本誌記事 インタビュー Leaner Technologies 織茂 尚之 氏

ARR3倍を実現した3つの施策

People インタビュー

サービスの価格はカスタマーサクセスが決める!
ARR3倍を実現した3つの施策

2023年12月、カスタマーサクセスコミュニティ「CS HACK」主催のピッチバトル「第7回カスタマーサクセス天下一武闘会」で優勝したのが、Leaner Technologies(東京都品川区、大平裕介代表取締役CEO)の織茂尚之氏だ。「事業を伸ばすカスタマーサクセス」を実現した手法を聞いた。

織茂 尚之 氏
Leaner Technologies
Customer Success 責任者
織茂 尚之 氏
早稲田大学卒業後、2016年に新卒でリクルート(旧リクルートジョブズ)に入社。採用領域のソリューションコンサルタントとして、通算100社以上の大手顧客の事業成長に貢献。2021年、Leaner Technologiesにセールスとして参画。カスタマーサクセスの立ち上げ、プライシングなどの設計を行い、現在5名のチームを統括する。

──事業と組織概要を教えてください。

織茂 Leaner Technologiesは、企業の調達部門が見積もりを取り、比較、決定するまでのプロセスをオンラインで完結するソリューション「Leaner見積」、間接材購買を一元管理する購買プラットフォーム「Leaner購買」を提供しており、主なお客様はエンタープライズ(大企業)の調達部門です。2019年に創業し、2021年にLeaner見積をリリース、今期の売上高5億円を見込んでいます。

 カスタマーサクセスチームは現在5名。サービスの特質上、ハイタッチでのオンボーディングが必要であるため、企業ごとにカスタマーサクセス担当者を据え、オンボーディングからリニューアルまで一貫して対応しています。KPIはNRR(売上維持率)で、オンボーディング完了の定義は「(1)導入企業の見積もりのすべてがLeaner経由で取得されていること、(2)導入企業で見積もり業務に関わる全員がLeanerを使えること」です。

審査員から高い評価を得た
サクセス主導のプライシング

──優勝発表の概要はどのような内容ですか。

織茂 ARR(年次経常収益)が1億から3億への成長を目指すフェーズで取り組んだ施策について発表しました。それが「オンボーディング完了後にNRRを伸ばした3つの施策」()です。(1)の「ロードマップ会」は、機能開発の優先順位を全社で一致させるべく、営業、カスタマーサクセス、開発の3者間で意見合わせをし、どこから開発するのか、どこを機能開発に頼らず営業とカスタマーサクセスの工夫で乗り越えるのかなどの線引きとスケジュールを明確にしていきました。また、週に1度、3部門のメンバーが集い、役職・役割にかかわらず、自由に意見や考えを出し合い意思決定をする「相棒制度」も設けて事業を推進しました。相棒メンバーは四半期のローテーションで入れ替わります。

図 サクセス体験の増幅→NRR向上に向けた3つの施策

図 サクセス体験の増幅→NRR向上に向けた3つの施策

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 (2)の「三層接点」は、顧客企業の「決裁者(役員)・推進者(部課長)・ユーザー」3層の組織図を営業段階で作成。契約開始後はカスタマーサクセスに引き継ぎ、顧客企業のサクセスシナリオ作成に活用しました。社内利用が拡大するなかで機能の追加要望が出たときには、カスタマーサクセス部内で分類し、「なければ業務に支障が出る」重要度の高いものを開発部門に伝えています。(3)では、アップセルを強化すべく価格決定のロジックをカスタマーサクセス主導に変更しました。

──当日、審査員から高く評価されたのが(3)のプライシングでした。詳細を聞かせてください。

織茂 高単価SaaSの場合、営業段階で新規予算枠を顧客側で確保してもらう必要があり、当社製品もその類にあたります。あらかじめ予算枠のあるビジネスと比べて、営業の難易度は高い。そこで、少しでも新規顧客へサービス提供するために、顧客が期中で捻出可能な契約価格に見直しを実施。正式導入後にカスタマーサクセスが顧客の目指すべき姿の実現に向けてアップセルする必要があると考えました。具体的には、機能をMust have(なくてはならない)、Nice to have(あるとよい)、Unacceptable(大半の人が不要)に分類し、なくてもよい機能をそぎ落とし、顧客が求める価値に合わせたプランを設計しました。プライシングは一般的に製品企画や営業で定めることが多いのですが、導入後に成果を創出できている顧客と最前線でコミュニケーションを取るカスタマーサクセスだからこそ、顧客目線での最適化が図れたと考えています。

サクセス業務ができる土台は
利益をもたらす機能と組織

──価格設定には重い責任が生じます。サクセス部門としてそこまで担った理由は。

織茂 当社でカスタマーサクセスを立ち上げたのは実は2回目です。創業当初、購買商品の価格を比較できる「支出分析ツール」を提供していたのですが、経営判断で提供中止となりました。私はカスタマーサクセスとして担当のお客様1人ひとりにサービス中止の旨をお詫びして回りましたが、お客様をがっかりさせてしまった苦い思い出となりました。このとき強く思ったのが、「本当にお客様に満足してもらうには、売り上げを上げなければならない」ということ。ここから、カスタマーサクセス部門が主体的に経営貢献する方法を模索しはじめました。そのひとつがプライシングです。

──ご自身の考えるカスタマーサクセスが果たすべき役割とは。

織茂 SaaS提供者のミッションは「業界のスタンダードを刷新すること」、そしてカスタマーサクセスマネージャーのミッションは「顧客のビジネス成果を最大化」させることだと考えています。当社でも「調達のスタンダードを刷新し続ける」という企業ミッションを掲げ、カスタマーサクセスは「顧客と業界のスタンダードをリードする」責務があると考えます。それには、「現状」と「顧客が目指す姿」のギャップを埋めるだけでなく、『顧客が想像できないサクセスの実現』が重要です。その考え方を実践し、お客様にパートナーとして選んでもらえる存在であり続けたいです。

(2024年2月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2024年01月20日 00時00分 更新

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