AI時代の人材トレーニング 「人が話す価値」の高め方 第2回

2026年11月号 <AI時代の人材トレーニング 「人が話す価値」の高め方>

石橋由佳

実践編

第2回

第一印象を左右する「声の表情」
「笑顔で」「ゆっくり」をスキルに変える

前回は、AI時代のコールセンターでは、人の応対に求められる役割の変化と、具体的なスキルに分解して育成する必要があることをお伝えしました。今回からは、その具体的なスキルを1つずつ取り上げていきます。第2回のテーマは、電話応対の第一印象を大きく左右する「声の表情」。「笑顔や優しさのある声」と「ゆったりと話す」の重要性と再現できるスキルの育て方について解説します。

PROFILE
booster 代表取締役
石橋由佳
応対品質向上、電話応対研修、応対品質調査を支援。AI活用が進む時代において、人が担う応対の価値を「話し方」「聴き方」「伝え方」のスキルとして整理し、現場で再現できる教育設計を行っている。お客さま満足とビジネスの成長を両立する会話づくりを目指す。
https://www.callcenter.ne.jp/

 「笑顔や優しさのある声」と「ゆったりと話す」。どちらも基本的なスキルですが、実際の現場では「できているつもり」と「相手に伝わっている状態」に差が生まれやすいスキルでもあります。

 AIが定型的な用件を正確に処理できるようになるほど、人が話す場面では、情報の正しさだけでなく、安心して話せる、きちんと自分に向き合ってもらえていると感じられることが大切になります。その入口にあるのが「声の表情」です。

電話では「声」が第一印象をつくる

 電話応対では、お客さまが受け取る情報の中心は「声」です。同じ「お電話ありがとうございます」という言葉でも、明るく温かく聞こえることもあれば、事務的、冷たい、無表情に聞こえることもあります。

 電話応対で笑顔は大切です。ただ、何よりもまず避けたいのは、事務的で無表情な印象を与えることです。お客さまにとって電話の相手は見えません。だからこそ、声の印象が、その人自身の印象として受け取られやすくなります。

 特にオープニングは重要です。まだ用件の確認も説明も始まっていない数秒の段階で、お客さまは「感じがよさそう」「話しやすそう」といった印象を持ちます。最初に温かい印象があれば、その後の会話にも入りやすくなります。逆に、冒頭から冷たく聞こえると、その後に丁寧な説明をしても、最初の印象を引きずることがあります。

 つまり、「声の表情」とは、単に明るい声を出すことではありません。お客さまにどのような印象で届いているかを意識し、場面に合った表情を声に乗せることです。

「笑顔で話して」だけでは、なぜ変わらないのか

 現場では、「もっと笑顔で話しましょう」とフィードバックすることがあります。方向性としては間違っていません。しかし、それだけでは改善につながらないケースがあります。

 理由は、「笑顔」の程度が人によって違うからです。指導する側がイメージする笑顔と、オペレータ本人がイメージする笑顔が同じとは限りません。本人は十分に表情を出したつもりでも、録音された応対を聞くと、ほとんど変化が感じられないことがあります。

 これは、本人の意識が低いからではありません。電話では、自分が表現している感覚と、相手に伝わる印象にズレが生まれやすいからです。

 同じことはスピードにも起こります。「もう少しゆっくり」と言われて本人なりに速度を落としても、聞き手にはまだ速く感じられる。逆に、本人は「こんなに遅く話して大丈夫だろうか」と不安になる速度が、聞き手にはちょうどよいこともあります。

 このズレを理解しないまま、「笑顔で」「ゆっくり」と繰り返しても、指導する側とされる側の感覚はなかなかそろいません。そこで、私たちが指導の際に使っている考え方が「1/2の法則」です(図1)。

図1 「1/2の法則」
図1 「1/2の法則」

電話では表現が弱まる「1/2の法則」

 「1/2の法則」とは、自分では十分に表現しているつもりでも、電話越しでは、その表情感や気持ちが自分の感覚より弱く伝わる、と考えるものです。

 たとえば、自分としては100%の笑顔で話しているつもりでも、聞き手には50%程度の表情感にしか感じられない。もちろん、実際に必ず半分になるという科学的な数値ではありません。電話応対で起きる「話し手の実感」と「聞き手の印象」の差を、分かりやすく理解するための考え方です。

 この法則を知っておくと、応対中の感覚が変わります。自分では「少し大げさではないか」と感じるくらい頬を上げて話してみる。自分では「ずいぶんゆっくりだ」と思うくらい時間をかけて話してみる。すると、録音した声を聞いたときには、むしろ自然に感じられることがあります。

 大切なのは、「自分がどう話しているつもりか」ではなく、「相手にどう届いているか」を基準にすることです。

 この視点は、SVやリーダーのフィードバックにも役立ちます。「私はもっと明るく話した方がいいと思う」と指導者の感覚を伝えるだけではなく、「この2つを聞き比べると、どちらがお客さまには話しやすく聞こえると思いますか」と、聞き手の視点で一緒に確認できます。

 オペレータ自身にとっても同じです。「自分は笑顔で話しているから大丈夫」「かなりゆっくり話しているから大丈夫」ではなく、ときどき自分の録音を聞き、相手側から確認してみる。この習慣があると、感覚だけに頼らず、自分の応対を調整しやすくなります。

 また、「1/2の法則」は、常に何でも大げさにすればよい、という意味ではありません。重要なのは、自分の表現がそのままの強さでは届かない可能性を知り、必要な場面では意識的に表現を足すことです。お客さまの状況に応じて声の表情を変えるためにも、まず自分の声がどの程度に聞こえているのかを知ることが出発点になります。

