AIコンタクトセンター構築のための『再設計』 運用し続けるための壁の越え方 第3回

2026年11月号 <AIコンタクトセンター構築のための『再設計』 運用し続けるための壁の越え方>

長崎大都

戦略編

第3回

「選定」はAIオペレータ本格展開の出発点
RFPに盛り込むべき7つのチェックポイント

AIオペレータは、PoCで成果が出ても、本格展開で同じように運用できるとは限らない。安定して稼働するには、音声精度だけでなく、ハルシネーション対策や継続的な改善、ナレッジ管理、顧客体験、外部システムとの連携まで見据えたシステム選定が不可欠だ。本稿では、本格展開に耐えるAIオペレータを見極めるために、RFPに盛り込むべき7つのチェックポイントを解説する。

PROFILE
RightTouch 代表取締役CEO
長崎大都
京都大学を卒業後、IGPI入社。複数企業の事業戦略立案から新規事業立ち上げ、事業投資に従事。2019年よりプレイドに参画しRightTouchを創業。AIコンタクトセンター構築を支援するプラットフォーム「QANT(クアント)」を開発・提供。代表取締役として事業全体をリード。

 多くの場合、AIオペレータの導入はPoC(概念実証)から始まります。

 PoCでは課題が生じたとしても、人が補いながら進められます。しかし、数万〜数十万件のコールを対象とした本格展開となると、人力による監視や修正には限界がでてきます(図1)。

図1 PoCの壁
図1 PoCの壁

 運用が回らなければ、良い顧客体験はつくれず、AIオペレータの効果も得られません。第1回、第2回で解説した「顧客体験の罠」「チューニングの罠」「ナレッジデータの罠」は、いずれも本格展開で表面化する問題です。そこで今回は、AIオペレータのRFP(提案依頼書)に盛り込むべきチェックポイントを7項目に整理して解説します(図2)。

図2 7つのチェックポイント
図2 7つのチェックポイント

実運用の土台となる
音声精度・信頼性・運用改善

 7項目のチェックポイントは、3つのグループに分けると理解しやすくなります。第1グループは、実運用の土台となる①音声精度、②信頼性、③運用改善。第2グループは、体験品質に差が出る④ナレッジ、⑤「日本品質」を満たす顧客体験。第3グループは、対応範囲を広げる⑥外部システム連携、⑦マルチチャネルです。ここからは、各項目の考え方を解説します。

①音声精度

 音声品質の判断では、モデルのアーキテクチャだけに議論を寄せるべきではありません。RFPで問うべきは、そのAIが「実運用に耐える品質を日々安定して提供できるか」です。具体的には、次の4点を確認します。

・レイテンシ:応答の遅れが「不自然な間」にならないか
・読み上げ精度:漢字、数字、英字、記号、金額や契約IDを正しく読めるか
・用件把握の精度:言い直し、方言、雑音があっても意図を捉えられるか

 これらは短時間のデモでは判断しにくいため、実際の電話環境に近い条件と、想定外の発話を含むシナリオで検証する必要があります。

 現時点(2026年8月)では、音声をテキスト化してからLLM(大規模言語モデル)、音声合成へつなぐ「カスケード型」(STT→LLM→TTS)は、中間段階にチェック処理を挟みやすい方式です。AIエージェント企業のdecagonも、「信頼性」「ハルシネーション対策」「コスト効率」を理由に採用しています。一方、音声を直接処理するSTS(Speech to Speech)型は応答速度に強みはあるものの、ガードレールや英数字の扱いは製品ごとの確認が欠かせません。ここで見るべきポイントは、方式名ではなく、実機で品質を確かめ、設計思想をベンダー自身の言葉で説明できるかどうかです。

②信頼性

 信頼性では、ハルシネーションを、大きく3つのタイプに分けて確認します。

 存在しない商品を案内するような「明らかな嘘」には、用意したナレッジを検索して回答に利用するRAG(検索拡張生成)が対策になります。「古い情報による誤り」にはナレッジの継続的な更新、「ルールや文脈に反する回答」にはプロンプトやガードレールによる制御が必要です。

 RFPでは、対策機能の有無だけでなく、ハルシネーションをどう検知し、例外処理や有人対応へどうエスカレーションするかまで確認します。

 また、同じ指示や入力でも結果が1つに定まらない「非決定性」への対策を確認する必要もあります。

③運用改善

 本格展開には、AI応対を担う「エージェント」だけでなく、それを安定して動かす運用基盤、いわば「ハーネス」が必要です。RFPでは、「a.応対ログの全量監視と問題検知」「b.非エンジニアでも扱える管理画面」「c.ナレッジやプロンプトの自動改善」「d.変更後の回帰テスト」「e.モデル更新への追随」「f.自然言語で課題調査から変更確認まで行える仕組み」を確認します。

 また、「自動改善」の実態が、問題発生後に人がプロンプトを直す運用にとどまっていないかにも注意が必要です。自動化の範囲、管理画面、実際の改善フローをデモで示せるかが判断材料になります。

品質に直結する
ナレッジ・顧客体験

④ナレッジ

 確認すべきポイントは、「AI-Ready化」と「統合管理」の2点です。AI-Ready化とは、PDFの画像や複雑な表をテキストに変換するだけでなく、問い合わせの前提条件、分岐、手順、例外まで整理し、AIが状況に合う情報を選べる状態にすることです。

