カスハラを防ぎ、DX化を助ける 苦情マネジメントのススメ 第12回(最終回)

2024年3月号 <カスハラを防ぎ、DX化を助ける 苦情マネジメントのススメ>

澤田哲理/藤木 健

実践編

第12回最終回

顧客にカスハラをさせない!
最大の対策は「優良顧客への育成」

インターネットの発展は消費者の声を大きくし、「SNSに書き込む」などの“脅し”は企業を委縮させ、これがカスハラに発展するケースもある。一方で、デジタル化は、顧客が会社やサービス提供者から評価される仕組みも実現。これによって、企業と顧客は再び対等な関係を築きつつある。自社の顧客がカスハラとならないよう、企業が優良顧客に育てることも対策の1つとなっている。

PROFILE
プライムフォース 代表取締役
澤田哲理
パートナー/CMXディレクター
藤木 健
コールセンターアセスメント・顧客接点CXデザインを手掛けてきた澤田哲理と、クレーム対応組織構築と現場対応力強化を支援してきた藤木 健が共同し、「CMX苦情マネジメントシステム」を設計

 苦情・クレームが発生しない窓口は存在しない。人と人がコミュニケーションする以上、商品・サービスの不良・不備や対応上のミスなどによる苦情・クレームが発生することは避けられない。

 苦情・クレームの発生について、現場を責めてはいけない。「責められたくない」という動機から、苦情・クレームを現場が隠す可能性も高まる。

 苦情・クレームを適切に扱うことは、顧客満足度を向上させ、長期的なビジネスの成功につながる。

 適切な対応とは、応対テクニックを指すわけではない。重要なのは、体制の整備だ。まずは、クレームの切り分けが重要だ。苦情には通常クレームと異常クレームがあり、それぞれとるべきアプローチが異なる。通常クレームは貴重な声として収集、分析しサービスの改善へとつなげる。一方、異常クレームと判断をしたものには、誠心誠意の真摯な対応は通じない。常識を超えた要求や長時間にわたるもの、同じ主張を反復するものなど、ある一線を超えた行動が見られたら、今度は対応スタッフを守り、そして苦情は「専門チーム」で取り扱うべきだ。

 このように、オペレータやスーパーバイザーをカスハラから守り、適切に対応することは、サービス改善につなげるべき通常クレームを余すことなく活かすことにもつながり、従業員の疲弊や離反を防ぎ、応対品質を維持、向上させることにもつながるはずだ。

相互評価の時代が到来!?

 従来、苦情・クレームは、コールセンターなど企業の窓口に直接届き、顧客と企業という1対1のクローズな環境で対応を完結できた。しかし、SNSが普及、苦情・クレームが広く公開された場で行われるケースが増えている。対応を誤れば、多くの人に注目され、多数の批判を生み出す可能性もある。企業は顧客に委縮し、それがカスハラを生み出す要因のひとつにもなっている。

 一方で、企業と顧客の関係性は、さらなるデジタル化によってまた変化しつつある。最近は、顧客が企業を評価、選ぶだけではなく、反対に企業(あるいはサービスの提供者)が顧客(サービスの受益者)を評価する仕組みを持つサービスが増えている。例えば、弁当や食事の宅配サービスでは、顧客の意見やフィードバックがオンラインで共有され、顧客が配達者を選べる仕組みがある。こうしたサービスでは、顧客自身も会社と配達者に評価される。これは、顧客がサービスの内容や範囲を正しく理解し、常識感のある態度で接する必要性を高めている。

 この新しい相互評価の枠組みの中で、顧客の行動が重要な意味を持つようになってきた。顧客の礼儀正しさや協力的な態度は、企業との良好な関係を築くうえで欠かせない。これまでの消費者教育は、消費者=弱者、企業=強者であり、人的・経済的リソースを持つ者という前提条件の下に、消費者保護の仕組みを知り、消費者として賢く行動するというものだった。今でも大前提は変わらないが、消費者としての生活とは、サービスを活用することであり、サービスとは相互作用であることをもっと理解する必要が出てきた。

 「サービスの受益者と提供者は対等である」という感覚、そして対等であるからには、顧客にも適切な行動を求める。サービスや製品をスマートに活用し、サービスを提供するオペレータや店員にも人間の尊厳をもって対応する顧客が、企業から“選ばれる”顧客となる。

図 デジタルによる相互評価時代では、企業と顧客は対等に
図 デジタルによる相互評価時代では、企業と顧客は対等に

エンゲージメントを高める

 顧客の流儀・顧客の礼儀を知る消費者が、自然と育てば苦労はない。企業には顧客を育てる役割も求められる。

 例えば、サービス内容や利用条件の誤解を防ぐよう、わかりやすく伝える必要がある。トラブルを未然に防ぐための確認を行ったり、それでもトラブルが発生した場合にはスムーズに解決に導く。「顧客をカスハラにさせない」ための仕組みづくりも、カスハラ対策の一環だ。

 苦情マネジメントの先にあるのは、企業と顧客とのより深く、継続的な関係を築くことだ。顧客のエンゲージメントを高めるためには、単に顧客満足度やNPS(Net Promoter Score)などの指標を追求するだけでなく、カスハラを防ぐ対策を含めた総合的なアプローチが必要だ。重要なアプローチのひとつに、マナーや礼儀を理解し尊重する「良い顧客」の育成がある。

 今後は、顧客との一体感を強化するため、コミュニティ的なチャネルの設計も必要になるだろう。良いコミュニティでは、メンバー同士のエンゲージメントが自然と高まり、不適切な苦情は自然淘汰されていく。スポーツチームがファンミーティングや試合観戦でファンの一体感を育むように、企業も同様の絆を顧客と築くことが理想だ。

 最終的には、エンゲージメントと苦情マネジメントを包含して、企業と顧客が互いに価値を提供し合い、ともに成長していくパートナーシップを目指していきたい。

2024年02月16日 00時00分 公開

2024年02月16日 00時00分 更新

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