「いつも通り」と「少しオーバー」を比べる

 「笑顔や優しさのある声」をつくる具体的な方法として、頬を上げて笑顔を強調することを重視しています。私たちは、覚えやすい目安として「歯8本の笑顔」という言葉を使うこともあります。歯を正確に8本見せること自体が目的ではありません。頬を上げ、普段より意識的に表情をつくるための目安です。

 ただし、ここでも説明だけでは十分ではありません。そこで研修やフィードバックなどの指導の場面では、実際に声を録音して聞き比べます。

 やり方はシンプルです(図2)。まず、いつも通りに「おはようございます」など、普段よく使う短いフレーズを話して録音します。次に、本人が「少しやりすぎかな」と思う程度に頬を上げ、笑顔を強調して、同じ言葉をもう一度録音します。

 そして、2つを続けて聞きます。

図2 笑顔の聞き比べ
図2 笑顔の聞き比べ

 多くの場合、「いつも通りの方は、思ったより暗く聞こえる」「話しているときはオーバーだと思った方が、聞くとちょうどよい」といった気づきが生まれます。ここで初めて、「自分に必要な笑顔の程度」が具体的になります。

 集合で行う場合は、参加者に目を閉じてもらい、1人ずつ2種類の声を聞き比べます。「どちらが感じよいか」「どう印象が違うか」を聞き手に話してもらうことで、指導者の主観ではなく、聞き手にどう届くかを確認できます。

 ここで大切なのは、「正解の笑顔」を押しつけることではありません。本人自身が、自分の声の変化を耳で確認し、「この程度まで表情をつけると、相手にはこう聞こえる」という基準を持つことです。

 笑顔は、比較的「型」をつくりやすいスキルでもあります。オープニングやクロージングのように使用頻度の高いフレーズで自分の基準をつくっておくと、日常の応対でも再現しやすくなります。

 一方、会話中ずっと同じ笑顔で話す必要はありません。困りごとや不安を伺うときは落ち着いた声にし、うれしい話題では表情を大きくする。場面に合わせたメリハリも大切です。

スピードは「数値化」で指導する

 もう1つ、声の印象を大きく左右するのが話すスピードです。電話では、基本的には普段の会話よりもゆったり話すことを勧めています。お客さまにとってなじみのない商品説明や手続きの案内では、聞いた情報を頭の中で整理する時間も必要だからです。

 早口には大きく2つのデメリットがあります。1つは、お客さまが内容を十分に理解できないまま会話が進みやすいことです。もう1つは、速く話すほど声の表情をつけにくくなることです。抑揚や丁寧さをつける余裕がなくなり、説明は正確でも、事務的、冷たい印象になりやすくなります。

 そして、スピードは改善が難しいスキルでもあります。説明が長くなったときや会話に集中したときなどに、無意識に速くなります。

 そのため、「もう少しゆっくり」と伝えるだけではなく、「自分にとっての適切な速度」を具体的に持ってもらうことが重要です。そこで、スピードを数値化して聞き比べます。

 まず、いつも通りに話す感覚を「1倍」とします。次に、同じフレーズを1.3倍、1.5倍、必要であれば1.8倍や2倍程度まで、「それくらいゆっくり話すつもり」で録音します。ここでいう「1.5倍」は「1.5倍速」ではなく、「普段より1.5倍の時間をかけて話す」というイメージです。実際の応対で使う言葉を録音し、その後、目を閉じてお客さまの立場で聞き比べます。

 すると、普段より1.3倍、もともとかなり速い人では1.5倍、ときには1.8倍程度の時間をかけた音声が、最も聞きやすいと感じられることがあります。

 スピードの指導で大切なのは、全員を同じ速さにすることではありません。「あなたの場合、どの程度の速度がお客さまに最も聞きやすいのか」を一緒に探すことです。一度、その基準を自分の耳で確認しておけば、SVから「今日は少し速くなっています」と言われたときにも、戻るべき速度をイメージしやすくなります。

 ただし、原則はゆったりでも、お客さまの状況に合わせる視点は必要です。急いでいるお客さまに対して極端にゆっくり話せば、かえってストレスになることがあります。テンポよく会話される方には、ある程度そのリズムに合わせた方が話しやすい場合もあります。

 お客さまの様子に合わせて調整する。そこまでできて初めて、スピードをコントロールできていると言えます(図3)。

図3 スピードを数値化して適正速度を探す
図3 スピードを数値化して適正速度を探す

自分の基準を持ち調整する

 笑顔とスピードの指導には共通点があります。それは、「指導者が正解を伝える」ことよりも、「本人が自分の基準を持つ」ことが大切だという点です。

 今回取り上げた笑顔やスピードは、どちらも派手なテクニックではありません。しかし、声が事務的、冷たく聞こえないこと、相手が無理なく聞き取れる速度で話すことは、その後の会話を成立させる土台です。お客さまが安心して話せる声があってこそ、必要な事情や不安も話していただきやすくなります。そこが整って初めて、言葉の奥にある事情や不安をくみ取り、必要な情報や安心を会話の中で整えていく「先読み応対」に進むことができます。

 そして、感じのよい声で話せることと、気持ちが伝わることは同じではありません。「ありがとうございます」「申し訳ございません」と言っていても、定型句のように聞こえることがあります。同じ言葉でも、スピードや抑揚、間によって、お客さまへの届き方は変わります。

 次回は、「心のこもったお礼やお詫び」と「抑揚をつけて表情を豊かに話す」を取り上げます。お礼やお詫びを、ただ言葉にするだけで終わらせず、「気持ちが伝わる表現」にするにはどうすればよいのか。今回の「声の表情」から一歩進めて、具体的なスキルとして考えていきます。

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会員限定2026年10月20日 00時00分 公開

2026年10月20日 00時00分 更新

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