グローバル最大級のカスタマーサクセスイベント・レポート
グローバル最大級のカスタマーサクセス向けオフラインイベント「Pulse」。毎年米国にてGainsightの主催で開催されており、今年は5月に米国中西部セントルイスで開催された。同イベントに参加したカスタマーサクセス向けの教育・組織コンサルティングなどを手掛ける丸田絃心氏が、生成AI活用などの最新トレンドなどをレポートする。
グローバル最大のカスタマーサクセス・カンファレンス「Pulse」が2024年5月15日〜16日の2日間、米国中西部セントルイスで開催された。主催はカスタマーサクセスプラットフォームを提供するGainsight。2013年から毎年開催されており、世界中から数千人が参加するカスタマーサクセスの祭典といえるイベントだ。
11回目の開催となった今年は、図にある9つのテーマに分けてセッションが展開された。「生成AI活用」や「顧客育成(カスタマーエデュケーション)」が新たなテーマとして登場し、日進月歩の生成AIは、カスタマーサクセスの領域でももっとも注目を浴びた。一方で、カスタマーサクセスとは、完全に自動化された機械的な対応をゴールとするものではない。あくまで、「主役は人と人の対話の中にある」という意味での「ヒューマン・ファースト」は引き続きテーマとして取り上げられた。
冒頭のテーマ「ヒューマン・ファーストAI」では、Gainsightの新たなAI機能「Gainsight AI」が発表された。国内カスタマーサクセスにおいても課題に多く挙がる、顧客データの分析や業務の生産性向上などが飛躍的に改善される可能性を示した。カスタマーサクセスとは、顧客と自社の成果を出すことを目指す職種だ。例えば、顧客の成果としては売上向上、リード拡大、業務効率化、離職率低下などがあり、自社の成果としては解約率の低減や売上維持率の向上などがある。これらを実現するためのカスタマーサクセス活動として、顧客育成、課題解決、利用促進、関係構築などがある。ヒューマン・ファーストAIの台頭は、とくに顧客育成、課題解決、利用促進の3つの生産性が大きく向上することを予見させる。具体的には、AIがさまざまな顧客情報や利用データなどを分析し、個々の顧客に合わせた最適な支援内容を最適なタイミングで瞬時に準備する。その結果、これまで人手を割いてきた時間を、顧客や自社の成果を出すための「より人間らしく」「よりクリエイティブな」業務に費やせるようになるはずだ。
また、「カスタマーエデュケーション」に関する事例も多く発表された。カスタマーサクセスは、提供する商材の特徴によって支援方法が異なる。例えば、データ分析ツールのように商材自体を使いこなすことが難しい場合は、使い方の知識や使いこなすために必要なスキル伝授などを顧客に行う。あるいは、AIチャットツールのように商材の利用自体は容易だが、使い方や利用シーンが幅広いケースであれば、さまざまな活用事例を提示して顧客に合う使い方を想起させる。前者は学習コンテンツの提供、後者は顧客同士が事例共有できる場の提供が有効だ。とくにカスタマーエデュケーションの事例として印象に残ったのは、この学習コンテンツとコミュニティの2つから学んだ顧客が、さらに他社に教えるというサイクルが完成していた点だ。さらに学習プロセスにおいても、データとAIを駆使し、顧客ごとのゴールやアウトカムにあわせ、最適な情報を最適なタイミングで届けているという。これまで両立し得なかった個別対応と業務生産性を両立できていたのは画期的な進化だった。
今回のPulse 2024では、「顧客と自社のアウトカムをいかに効率的に生み出すか」というテーマが多く、意思決定はアウトカムに基づいて行われるのが大前提だった。そのうえで、多様な業務を行うカスタマーサクセスの生産性を、データやデジタルを活用し、いかに高めるかが焦点となった。英語では「スケールさせる」と表現するが、1の工数に対する効果を「1, 10, 100……」と指数関数的に拡大させることを多くの企業が実現しつつある。
今年、最大のテーマとなったのは生成AI活用だが、この成否を握るのはデータにかかっていると言っても過言ではない。今回のカンファレンスに登壇した米国企業は、多様なデータを収集し一元管理したうえで、「AIに活かしている」という先進事例が目立った。日本国内において、カスタマーサクセスを実践する企業が今後AIを活かせるか否かは米国同様に、「膨大なデータを統合整備できるか」が大きな分水嶺となるはずだ。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年7月号 掲載)
2024年06月20日 00時00分 公開
2024年06月20日 00時00分 更新