 例えば、「ログインできない」という問い合わせでも、ID/パスワード忘れ、アカウントロック、システム障害といった原因次第で、確認事項や参照先、案内手順が異なります。分岐が明示されていなければ、AIは状況に合わない回答を選びかねません。

 一方、統合管理は、AI向けナレッジを既存のFAQやマニュアルとは別に作った場合に、二重・多重管理が発生することへの対策です。原典が変わるたびに各ナレッジを人手で修正し、整合性を確認する必要があり、チャネルが増えるほど運用負荷も膨らみます。更新漏れは、AIが古い情報を参照する原因になります。

 対策では、原典とAI向けナレッジを紐づけて統合管理することが肝要です。原典の変更を検知し、影響するAI向けナレッジを特定して差分を連動更新できれば、既存業務を維持しながら、精度と情報の鮮度を保てます。RFPでは、「(AIが)読める・選べる」形への変換と、紐付け・更新管理の双方を確認すべきです。

⑤「日本品質」を満たす顧客体験

 顧客体験は、「知性」と「感性」の2層で捉えると分かりやすくなります。知性とは、用件を把握し、正しい回答で問題を解決する力です。日本のコンタクトセンターでは、それを前提(当たり前品質)として、丁寧さや個別の状況への配慮まで求められる場面があります。これらは、感性──TPOに応じた先回りや、相手の理解度に合わせた説明などが加わることで満たすことができ、顧客体験の差となります。

 感性を高めるには、VOC(顧客の声)に加え、SVやベテランオペレータが持つシーン理解や暗黙知を登録し、AIが参照できる仕組みが有効です。RFPでは、正答率に加え、現場の知見を継続的に取り込むことが可能かを確認します。

対応範囲を広げる
システム連携・マルチチャネル

⑥外部システム連携

 第1は、PBX/CTIといった電話システムとの連携です。例えば、オペレータに転送する際、外線転送だけでは通話コストが増え、発信者番号を引き継げない場合があります。AIからオペレータへ応対内容を渡すことも見据えている場合は、SIPやWebSocketなどの接続方式や、情報連携の範囲を確認します。ヒアリング内容を有人対応へ引き継げれば、転送後の聞き直しを減らし、顧客体験の棄損防止、ATT(平均通話時間)や通話コストの削減にもつながります。

 第2は、基幹システムやCRMシステムとの連携です。金融業界では、顧客を特定しなければ解決できない問い合わせが全体の7割近くを占めるとも言われます。対応範囲を広げるには、本人認証後の顧客データを用いた応対が必須であり、そのためにはまずAPIで連携できるかを確認することが重要です。

⑦マルチチャネル

 音声だけでなく、WebのAIエージェントまで対応範囲を広げれば、AIによる対応比率を高められます。ただし、チャネルごとにロジックや改善機能が分かれていては、体験の一貫性を保てません。共通のAIロジックと改善基盤を使えるか、チャネルをまたいで会話の文脈を引き継げるかを確認します。ナレッジの変更を各チャネルへ一貫して反映できることも重要です。

RFPのデモの確認軸
「応対」と「管理画面」

 RFP時に確認する実演デモでは、応対の自然さだけでなく、本格展開後に現場が改善運用を続けられるかまで評価します。確認軸は「応対」と「管理画面」の2つです。

 応対については、特定シナリオのみを確認するのではなく、ある程度抽象的なシナリオを与えて確認することをお奨めします。特定シナリオのみの場合、そのシナリオに限定したチューニングが行われてしまい、本来の対応力を見誤る可能性があるためです。言い換えや言い直し、曖昧な表現、雑音を含む発話、想定外の質問なども交え、用件を正しく把握できるかを確認します。

 回答できない場合は無理に答えず、例外処理や有人対応へ適切につなげられるかも重要な評価項目です。また、同じ内容を表現や条件を変えて複数回質問し、回答の安定性も確かめるべきです。

 管理画面では、問題のある応対をログから発見し、原因を特定して、ナレッジやプロンプトを修正し、回帰テストを経て反映するまでの一連の流れを見せてもらいます。「自動改善です」のような説明だけで済ませず、どの工程をAIが担い、どこで人が確認・承認するのかを、実際の操作で確認することが大切です。

 併せて、閾(しきい)値や会話の分岐ルールがプロンプトに直接書き込まれていないかも確認します。設定が長大なプロンプトに埋め込まれていると、変更の影響範囲が分かりにくく、本格展開後の調整が属人化しかねません。設定が構造化されていて、非エンジニアの現場担当者でも継続的に改善可能かを見る必要があります。デモの見栄えに惑わされず、応対と運用の両面から本番運用力を評価することが、RFP選定の精度を高めます。

 AIオペレータの選定は、ゴールではなく出発点です。音声精度だけでなく、信頼性・運用改善・ナレッジという運用性、日本品質を満たす顧客体験、外部連携・マルチチャネルという拡張性まで含めて評価する。それが、本格展開に耐えるAIオペレータを選ぶ近道です。

 次回は、日本のコンタクトセンターに必要な設計思想を掘り下げます。全顧客への丁寧な応対、説明責任、暗黙知への依存という現場の特徴を踏まえ、AIと人が共通のナレッジベースで学び合う仕組みを考えます。

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会員限定2026年10月20日 00時00分 公開

2026年10月20日 00時00分 更新

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