本誌記事 ケーススタディ アマノ

アマノ

スタートアップとは異なる「アマノ流CS」を目指す
顧客接点を再構築、“静かな離反”を防ぐ

勤怠管理やパーキングシステム、大型集塵システムなど幅広い事業を展開するアマノ。カスタマーサクセス推進部は、営業やSEだけでは担いきれない、既存顧客の伴走支援をミッションとしている。営業部門と連携を図りつつ、顧客との信頼関係の構築と、LTV最大化を目指す。“静かな離反”リスクの高まりに気づいたという同社の、顧客接点を強化し、関係性を深める取り組みを取材した。

 1931年に創業した老舗メーカーのアマノ。大きく2つの事業──勤怠管理やパーキングシステムが中核の「時間情報事業」と、大型集塵システムやクラウド管理のロボット洗浄機といった「環境関連事業」を手掛けている。

 2024年に発足した同社のカスタマーサクセス推進部は、このうちの時間情報事業を担当している。なかでも、勤怠管理はオンプレミスからクラウドサービスへの移行期だ。そして、顧客の維持やアップセルといったカスタマーサクセス(CS)業務と親和性も高いことから、この事業から着手した。

 現在、同部門には営業やSE出身者7名が在籍。ミッションは、「既存顧客を維持することに加え、継続利用を通じてLTV(顧客生涯価値)を最大化する」。

 最初の業務は、2025年秋にサポートが終了するオンプレミス製品に対し、クラウドモデルへのリプレースをナビゲートする伴走支援だった。導入企業数約8000社のうち、利用頻度が高く、同社にとっても顧客企業にとっても影響の大きいところから電話でコンタクトを始めた。現状の把握や入れ替え支援を進めるハイタッチ対応を進め、他社製品への乗り換え抑止のみならず、関係性の再構築といった中長期的な支援の方向性も明確になってきた。「全国各地に拠点を設けていますが、営業やSEも以前と比べて人員減の影響もあり、カバーしきれないお客様もいらっしゃいます。顧客接点を強化し、関係性を深めることが私たちの役割だと認識しました」と同部長の市村夏樹氏は説明する。

カスタマーサクセス推進部長 市村夏樹氏
カスタマーサクセス推進部長 市村夏樹氏

オンプレミスを望む顧客が多い
通常のCSが通用しない!

 ヒアリングを続けるなかで、顧客の現状も分かってきた。

 コロナ禍以降、勤怠管理ツールのクラウドへの移行は加速したかに見えたが、「当社のお客様は、オンプレミスを望む傾向が思いのほか強かったです」と市村氏。

 しかし、同社からすると、オンプレミス環境では顧客の利用状況は測りにくい。「オンプレミス製品は、担当SEが設定を行って引渡しが完了します。中小規模の企業の場合、操作の複雑性もないため、その後の問い合わせも少なく、お客様との接点が途絶えがちです。メーカーにとって手離れは良いものの、お客様の使い方や、使い続けているかを正確には把握できません。そこがオンプレミスの弱点であり、“静かな離反”のリスクが高まっていると気づきました」(市村氏)。

 CSの手法にも悩んだという。「CSの手法が確立されているSaaSビジネス向けの手法を応用しても、相違を感じました。そこで、“アマノらしいCSのあり方”を模索し始めました」と市村氏は説明する。

 そこでまず、ミッションに“顧客接点の再構築”を掲げた。“現存の顧客を守り、ロイヤルティを高める”ことに注力。属人化していたフィールド営業のノウハウや、顧客との信頼関係を再定義し、担当者の離職や世代交代によって薄れていく関係性の“補完”を目指している。この取り組みや方針は、代理店ビジネスが主体の生命保険などのコールセンター(カスタマーサポート)──廃業した代理店や外務員に代わって顧客を支援する──の位置づけに近い。「以前は、担当者宛てに電話がかかってきていたのが、今は誰が担当か分からないと言われたりもします。それを補い、営業本部と連携するのが我々の腕の見せ所」と市村氏は語る。

 スタートアップのSaaSベンダーと異なるのは、全国に営業部門(フィールドセールス含む)の支店網があることだ。これは、アマノの大きな強みといえる。元営業部門の市村氏は、「この体制がお客様との信頼関係構築を担ってきました。これを生かすべき」と強調する。そこで、部門との連携を前提に、同部と営業部門の役割分担を明確化した。顧客への初期対応や商談は営業が、導入後の活用支援や継続促進は同部が担う分業体制を整備。顧客情報や課題は相互に共有し、必要に応じて連携しながら顧客接点を強化する仕組みを構築している()。

図 カスタマーサクセス推進部と営業部の協業体制
図 カスタマーサクセス推進部と営業部の協業体制

 「将来の展開として、ユーザーコミュニティづくり、営業部門とのヘルススコアの共有などを実現していきたいです」(市村氏)

 KPIも試行している段階にある。市村氏は、「“コンタクト数”や“顧客維持率”の向上が軸です。当社は、数十年来のお付き合いのお客様も多く、(一定期間内に解約する)離反率はあまり参考になりません。ミッションを考えれば、関係性の厚みを指標に据えて判断したい」と説明する。

 もちろん課題もある。製品が複数あるため「顧客ごとの最適解の違い」は大きい。スタンドアローンでの製品の利用が適している層もいれば、クラウドへの移行が向いている層も存在する。「伴走支援を通してニーズを正しく把握できれば、適切な商品提案や運用方法の再設計ができます。アップ/クロスセルにもつなげられるはず」と市村氏は先を見据える。

 今後は、全社共通のナレッジを活用する仕組み作りにも挑戦する。「CRMのサイクルを再構築し、情報の統合も進めたい」と市村氏は語る。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年11月号 掲載)

2025年10月20日 00時00分 公開

2025年10月20日 00時00分 更新

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