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「THE MODEL」の弊害を防ぐ組織作り

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セールス/開発を兼任しKPIを共有
「THE MODEL」の弊害を防ぐ組織作り

SaaS事業を強化するTOPPANグループは、後発を強みと捉え、他社事例を参考に“最速最短”でカスタマーサクセス実践を目指す。セオリー通りに「THE MODEL」をベースに組織構築する一方、役割ごとの分断を防ぐため、KPIの共有、データの可視化を徹底。また、本質的なサクセスに至る前の成功体験である「スモールWin/クイックWin」を可視化、オンボーディングの成功を確認する仕掛けで利用継続を促している。

ICT開発センター 開発戦略部 課長 原井隆浩氏(左)と同部1T グループリーダー 平野雄大氏
ICT開発センター 開発戦略部 課長 原井隆浩氏(左)と同部1T グループリーダー 平野雄大氏

 TOPPANグループでは、2022年に自動校正サービス「review-it!」の第2弾として、食品パッケージ向けに「review-it! for Package」をリリース。同年から、SaaSビジネスの強化を図っている。

 SaaSビジネスに乗り出した背景には、従来の売り切り型・受託モデルの伸び悩みがある。1つのベストプラクティスを構築し、複数企業に提供できるSaaSモデルにも取り組むことで、新たなターゲットへのアプローチを強化する狙いだ。

 「review-it! for Package」の主なユーザー層は、食品や消費財のメーカーなど。ITに精通しているとは限らず、主な導入目的が「作業効率を上げること」であるため、直感的な操作で使いやすいプロダクトを目指している。

「THE MODEL」を基に組織構築
兼任者を置き組織分断を予防

 SaaSビジネスのノウハウがない、ゼロからの挑戦は、まず新しい組織の構築から始める必要があった。使い続けてもらうことで収益性を高めていくSaaS事業には継続的なサポートを可能にするための組織作りが必須だ()。この段階では、セールスからカスタマーサクセスの一連の業務を分業化した組織モデル「THE MODEL」をベースに構築した。

図 組織構築のアプローチ

図 組織構築ののアプローチ

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 ICT開発センター 開発戦略部 課長の原井隆浩氏は、「SaaSモデルへの参入が後発であったことから、他社の取り組みや事例を徹底研究しました。THE MODELには、業務プロセスが分断しやすい弊害もあることを理解し、あらかじめ、それを防ぐため、カスタマーサクセスチームにセールス出身と開発出身のメンバーを置いて、他チームのKPIも意識するよう促しました」と説明する。“おまえのKPIはおれのKPI”をスローガンに、カスタマーサクセス、セールス、開発など、部署横断で数値を見ることを徹底した。

 組織の分断を防ぐカギが、データ共有だ。Magic Momentが提供している営業支援SaaS『Magic Moment Playbook』を導入。営業プロセスや顧客のアクティビティをデータで可視化し、役割を問わずに状況を把握、共通言語でコミュニケーションできる体制を整えた。

 従来型の個別スクラッチ開発を前提にしたソリューションビジネスは、プロダクトを顧客に合わせる「Fit & Gap型」だったが、SaaS事業では顧客をプロダクトのベストプラクティスに合わせる「Fit to Standard型」となる。Fit & Gap型は、顧客の要望とサービスのギャップをカスタマイズで埋めることにより成立するセールス手法だが、Fit to Standard型は、サービスが掲げる理想的な利用方法を前提に顧客業務を最適化することが重要で、持続的な価値提供と顧客のサクセスを継続的に支援することが必要になる。

 review-it!チームではセールス活動および顧客対応のノウハウをベースに、Fit to Standardの“型化”を進め、商談時の検討進捗から本導入後の活用度まで、顧客状況の定量化・見える化を図った。具体的には、(1)リード獲得から商談化するまでの「ナーチャリング」、(2)ヒアリングしてトライアルを提案する「クオリフィケーション」、(3)トライアルから導入までの「クロージング」、(4)導入初期である「オンボーディング」、(5)運用フェーズである「アダプション・エクスパンション」の各フェーズで、ARR(年次経常収益)の計画達成に必要なリード獲得数をKPIに設定、それを達成するために必要なアクションを定めた。あらたに導入したSaaS事業管理指標とともにPlaybook上で進捗管理し、アクションのヌケ・モレを防いでいる。

スモールWin&クイックWinで
“利用価値”を実感し継続を促す

 review-it! for Packageによる顧客の本質的な“サクセス”は、業務効率化によるROIの創出だ。しかし、その実現までには一定の時間がかかる。そこで、小さい成功体験を実感し、利用価値を判断できるよう、「スモールWin/クイックWin」の可視化に力を入れている。

 ICT開発センター開発戦略部1T グループリーダーの平野雄大氏は、「スモールWinの定義はユーザーによって異なるため、事前のヒアリングが重要」と説明する。

 現在は、オンボーディングが終了したユーザーが増えたことから、習熟度や活用度を目安にヘルススコアを算出、チャーン抑止やアップセルの見極めにつなげている。

 今後は、review-it! for Packageで培ったカスタマーサクセスのノウハウをもとに、SaaS事業拡大を図る。同時にテックタッチツールを活用、業務効率化も進める方針だ。一方で、“型化”を進めてきたカスタマーサクセスの活動を土台に、“顧客ごとに最適化された支援の充実”にも挑戦する。「データやAIを活用し、導入企業に寄り添った提案を行いたい。スタンダードやベストプラクティスには、多様化や変容もある。新たなベストプラクティスも模索したい」(平野氏)。

 後発の強みを生かし、ビジネスの土台を築いた。今後は、積み上げたノウハウを糧に先陣を切り、新たなカスタマーサクセスのあり方を模索する。

(2024年2月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2024年01月20日 00時00分 更新

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