「CustomerSuccess Day! 2024春」誌上レビュー
編集部は5月、オンラインイベント「CustomerSuccess Day! 2024春」を開催した。先進事例やITベンダーによる講演、パネルディスカッションを展開したが、そのなかから特別パネルディスカッションの模様を採録する。コンタクトセンターで離反抑止などのカスタマーサクセス施策を実践する2社の事例からは、徹底した「顧客理解」に基づく全体最適化のアプローチが垣間見える。
カスタマーサクセス部門のミッションとは、一般的に(1)オンボーディング支援による利用定着(アダプション)、(2)離反(チャーン)抑止、(3)利用拡大(アップセルなどによるエクスパンション)──とされている。
しかし、カスタマーサポート部門であるコールセンターにも、こうした役割を担う企業は決して少なくない(図1)。とくにBtoCにおいては、これらは「ほぼコールセンターのミッション」といっても過言ではない。
カスタマーサクセス部門にとっても、長い間、積み重ねてきた取り組みから学ぶ点があるのではという仮説から、今回はとくに「チャーン抑止」について、月刊コールセンタージャパン誌上で紹介したことのあるWOWOWコミュニケーションズ、メルカリの2社のキーマンが出演、そのポイントを議論した。
衛星放送大手のWOWOWのカスタマーサービスを担うWOWOWコミュニケーションズでは、緻密な顧客DB分析に基づく離反抑止策を実践している。CRM本部執行役員の渡邊 博氏は、「配信サービスが乱立し、市場がレッドオーシャン化するなか、提供コンテンツはもちろんですが、カスタマーサクセスの実践には信頼や愛着といったロイヤルティ醸成が何より重要」としたうえで、「個々のお客様が“自分の好みを理解してくれている”と感じてもらうために、“気持ち”を理解したレコメンデーションができないかと考えました」と説明する(図2)。
同社では、顧客が商品やサービスを求める理由に着目。データマネジメントチームを組織し、「男気あふれる」「泣ける」「ハラハラドキドキ」など、45種別1300ものメタマスタを構築、コンテンツに紐づけ、オペレータが顧客が好むコンテンツの推奨トークに活用した結果、抑止効果として対応当日のみならず、3カ月後の残存実績も好転している。
一方、メルカリは出品者と購入者、そして新規登録というそれぞれのサービスプロセス(構造)においてKPIを設定し、離反要因を徹底分析している。Japan Region Trust and Safety Ops&OpsProgram Directorの山田和弘氏は、「離反要因を定量・定性の両面から分析し、お客様が感じた課題に対して自己解決とカスタマーサポートで即時に対応する体制を整えています」と説明する(図3)。
その結果として、事務局が取り引きを仲介するエスクロー決済、宛名書きなどのプロセスを省略したメルカリ便、価格のサジェスト機能などのAI出品やバーコード出品など、先駆的なサービスを続々と投入している。
両社に共通するのは、「徹底した顧客理解」へのアプローチだ。WOWOWコミュニケーションズでは顧客の嗜好分析を深めた結果、顧客自身も気づいていなかった感情までもを可視化、より魅力的なコンテンツ提案に結びつけている。メルカリは、出品や購入、登録の各プロセスのペインポイントを徹底分析し、「部門の垣根を超えたカスタマーエクスペリエンスの担保と高度化」(山田氏)に取り組み、いずれも一定のチャーン抑止に成功している。
良質なカスタマーエクスペリエンスの提供によるロイヤルティ向上は、企業と顧客のすべてのプロセスにおける体験が組み合わさって、はじめて成立する。BtoCでもBtoBでも、「サクセス部門だけ」「サポート部門だけ」「営業だけ」という部門最適化の取り組みだけでは不可能で、顧客理解の深度も共通化する必要があるのを、2社の事例から読み解くことができる。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年8月号 掲載)
会員限定2024年07月20日 00時00分 公開
2024年07月20日 00時00分 更新