本誌記事 インタビュー sasket 山田 ひさのり 氏

サポートとサクセスの共通ゴール

People インタビュー

サポートとサクセスの共通ゴール
「顧客体験の向上」と「顧客の成功」

「サクセスとサポートは本来、目指していたゴールは同じ。違うのは登場した時代背景」と強調するのが、sasket代表の山田ひさのり氏だ。数多くのサクセス部門のコンサルティングを行う同氏に、サクセス部門の抱える課題と具体的な解決策を取材。本号と次号の2回でまとめる。

山田 ひさのり 氏
sasket
代表
山田 ひさのり 氏
ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。2013年、Sansanに入社。のちにCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、IT企業へのCSアドバイザリーに従事している。『カスタマーサクセス実行戦略』(翔泳社)の著者。

──カスタマーサポート部門の名称を「サクセス」と変える企業も登場しはじめていますが、サポートとサクセスの共通点や違いを教えてください。

山田 本来、カスタマーサポートもカスタマーサクセスも目指していたものは同じで、「顧客体験の向上」や「顧客の成功」にあると思います。ただ、サポートが普及しはじめた数十年前はテクノロジーも未発達で、「顧客の成功」を捉える術がなく、仮に挑戦したとしてもその精度が低かった。結果的に、目標は「顧客満足の向上」でとどまることになり、とくにコールセンターのような顧客接点では“一期一会の満足度”を高めることに特化していったのではないでしょうか。

 一方でサクセス部門はインターネットやSaaSビジネスの普及を背景に登場したため、データの可視化がすでに組織の前提条件となっていました。「顧客のアウトカム(ゴール、サクセス)」を実現する点で目新しく捉えられがちですが、目指している地点はサポートと同じです。

体系化できていない企業が大半
サクセスに必要な3ステップ

──現在、国内カスタマーサクセス部門の多くが直面している課題は何でしょうか。

山田 適切な手順で施策を確立できていない企業が大半です。カスタマーサクセスが登場した背景には、「顧客の8割は自社のゴールを明確化できておらず、使い方指南だけではサクセスに達しない」という現実があります。したがって、サクセスの基本業務は、(1)顧客のアウトカムを把握する、(2)プロダクト価値を伝えきる(オンボーディング)、(3)典型的なアカウントプランでビジネス成果につなげるというステップとなります。

 ところが、現在のところプロダクト提供価値を一方的に伝えることに終始している企業が多いのです。

──具体的な事例を教えてください。

山田 例えば、24時間営業しているフィットネスジムであれば、「24時間いつでも使える」というのは、自分たちが知り尽くしたプロダクト・サービス提供価値であり、他社との差別化要因です()。このプロダクト価値を一方的に伝えたところで、「当社は他社と差別化できています」という主張に過ぎず、響かない顧客もいるでしょう。必要なのは、明確な意思と意図を持って契約しようとした顧客が何を求めているかを知り尽くしたうえでのアカウントプランです。顧客がそのジムに興味を持った背景には「健康な体を手に入れたい」「痩せたい」など、実現したいアウトカム(ゴール、サクセス)があるはず。この個別なアウトカムをヒアリングし、それを実現するための個別のアカウントプランでフォローアップしていくことがサクセス本来の業務なのです。ところが、この違いが理解されておらず、単に「利用開始のフォロー(オンボーディング)」「解約阻止(チャーン抑止)」に追われ、疲弊している現場が多いのです。

図 カスタマーサクセス実現の3ステップ

図 カスタマーサクセス実現の3ステップ

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人海戦術は回避すべし
まずは2〜3パターンに分類

──最近のSaaS企業では、事業のスケール(拡大)への対応が求められる一方で、採用難に見舞われるケースも少なくありません。教育も短期間で実施せざるを得ず、オンボーディング集中型になってしまうのもやむを得ないと感じるのですが。

山田 ポイントは、この“個別”のアウトカムとアカウントプランは、すべてが個別なものではなく、概ね2~3パターンに分類できるということです。まずは「典型的なアウトカムは何か」を確立します。これができれば、それを実現するためのアカウントプランが見えてきます。ここまで描くことができれば、サクセス業務を一定のルーティンに落とし込むことが可能になります。このルーティン化した部分を中心に、テックタッチやロータッチでカバーすることで、特例事情のある企業や、売り上げの大半を占める大口企業に人手を集中できます。

 カスタマーサクセスに限らず、「全体をITで設計したうえで、どうしても必要なところに人手を割く」というスタンスがベストです。なぜなら一般的に、SaaSビジネスの急成長をフォローしているのは“自己解決のサポート”だからです。例えば、マイクロソフトのOfficeは、テンプレートの提供や使い方の解説ページなどはありますが、細やかな人手によるサポートを常時提供しているわけではありません。一般的に、規模がスケールするほど自己解決率が高くなっていくのが、企業の成長プロセスとしても最適と言えるでしょう。「自己解決を前提とした全体のIT設計」を実現するにはコストや人手を要するため、ある程度の事業スケールは必要となってくるものですが、意識しておくべきポイントです。

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次回、ChatGPTのサクセスへの適用、トレンドのひとつであるコミュニティ運用のポイントを聞きます。

(2023年5月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年04月20日 00時00分 更新

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