藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ

サクセスとサポートの歴史に紐解く 本質ミッションのあるべき姿

連載 カスタマーサクセスAtoZ 
openpage 代表取締役 藤島誓也



サクセスとサポートの歴史に紐解く
本質ミッションのあるべき姿


 カスタマーサクセスとカスタマーサポート。誕生の経緯も、抱えるミッションも異なるが、実際には業務内容が類似していることも多い。互いに学びあう点、補える点は数多い。本連載では、カスタマーサポートを経験し、カスタマーサクセスの ITツールを開発提供する著者が、双方が学ぶべき点を考察する。まずは、両組織が誕生した経緯を振り返る。


 「カスタマーサポートは消極的」「カスタマーサクセスは積極的」という比較を目にすることがある。実際、両者の業務やミッションに違いはあるのだろうか。
 カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、名前こそ似ているものの、職業として登場した背景も、業務の目的もまったく異なる。確かに「顧客とのコミュニケーション」という観点では共通点はあるが、混同しすぎてはいけない概念だ。優劣をつけるものでもなく、カスタマーサポートの発展系がカスタマーサクセス、というわけでもない。
 両者は学び合うことはでき、また、顧客体験の向上という目的において、職種としての交わりもあるだろう。会社内の異動によって両者どちらかの職種にジョブチェンジすることもあり得るはずだ。
 職業として比較した際に、カスタマーサポートは 20年以上の歴史があり、カスタマーサクセスはまだ生まれて数年の新しい職種だ。日本においては、この2つの職業のノウハウの橋渡しが必要と感じている。まずは、それぞれの歴史を振り返ってみたい。



カスタマーサポートの由来

 カスタマーサポートは、「電話機」の普及した後の「お客様相談室」「受注窓口」「テレホンバンキング」の拡大に紐づいている。
 日本国内の加入電話数は、1977年に3500万台。当時、大家族世帯が一定比率占めていたことを考慮に入れると、人口に対する利用比率はかなり高かったといえる。電話機が企業にとって有効なメディアとなったのはこの頃だ。 その後、80年代後半からメーカーの「お客様相談室」、通販の「受注窓口」、90年代半ばの銀行の「テレホンバンキング」の順で拡大した。とくにCTI技術の登場でテレホンバンキングは大きなインパクトを受けた。結果、カスタマーサポートが職業として確立したというのが通説だ。
 1990年代には、PBXなど電話系のシステムが発展し、外線の制御や内線同士の接続が容易になり、多くの企業がコールセンターを自社の活動として設置するようになった。本誌が発行されたのも、PBXの国内発展が期待された1998年である。同年にはWindows98、2001年にはWindowsXPが発売。インターネットの普及により顧客連絡を一元で対応する窓口はEメールに範囲が広がった。現在はスマートフォンの普及でLINEサポートも一部登場している。


カスタマーサクセスの由来

 世界ではじめてカスタマーサクセスを職種化したのは、Salesforceと言われる。同社は1999年に創業、2004年に上場、カスタマーサクセス部門は2000年代後半には出来上がっていた。その後の2010年代前半は、Salesforceを倣ったSaaSベンダーが次々と生まれ、カスタマーサクセス部門を創設した。 周知の通り、Salesforceは、ITソリューションをオンプレミス型からSaaSへと提供形態を、契約形態は月額請求のサブスクリプションモデルとなった。見方を変えれば、BtoBにおけるシステム導入において、従来の受託開発のような大きな売り上げを見込めなくなったということだ。サブスクリプションモデルにおいては、初期契約で大きな売上げを計上できない代わりに、長期契約による継続的な課金の積み重ねによって事業が評価される。
 LTVと呼ばれる、契約期間の長さと単価(単価はアカウント数や機能利用数などで確定)の掛け合わせの最大化が、カスタマーサクセスにおいて重要となる。 契約を長期化させるには、契約の解約を防がなければならない。システムの解約は多くの場合、すぐに発生するものではなく、1~2年、長引く場合は3年以上のリードタイムを経たうえで起こりがちだ。このため、解約タイミングや想定される契約期間、LTVが読みにくい。そのため、SalesforceはEWS(アーリーワーニング・システム)という、解約の傾向がある顧客をデータによって検知し、解約可能性の高い顧客が発見された場合にアラートをあげるような仕組みを導入した。
 これが現在のカスタマーサクセスにおける「ヘルススコア」、つまり顧客の“健康状態”を示す。利用状況やコミュニケーションの状況から青・黄・赤などでステータスを可視化している。また、離反を検知する前の予防施策として、顧客に製品を適切に利用してもらうための製品オンボーディングをサポートする仕組みをSalesforceは作りあげた。
 このように、SaaSの中長期契約を促進するための職業がカスタマーサクセスのミッションだ。この名称は、Salesforceの代表マーク・ベニオフ氏が、会社経営者である父親が顧客を重視する姿勢と思いつけた、Salesforceにとってのコアバリューでもある。 カスタマーサポートとカスタマーサクセスのそれぞれの歴史を簡単に振り返ってきた。これらの違いからもわかるようにその業務やミッションは、消極的/積極的という単純な区分けによるものではない。
 カスタマーサポートでも問い合わせ自体がなくなるように積極的なフォローアップをすることもあり、カスタマーサクセスでも顧客から入ってくる問い合わせに受動的に対応することもある。本連載を通じて、2つの業務における職業としての誤解を解き、職業の価値や歴史を尊重し、双方の知見となる情報を発信する。





 

2024年01月31日 18時11分 公開

2022年10月20日 09時23分 更新

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