藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第15回

Trend 連載

効果は明確だが取り組み難易度も高い
「ヘルススコア」指標のつくり方

カスタマーサクセス業務における重要指標とされる「ヘルススコア」とはなにか。コールセンターなどのカスタマーサポートで使われてはおらず、馴染みが薄いKPIだが、顧客を理解するという目的においては有効な考え方と指標である。今回は、ヘルススコアを読み解きながら、運用をどのように考えるべきかを解説する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、X(旧Twitter)、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 カスタマーサクセスは顧客との契約関係の長期継続を目標としている。長期の関係性を構築することで、売り上げ単価が上がり、契約回数の増加も期待でき、結果として売上貢献を見込むことができる。しかし、長く使い続けてもらうには能動的なフォローアップが重要だ。

 カスタマーサクセスは、顧客接点をジャーニーという線で考え、最終目標である「顧客の長期の契約」から逆算して製品の活用方法や便益を能動的に伝えていかなくてはならない。カスタマーサクセスのジャーニーは、製品をうまく使いこなす「オンボーディング」から始まる。オンボーディングとは製品活用の立ち上がりを指しており、長く自社の製品を愛好してもらうため、製品を好きになってもらう、活用に成功してもらうための案内をするものだ。カスタマーサクセス部門は、オンボーディングが軌道に乗り、利用が継続され、最終的に取り引きが拡大していくことを目指す。ここで考えるジャーニーは長期間のため、リードタイムは年単位で考える。1年、2年、あるいはそれ以上、継続的に自社の製品を利用し続けてもらうことで発生する投資対効果(コストに対して回収できた売り上げ)を目標に置いている。

長期関係性を担保するヘルススコア

 しかし、契約の継続を年単位で考えると、今の取り組みやコミュニケーションが正しいのか否か判断しにくいというデメリットもある。年単位の契約継続となると、変数が無数に増えていくので、何を改善すればいいのかわからなくなる。契約の継続とは遅効指標なので、年単位でしか計測できないと、結果がわかるまでにかなり時間を要する。時間軸が長いため、計測、改善ともに難しい。そこで中間的な指標として、「ヘルススコア」という概念が登場した。

 契約継続という観点から、顧客の製品活用の状態や、自社との関係性、製品のROIなどの状況を把握し、悪いと顧客離れを起こす。解約される前に、これらの状況をデータで見て、顧客の健康状態をチェックしようという考えがヘルススコアだ。ちなみに、カスタマーサポートにおける問い合わせ内容がヘルススコアには含まれることもある。複数のデータソースから組み立てるという側面があるからだ。

 ヘルススコアは次の順番で設計し、運用していく。
1.重要な指標を計測する仕組みを順番に作る
2.重要指標を統合する
3.統合したデータを加味して、顧客状況を点数化する
4.点数に合わせてアクションを作る

ヘルススコアを設定する手順

1.重要な指標を計測する仕組みを順番に作る
 まずは、顧客との中長期の契約/購買関係を維持してもらううえで、測っておきたい指標を取得することから始まる。カスタマーサポートで取得することが多いNPS(ネット・プロモーター・スコア)や問い合わせ件数もそのひとつだ。また、契約のプラン、製品の利用頻度など、自社製品との深耕度合いを測るデータも指標として取得していく。

2.重要指標を統合する
 そのうえで、各指標をBIやCRMなどのダッシュボードを用いて、1つの画面に統合する。顧客のデータは複数のツールに点在している。顧客のIDやメールアドレスなどをキーに、1つのツールの中で統合管理できるようにする。カスタマーサポートにおいても、問い合わせ件数などがCRMの中に格納されていることがあるが、カスタマーサクセスにおいてはこれに加え、営業部門や開発部門が持っている顧客に関するデータも加えて管理する。

3.統合したデータを加味して、顧客状況を点数化する
 ヘルススコアを運用するには専用ツールが必要だ。データが統合されたダッシュボードを作った後に、格納された各データの状況から点数のロジックを組み立てていく。自社の製品を毎月触っていれば5点、クレームが来たらマイナス3点といったように、重要な顧客のアクションを点数付けしていく。

4.点数に合わせてアクションを作る
 そして、その点数に応じたコミュニケーションやタスクのアクション設計をする。「この顧客はヘルススコアはXX点なのでXXをする」「アラートで知らせる」といった仕組みにして、顧客の健康状態を数値で図りながら能動的に接点作りをする。

 ヘルススコアの取り組みの難易度は非常に高い。とくに複数人でタスクをこなすとなると、シンプルな施策に集約せざるをえない。このため1の「重要な指標を計測する仕組みを順番に作る」でとどめて、顧客の状態がわかるデータを2〜3個用意し、これを参考に手動でフォローや案内する施策から始めるのが現実的だろう。カスタマーサポートの活動においても、顧客の情報を十分に知っておいたほうがよりよいサポート対応が可能になる。このことから、データを統合管理することに投資をする意味があることはわかるはずだ。

図 ヘルススコアの考え方

図 ヘルススコアの考え方

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(2024年1月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年12月20日 00時00分 更新

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