

提供価格が安価なサービスも多いSaaSソリューション。プロジェクト/タスク管理ツール「Backlog」も同様で、拡大する一方のユーザーのオンボーディング支援は、採算面において、ハイタッチ中心型では不可能に近い。そこで注力すべきはテックタッチとロータッチ施策だ。サポート部門など、さまざまな部署との連携を軸とした施策を検証する。

 国内企業のカスタマーサクセス部門にとって、最大の課題といっても過言ではない「テックタッチ」の確立。BtoBのSaaS提供企業ではハイタッチ支援に注力する傾向が強いが、ユーザー数拡大に伴う、サクセス部門のリソース(人員)不足は深刻な課題だ。

 プロジェクト/タスク管理ツール「Backlog」を展開するヌーラボ(福岡県福岡市、橋本正徳代表取締役)は、2024年1月現在、4名でカスタマーサクセスチームを構成。この陣容で、約1万3000団体・社、127万人もの契約者の利用を支援している。

リテラシーがバラバラなユーザー
高いハイタッチ支援の難易度

 Backlogのリリースは、2005年までさかのぼる。まだクラウドはおろか、SaaSという言葉すらほとんど認識されていなかった時代に、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)型で提供していた。当時は、主にIT部門のエンジニアが複数社にまたがるプロジェクトの管理ツールとして利用されていたが、クラウドサービスの普及とコロナ禍でユーザー層が飛躍的に拡大している。

 カスタマーサクセス課の松尾祐介氏は、「エンジニア以外のビジネス職のお客様の利用が拡大し、ITリテラシーにもばらつきが生じてきました」と説明。2019年まで、“1人サクセス部門”として活動していたマネージャーの原 彩香氏も、「サービス単価が安価なこともあって、幅広いハイタッチ支援は難しい状況」とテックタッチ/ロータッチの必要性を強調する。なお、Backlogの提供価格は、無償のフリープランから、スタータープランは月額2970円、ユーザー数が無制限になるスタンダードプランでも月額1万7600円だ。

 テックタッチによる支援は、約10名で構成するカスタマーサポート部門によるヘルプサイトや、有人チャットといったいわゆるパッシブ(リアクティブ)施策と、サクセス部門が実施する「オンボーディングメール」「ビデオライブラリーの誘導」などが中心だ()。

図 「Backlog」の顧客対応業務
図 「Backlog」の顧客対応業務

 オンボーディングメールは、MAツールの「Marketo(マルケト)」(アドビ)を活用。顧客セグメントや導入プランに合わせて適切なタイミングで情報提供を実施し、基本操作を学ぶことができるビデオライブラリーに誘導している。動画の再生回数は2023年12月段階で5万5000回を超えており、着実に成果が上がっている。

 ロータッチ施策はウェビナーが中心だ。基本的な活用法に加え、人事・労務向け、製造業向け、問い合わせ対応部門向けなど、業種や業務に特化した内容も実施。視聴者数は、コンテンツによってばらつきはあるものの、2022年下期、2023年上期はいずれも計1000人以上が受講している。さらに大きな貢献を果たしているのが、「コミュニティ」だ。2017年から正式発足した「JBUG」と名付けられたオンラインコミュニティは、すでに2500名以上が参加。各地域でBacklogのファンを中心としたオフラインのユーザー会が開かれるなど、活発に活動している。

 充実したテックタッチ/ロータッチ施策だが、それでも個別相談のニーズはある。そこで2024年1月、「あんしん!Backlog導入支援プログラム」という有償ハイタッチサービスをリリースした。契約から3カ月以内のユーザ―に対し、キックオフミーティングの同席、ビジョン作成や体制構築などをワン・トゥ・ワンで支援する。期間は約3カ月で、金額はプロジェクト数や参加メンバーで変動、「概ね数十万円」(原氏)という。

カスタマーサクセス課マネージャーの原 彩香氏(左)、松尾祐介氏(中)、チームリーダーの笠町拓矢氏(右)
カスタマーサクセス課マネージャーの原 彩香氏(左)、松尾祐介氏(中)、チームリーダーの笠町拓矢氏(右)

アップセル型ではないサクセス業務
重視すべきは「LTV」の最大化

 同部門は、常に顧客の行動を意識した施策を打ち出しており、カスタマージャーニーマップを描き、ペインポイントを抽出して動画やウェビナーのコンテンツに活かしている。また、サポート部門、セールス部門、開発部門との連携も活発だ。サポート部門が導入しているITソリューション「Zendesk」のアカウントはサクセス部門も保有し、問い合わせの状況を把握。「週1回は必ずオンラインミーティングし、ホワイトボードツールなどを駆使して課題を共有している」(原氏)という。

 最大のKPIは、「2年以内の解約抑止率」に設定。Backlogに限らず、SaaSソリューションは年間契約のケースが多いため、“2年めの継続”はサクセス部門の貢献が大きな要素となる。オンボーディングの基準も厳密で、「ユーザーのプロフィール設定状況、既読率はスペース全体で90%以上、課題の作成数、通知に対する反応などをウォッチして判断しています」(カスタマーサクセスチームリーダーの笠町拓矢氏)。

 さらに原氏は、「プロダクトの性格上、他のサクセス部門で盛んに行われているアップセルやクロスセルは実践しにくい。必然的にKPIも、ARRやMRRではなく、中長期的な“LTV”を重視しています」と説明する。

 原氏は、カスタマーサクセスの定義について、「(クライアント企業の利用者が)このチームで仕事してよかったと感じ、コラボレーションワークを楽しめている状態」と説明する。こうした利用者が増えれば、解約に至ることなく、さらにクチコミでユーザーが拡大する──正のスパイラルを回すエンジン役を果たしている。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年3月号 掲載)

2024年02月20日 00時00分 公開

2024年02月20日 00時00分 更新

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