藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第16回(最終回)

普及の障壁と拡大する未来へ向けての提言

Trend 連載

カスタマーサクセスとサポート
普及の障壁と拡大する未来へ向けての提言

カスタマーサポートとカスタマーサクセスの両職種に向き合い、さまざまな観点から考察、執筆してきた。最終回は、およそ1年間の連載で検証してきた、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの関係性について整理。5つの事業形態別の違い、サクセスがサポートで普及するカギ、サクセスが広がるためのポイントなどについて解説する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、X(旧Twitter)、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、さまざまな点において捉え方が異なっている。事業形態ごとに、1.事業会社、2.コールセンター向けBPO事業者、3.カスタマーサポート向けツールベンダー、4.メディア、5.SaaS企業それぞれについての現状をまとめる。

 1.事業会社:先進的な取り組みをリードしている企業も多い、事業会社のカスタマーサポート部門は、カスタマーサクセス業務についてもキャッチアップしているケースが目立つ。例えば、メルカリのカスタマーサポートは、コールセンターチームの運営においてカスタマーサクセスのフレームワークや指標を参考にしていた。

 2.コールセンター向けBPO事業者:カスタマーサクセスについては検討段階であるベンダーが多い。大手クライアントの要望に伴い、コールセンター案件の一環としてカスタマーサクセス業務を担っているケースはある。その内容の多くは、既存顧客や会員に対する利用促進のフォローコールだ。現時点では、こうした案件は少数のようだ。

 3.カスタマーサポート向けツールベンダー:一部の企業はカスタマーサクセス向けにも訴求しているが現時点では少数。問い合わせ削減が理想段階に至っていない現段階においては、カスタマーサクセスまでは手が回っていないのが実態だ。

 4.メディア:本コーナー「CS MEDIA」を含めて、カスタマーサポート部門をプロフィットセンター化するうえでカスタマーサクセスは注目されている。今後も発信は強化されていくだろう。

 5.SaaS企業:個人事業主向け、あるいは店舗向けの単価が低いSaaS製品を扱う企業では、カスタマーサポートの要素が強く、カスタマーサポートとカスタマーサクセスを兼務する部門が多い。だが、法人向け高単価のSaaS製品は、カスタマーサポートを設置せず、営業とカスタマーサクセス部門の担当が顧客対応するケースが大半だ。

 このように全体を俯瞰すると、カスタマーサポートから見たカスタマーサクセスは、まだキャズム理論における「アーリーアダプター層向け」のものといえる。一部、先駆的な取り組みとして活動は垣間見えるも、本流にはなっていない。

サクセスがサポートで普及するカギ

 カスタマーサポートとカスタマーサクセスにおいて、大きく溝があるのは、「ギーク」と「スーツ」の違いだ。ギークとは、Web/IT業界の服装が自由で技術知識が高い人たちのこと。スーツはその対で、スーツなどの正装をしているビジネス寄りの人たちだ。

 カスタマーサクセスは日に日にギーク化が進んでいる。話の内容もテクニカル、ニッチで“オタク”の方向に向かっている。一方、カスタマーサポートは、「カスタマーサクセスの基本的なフレームワークを知りたい」という温度感だ。カスタマーサクセスについてのリテラシー格差は良くも悪くも大きく、両者の溝は深い。

 そのため、カスタマーサクセスの人に専門的なカスタマーサクセスの話をしてもらうのではなく、カスタマーサポートの人にカスタマーサクセスに関する発信機会をもっと増やしていかなければ、この溝は埋まらないだろう。市場拡大のためには、カスタマーサポート職種をバックグラウンドとして持つカスタマーサクセスの発信者が増えていくことが望まれる。

 また、実案件としてカスタマーサポート職種がカスタマーサクセスに取り組んでいるという事例の登場も複数必要だ。インサイドセールス、アウトバウンドコールの機能を有しているコールセンターも多い。このリソースをカスタマーサクセスに活用しているという実際の事例が数多く増えることで、よりカスタマーサポート職種のカスタマーサクセスへの関心は広がるはずだ。

図 カスタマーサポートとカスタマーサクセスの発信

図 カスタマーサポートとカスタマーサクセスの発信

サクセスがSaaSから広がるポイント

 カスタマーサクセス職は逆に、SaaSやITに閉じすぎている傾向がある。これは「カスタマーサクセス」という活動を広めるうえではひとつの課題となるはずだ。サクセスの発祥はSaaSベンダーであるが、SaaSのみでカスタマーサクセスを行う限り、業種の広がりは難しい。非IT企業におけるカスタマーサクセスの成功事例が、数多く増えていかなくてはビジネスの領域で普及することはない。現在は、その過渡期にある。今後は、カスタマーサクセスを、さらに抽象化したものとして、ビジネス戦略やビジネスノウハウとして捉え、活用していく企業が増えることが普及には欠かせない。

 当然ながら、費用対効果が合わなければ普及しない。カスタマーサクセスは営業的な数字に一層、向き合うべきだ。予算を拡大するには、カスタマーサクセスによる営業の売上高への貢献度を高めることが重要だ。具体的には、カスタマーサクセスの発想や考え方を生かした「営業力の改善」「営業のデジタル化」により、売り上げを伸ばすことなどがある。カスタマーサクセス活動ならびにカスタマーサクセスを意識した営業活動において、どれだけ売り上げを上げるかを目標としたい。

 もとよりカスタマーサクセスは、不況期に解約と新規契約の鈍化が目立つ状況下で、いかに大手企業や優良顧客をつなぎとめ、売り上げを担保していくか──という発想からはじまった取り組みだ。つまりは「営業戦略」と言える。そのため、どのような企業であってもカスタマーサクセスを導入することができる。今後、業界や職種を超え、広くカスタマーサクセスが普及していくことに期待したい。

(2024年2月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2024年01月20日 00時00分 更新

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