山田ひさのり 

本誌記事 寄稿

カスタマーサクセス&サポート 違いと共通点に見る適切なゴール設定

Trend 寄稿

カスタマーサクセス&サポート
違いと共通点に見る適切なゴール設定

カスタマーサクセスとカスタマーサポート、以前は「アクティブ」か「パッシブ」かと比較をされることが少なくなかった。だが、サポートにおいてもプロアクティブなものは存在し、単純な切り分けで役割の違いを説明することはできない。あえて違う部門として存在しているその根拠はどこにあるのか。本連載では、カスタマーサポートとカスタマーサクセス、その機能と役割の違いを整理する。

山田 ひさのり
Writer
sasket LLC 代表社員
山田 ひさのり
ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。2013年、Sansanに入社。のちにCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、IT企業へのCSアドバイザリーに従事している。『カスタマーサクセス実行戦略』の著者。

 昨今、カスタマーサポートの世界でも『カスタマーサクセス』が注目を集めています。「カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは何ですか?」の質問を受ける機会が増え、この数年で、メンタリティや方法論を超越した両者の本質的な違いを意識するようになりました。

 今回の記事では、サクセスとサポートの違いについて整理します。

 「カスタマーサティスファクション」、つまり顧客満足について調べると、図1のような説明があります。重視されるのは顧客の『状態』です。顧客が満足した状態を追求することが、その目的と言えるでしょう。

図1 顧客満足(カスタマーサティスファクション)とは?

図1 顧客満足(カスタマーサティスファクション)とは?

 次いで、「カスタマーサクセス」についての説明が図2です。重要視されるのは顧客の『アウトカム(成果)』です。顧客のアウトカムとは「そのサービスを使ってなし得たかった何か」のことです。顧客はそのサービスを使うこと自体ではなく、その先のアウトカムを求めています。つまり、「顧客満足」の状態をビジネスゴールにするのではなく、その先の「顧客のアウトカム」に着目するサクセスの考え方は斬新に感じられます。

図2 カスタマーサクセスとは?

図2 カスタマーサクセスとは?

 つまり、サクセスとサポートの違いは「顧客のゴールをどこに定めるか?」がもっとも大きいと言えます。もうひとつの違いが「BtoC」「BtoB」というビジネスモデルの根幹に根ざしたものです。

 一般的に、カスタマーサポートはBtoCビジネスにおける顧客接点のなかで「最後の砦」としての位置づけが強調されています。BtoBでも多数のサポート先進事例はありますが、とくにSaaSモデル(サブスクリプション)においては、サポート領域をサクセス部門が包含、あるいは連携するケースが多いようです。

 私自身、2B領域(いわゆるB2B SaaS)でカスタマーサクセスの経験を積んできましたが、2B領域のほうがサクセスの考えや実現のプラクティスが根付いている印象があります。2C領域は、サクセスの考え方を取り入れ始めた、もしくは取り入れる必要があるのか検討しているフェーズにあります。

なぜ2B領域で先に浸透したのか

 では、なぜ2B領域でサクセスの考え方が先に浸透したのでしょうか。ひとつの「2Bのほうが顧客との直接的な接触機会が多く、よりプロアクティブ(能動的)な支援ができるから」との見方があります。しかし、一方でカスタマーサポート分野の専門家は「とくにBtoBにおいてはプロアクティブな支援はサポート領域でも状況に応じて行われており、サクセス部門のみが行うものではない」と指摘します。つまり、「顧客接触頻度とそれに伴って発生する支援に対する姿勢」は両者を分かつ主要因ではないといえます。歴史的な背景により、両者の進化と現在の立ち位置が異なることは明らかですが、IT業界などで話題にされる「サポートとサクセスの融合」を考えると、別の組織として存在しているメリットや違いを熟知しておかなければ、適切な融合を思考することは適いません。

「2Cはサクセスを計測しにくい」現実

 BtoB領域でカスタマーサクセスの浸透度合いが早い理由は、「2Bは2Cと比較して、顧客のサクセスを計測しやすい」ということにあるのではないでしょうか。前記のとおり、2B領域は顧客と直接会話する機会が多く、自社が提供するサービスにより顧客がサクセスしたか(アウトカムが出たか)を確認しやすい傾向があります。これに対して、2Cビジネスでは大量の顧客を抱えている、あるいは顧客個々の解像度を高めるのが難しく、できたとしてもクラスタ分析にとどまることが多いため、サクセスを個別に把握することが難しい。結果、問い合わせ対応をスケールさせてリーズナブルな顧客満足を実現することが優先されやすいといえます。つまり、2Bは全顧客に「あなたはサクセスしていますか?」と問うことができるのに対して、2Cでは難しい。これこそが2C領域へのサクセス浸透を阻んでいる理由だと言えます。

 また、「顧客のサクセスは一人ひとり異なり、一律に言えない」という見解もあります。これもまた、2Bと2Cの顧客ボリュームの違いから説明することが可能です。本来、顧客が叶えたかったアウトカムとは個別化されたものであり、これを画一的に定義することは不可能です。しかし、2Bのゴールは「顧客の業務フローに組み込まれること」であるため、比較的パターン化できるのです。一方、2Cのサクセスは目的が極めて個別化するため、「サービス提供者がサービスのサクセス(アウトカム)を定義しよう」という発想にすら至らないようです。そこでサポートとしては、「顧客が満足しているか?」という状態に着目し、それをトラックすることを重視しているのです。

 次回は顧客満足だけでは、説明のつかない顧客離反(チャーン)とサクセスのミッションについてまとめます。

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年01月20日 00時00分 更新

おすすめ記事

その他の新着記事